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#24 ウィロー『<コーピングメカニズム>』

服部さんへ

 お、バディ・ガイですか! 服部さんが、こんなゴリゴリのブルースにも興味があるとは、「往復書簡」を始めて以来、何度目かの発見です。
 僕ぐらいの世代のロック・ファンからすると、ジェフ・ベックしかり、クラプトンしかり、今作に参加しているコステロしかり、好きなアーティストの師匠みたいな存在なんですよね、こういう御大って。だから、最敬礼という感じで聴くわけですが、いきなり1曲目で「小僧、ナメんなよ」と言われた気分でした。老獪なピッチングどころか、一球入魂、ど真ん中ストレートで真っ向勝負のブルース・ロック。もう、カッコ良すぎます。
 86歳のようですが、確かに枯れてなんていないし、“いぶし銀”とか“円熟”とかの表現も似合いません。かと言って、“絶倫”などと言うほど脂ぎっていない。こんなイカした爺さんになってみたいもんです。僕としては、時に歌以上に饒舌なギター・ソロがたまりません。本人は「B.B.キングにはかなわない」的なことを言っているようだけど、どうしてどうして。
 ビートルズの「アイヴ・ガッタ・フィーリング」も、なんとも軽やかに、粋に乗りこなしていて、脱帽でございます。シカゴ・ブルースの至宝として、まだまだ暴れてくれることを願うばかりです。

ウィロー『<コーピングメカニズム>』

 延期、再延期を経て8年ぶりに行われた、アヴリル・ラヴィーンの来日公演の盛り上がりは、想像を超えるものだった。っていうか、洋楽のライヴは声出しOKというのが、暗黙の了解!?   まあ、個人的にはすべて自己責任と覚悟して行動しているし、久々にライヴの熱狂を体験できて感慨深かったのだが、正直ちょっとビックリ。ともあれ、10代〜20代前半とおぼしき観客もとても多く、アヴリルが、ポップ・パンクが世代を超えて支持を集めているという事実が、嬉しかった。
 そのアヴリルの再評価と、ポップ・パンクのリヴァイヴァルに、ビリー・アイリッシュやオリヴィア・ロドリゴ、スネイル・メイル らとともに火を点けたのが、米カリフォルニア出身の22歳、ウィローだ。

 前作『レイトリー・アイ・フィール・エヴリシング』でR&Bからポップ・パンクへ大きく舵を切って見せたウィローだが、個人的にはそのちょっと前のジ・アングザイエティ(彼氏のタイラー・コールとのプロジェクト)での歌唱に、妙に心惹かれるものがあった。

 今回の新作『<コーピングメカニズム>』では、完全に血肉となったポップ・パンクを基調にしつつ、ヘヴィ・ロックやゴシック・ロックなどの要素も取り入れ、イヴ・トゥモアをフィーチャーした楽曲「パーフェクトリー・ノット・クロース・トゥ・ミー」では、ダークでエッジーなエレクトロ・サウンドに乗せてスクリームを炸裂させるなど、より進化した姿を披露。本気でロックをやりたかったのだなと、気持ちよく納得させてくれる。
 ちなみに、ウィローをアーティスト名義としている彼女の名は、ウィロー・スミス。そう、あのウィル・スミスの娘だ。しかしもはや、そんな説明など必要ないだろう。
                              鈴木宏和

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