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就活生と無職 #34日目


 25日目のnoteにも書いたが、先週の木曜日、一念発起して転職サイトに登録してみた。それ以来、様々な企業を紹介するメールの嵐で、僕のGmailの受信Boxは多忙を極めているようだ。


 自分がいざ転職活動のスタートラインに立ってみて、退職の意向を人事に告げる1か月前の出来事をふと思い出した。


 僕が会社をやめようと思っていることを知らない人事は、僕に対して、海外駐在に関心がある有望な学生がいるから、お茶でもしながら色々話をしてほしいと依頼してきた。そのタイミングでは「実はやめようと思っていて…」なんて言えるはずもなく、安請け合いした結果、辞めたい社員vs入りたい学生という構図の、不思議なOB訪問が始まった。


 まずは自分の経歴を簡単に説明し、その上で学生の志望理由や、会社に入ってやりたいことを聞いていく。もはやこの職場で仕事を続けていく意思を失った僕にとって、彼が語るキラキラした未来は、目を背けたくなるほどに明るいものであった。


 そんな明るさに耐えられなくなった僕は、「君のやりたいことはすべて、うちの会社で実現できるだろう。でも、そのためには能力は勿論のこと、それに耐えうるだけの心の強さが必要なんだ。そして、それを持ち合わせていなかった僕は、今にでもおとなしく退場しようと思っているんだ」と言ってしまおうかと考えた。


 でも、そんなことを言っても、自分の明るい未来を信じてやまない彼に1ミリも伝わらないだろうし、学生のうちにそんなことを理解する必要もないのかもしれない。そして、彼が、心の強さを持ち合わせた人物である可能性もある。なにより、変なことを学生に吹き込んで、会社に迷惑をかけることは、組織で働くサラリーマンの流儀に反するもののようにも思えて、胸の奥底にしまっておいた。


 一方で、僕は、「君ならうまくやれるよ」と言ってあげられる無責任さも、「君はうちに向いてるよ」と言ってあげられるサービス精神ももはや持ち合わせておらず、OB訪問は何とも盛り上がりに欠けたものとなってしまった。


 彼が今も、志望を変えていないかどうかは知らない。あんな社員がいるところには入らないと思われたかもしれない。もし、来年入社したとしても、僕がもう辞めてしまっていることに気づき、やっぱり変な人だったんだな、なんて笑いに付されるのかもしれない。いや、もはや僕も話したことなんて覚えてなどいなくて、彼の頭には、ただただ明るい未来の実現に必要なことだけが記憶されているということかもしれない。



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