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60, 64日目 - 見かけではわからない

(前回の記事)

60日目

 朝、トビ氏、意気揚々と移監されていく。

 と、間髪を入れず新人が入ってくる。強盗致傷で捕まった、チョウさん。ドングリまなこの、ひょうきんな中国人。見かけだけでは、とても「強盗致傷」などと言った犯罪を犯した人には見えない。
 広州から来たらしい。地元ではかなりのワルだったらしく、「出たら遊びにこい。何でもさせてやるぜ」と言ってくれる。もっとも、彼はほとんど日本語ができないので、手振り身振り筆談を交えて、一日がかりのコミュニケーションである。

 さっそく、加藤「裁判長」による判決が下る。初犯ではあるが、「強盗、強姦、と、頭に『ご』のつく犯罪は罪が重いし、まず、刑務所行きだね」との事。
 加藤裁判長からは、引き続き、「刑務所での心得」講座。しかし、僕はどうせ執行猶予が付くし、ボーイ君は強制送還なので刑務所とはまず関わらずに済みそうだし、肝心のチョウさんはほとんど言葉がわからない。裁判長、懸命に手振り身振りを交えてチョウさんに講義を続ける。

 先日来、女子房で暴れていたタイ人女性も移監となった。しかも彼女、留置場で暴れ回ったあげく、署内での暴行で起訴された由。
 看守によると、「とてもそうは見えない、華奢でキレイな子だったよ」

 ここには他にも、イケメンの空き巣や、堂々たる体格のホームレスなど、見かけではわからない人がたくさんいるのである。
 一見フツーの麻薬事犯とか…….。

64日目

 最近、外国人が入ってくる事が多い。そのほとんどは、違法入国、不法滞在である。
 数日前に入ってきたテイさん、たどたどしい日本語と、無邪気な笑顔の中国人である。本人の談では、日本に来て2、3ヶ月という事なのだが、同房の日本人によると、「多分日本に来て5、6年。部屋では日本語もかなりペラペラだよ」との事。どうやら、房を一歩出たとたんに、日本語が話せなくなるようであった。

 このところ動きの激しいここ、宇都宮東署、連日のように、移監が相次いでいる。
 奥さん同伴のジャニー君、今日が公判、明日移監。奥さんの方が一足先に公判、移監となっているので、ダンナの方は即決裁判では、との予想もあったが、移監が決まったという事は、それもないようである。本人は、移監が決まるという事は、一歩前進でもあるので、少しスッキリとした模様であった。

 かくいう僕は、いよいよ初公判を明日に迎えてはいるのだが、未だこれと言って何の実感もわいてこない。
 結局この日まで、マジックマッシュルームに関しての検事調べはなかった。畢竟、追起訴は、第2回公判に持ち越されるので、最低でも2回の公判を経なければ、出られないのである。
 同房の加藤氏によると、今回僕が捕まったのは大麻購入に関してのみなのだが、家宅捜索、通称『ガサ入れ』の際に、他のドラッグの使用具も出ている。それらに関してはドラッグそのものは出ておらず、検査の結果もシロなので起訴はできない。そこで嫌がらせに長引かせているのでは、という事であった。
 なんとなく、納得。


※この手記は2003年に執筆されました。文中の人物名はすべて仮名です。

この記事は故人の遺志により、妹が公開したものです。故人ですのでサポートは不要です。ただ、記事からお察しのとおりろくでもないことばかりやらかして借金を遺して逝ってしまったため、もしも万が一、サポートいただけましたら、借金を肩代わりした妹がきっと喜びます。故人もたぶん喜びます。