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39-41日目 - 「近いうちに再犯を犯すね」

(前回の記事)

39日目

 世間は盆休みの時期。いつもの弁当屋も盆休みに入ったという事で、朝食が4日続いてパン食である。しかも、日を経るごとに固くなっていく。昼夜はさすがに弁当なのだが、昨夜の弁当など、ご飯が黄ばんでいた。しかもしかも、相変わらずオカズに春雨が入っている。


40日目

 このところ徐々に朝目覚める時間が早くなって来た。どうやら、眠剤に耐性ができて来たようである。もともとハルシオンは導入剤で、睡眠持続剤ではないのだが、眠剤を飲む習慣が無かったので、それでも朝まで眠れていた。もう、ダメなようである。


41日目

 天気が悪く、8月だというのに肌寒い。運動時、先日の騒ぎ以来口もきかなくなったトビ氏が突然タバコをくれる。しかも、妙に優しげな声で、僕を名前で呼ぶ。これまでは「あんた」としか呼ばれていなかったので、いささか気味が悪い。一応、善意に「休戦申し入れ」と解釈し、ありがたくタバコを頂戴する。

 夜、万田氏と話をしていて、彼がマイナー系の音楽に詳しい事が判明する。久しぶりに、『赤痢』『イヌ』なんて名前を聞く。しかも、『ゴーバンズ』が札幌時代に出していたLPも持っていると言う。いささかならず、うらやましい。

 と、この頃になると、1日の日記もほんの数行になってくる。ほかに書いてある事と言えば、前夜に見た夢、食事の献立ばかりである。

42日目

 同房の万田氏が、保釈申請を出す。彼は逮捕直後から私選弁護士をつけており、親や弁護士の面会も連日のようにある、実に恵まれた人であった。

 保釈とは、ご存知のように、裁判所から、証拠隠滅、逃亡の恐れなし、余罪なしと判断された場合に、幾ばくかの金を裁判所に納め、仮釈放される制度である。
 起訴が決まった時点で、弁護士から家人に対して「保釈請求しますか?」という問い合わせがあったが、我が妹は言下に「結構です」と答えた由。さすがは、我が妹である。

 また保釈は起訴以降に認められている制度で、どんな金持ちも、起訴されるまでは出る事はできない。毎度引き合いに出して恐縮だが、作家の中島らもが22日間で出て来たのも、逮捕後22日目で起訴されたからである。
 逮捕されるとたいていの場合、逮捕後24時間以内の勾留請求で10日間の勾留が決定、その10日間が過ぎるとさらに10日間の勾留延長が出されるので、つごう22日は勾留される事となる。ちょっとわかりづらいが、初期に24時間勾留されると言う事は、深夜の0時に逮捕されない限り、2日間にまたがってしまうのである。

 保釈金は被告の年収、資産額等から算出される。要は、「払って逃げる」気の起きない程度の金額が算出されるのである。皆の意見を聞くと、僕の場合、200万円くらいではないか、との事であった。ただしこれは、本人の支払い能力その他も加味して判断されるので、一概にはわからないとの事。ちなみに、裁判後1割は取られるが、残りは返金される由。

 僕がここに来て以来、これまでも数人、保釈された人がいたが、いずれも実家は金持ちなのであった。

 また例外なく、残った者からやっかみ半分の「あいつはきっと、近いうちに再犯を犯すね」という判決が下されるのであった。



※この手記は2003年に執筆されました。文中の人物名はすべて仮名です。

この記事は故人の遺志により、妹が公開したものです。故人ですのでサポートは不要です。ただ、記事からお察しのとおりろくでもないことばかりやらかして借金を遺して逝ってしまったため、もしも万が一、サポートいただけましたら、借金を肩代わりした妹がきっと喜びます。故人もたぶん喜びます。