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#30 ウェット・レッグ『ウェット・レッグ』
服部さんへ
ルイ・アームストロングのクリスマス・アルバム、まずはジャケット写真が楽しいですね。今くるよさんですか。どやさ! って、いやいや。
実は僕も、いわゆるクリスマス・アルバムというのが苦手です。クリスマス気分を味わいたいとか思う時も、正直なく、もっと言えばデートでクリスマス・ディナーな〜んていうのが大嫌いで、スポットで「映え映え」言っている連中はさらに嫌いで……おっと失敬。でも、大好きなクリスマス曲はあるんです。ベタですがジョン・レノン&オノ・ヨーコの「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)」と、ザ・ポーグス&カースティ・マッコールの「ニューヨークの夢」です。特に後者は、冬になるとよく聴いています。
さて、サッチモですが、クリスマスクリスマスしていなくて、これはいい作品ですね。ジャズのクリスマス・ソングなどほとんど知らない僕にとっては、クリスマス・ソングも入った親しみやすいオリジナル・アルバムという感じで、改めてその滋味深い歌声に魅せられてしまいました。デュエットがまた、聴きものですね。「I've Got My Love To Keep Me Warm」や「Baby It's Cold Outside」(ライヴ・レコーディング!?)なんかは、ライヴで聴いたら酒がおいしく飲めそう、などと夢想してしまいました。
ジャケットも含めて、サッチモをとても身近な、陽気なお爺ちゃんに感じられる作品でした。楽しかったし、あったかい気持ちになりました。
ウェット・レッグ『ウェット・レッグ』
この時期はオリジナル・アルバムのリリースが少ないので、紹介できなかった新作の中から1枚ピック・アップしたい。いろいろ迷った末に、インパクトを重視して選んだのが、4月にリリースされたウェット・レッグのデビュー作だ。
大学時代からの友人同士で結成された、イギリスはワイト島出身の女性ユニット。ウェット・レッグという名前もパソコンのキーボードを適当に叩いているうちに思いついたそうだし、エゴなんかとは無縁な、どこにでもいそうな自然体も自然体(あるいは天然)のふたりなのだが、いや、だからこそと言うべきか、そのまさに等身大のロックに強烈に惹かれてしまうのだ。なんだこれは? と思ってチェックしているうちに、イギー・ポップやデイヴ
・グロール、ジャック・ホワイトといったロックのツワモノから、ビリー・アイリッシュやオリヴィア・ロドリゴなどの新世代ポップ・アイコンまで、こぞって絶賛していることを知った次第。
それもそのはず、90年代オルタナティヴ・ロックに通じるギター・サウンドは、パンキッシュなのに重くなり過ぎない絶妙なバランス感だし、メロディはどこまでもポップ&キャッチーで、歌詞にはウィットが効いている。「I Don't Wanna Go Out」という曲なんかは、デヴィッド・ボウイ「The Man Who Sold The World」にウィンクしているかのようで、そのあたりのセンスもニクい。
狙った感など皆無な、「やりたいことをやりたいようにやってみましたアルバム」にして、こんなにも楽しくて、カッコ良くて、気持ちがいい作品になっているのだから、逆に恐ろしいというもの。
心配はいらないのだ。悲観などしなくていいのだ。ロックには終わりなんか来ないのだから。脱力気味の歌声(これがまたハマるのだけど)を聴きながら、僕はそう確信したのだった。まあ、こんなことを言っていたら、彼女たちに「どうでもいいじゃん」って笑われそうだけどね。
鈴木宏和
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