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15日目 - ガラの悪い白木みのる

(前回の記事)

15日目
 日曜祝日の朝食はパンである。また、火曜日もパン食である。昨日が祝日だったので、これで三日連続のパン食である。ガタイはいいが、牛乳で腹を下してしまう刺青氏、物悲しげに「飯代を払っている訳ではないから、しょうがないけど……」と、愚痴る。

 そう言えばここに入って間もなくの頃、「釈放されたあと、1日3000円の計算で、留置代を取られる」と騙されて、えらく焦ったことがあった。次に誰か入って来たら、脅かしてやろう。

 その刺青氏、本日で「接見禁止」が解け、早速に面会がある。続いて、トビ氏も奥さんが面会に来たとかで、一人房に残される。
 ヒマなので、腹筋や腕立て伏せをする。想像以上に、なまっているのがわかる。

 朝の運動後、刑事調べがある。本日は、マジックマッシュルームについて。これは、作家の中島らもも同じ容疑だったのだが、彼は、購入時期が法規制前だったという理由で、不起訴であった。僕も同様である旨を主張するも、荒木刑事は、「中島ナンタラがどうなったかは知らんが、ダメなもんはダメなの」と、譲らない。後日、僕の言い分が正しいことが判明するのだが、それはずうっと、ずうっと、後のことである。
 取り調べは、昼食を挟んで夕方まで続けられた。まだ、妹とも、篠原氏とも連絡は取れていないとのこと。

 昼食時、房に戻ると、面会から戻って来たトビ氏が涙にくれていた。奥さんからこっぴどく怒られた由。

 夕食後突然、検事調べに呼び出される。取り調べは夜の9時半まで続けられ、戻ったら、みんなすでに寝ていた。

16日目
 午前中、初めて「面倒見」があった。(※「面倒見については下記の記事参照)


だらだらと缶コーヒーを飲みながら、雑談。僕が阪神タイガースのファンだとわかると、熱烈な巨人ファンの荒木刑事、なんだか不機嫌になる。

 朗報が一つ。ようやく妹と連絡が取れたとのこと。まだ接見禁止なので、直接の連絡は取れないが、取りあえず3万円ほど送ってもらうよう頼む。これは先輩から、これくらいあれば、勾留期間中の購買に困らぬ、と聞いた金額である。もっとも、ここまでのペースを考えると、おそらくはこの半額程度ですむものと思われる。

 しかしこの面倒見、「これでタバコも買える」と、調子に乗って煙草を吸い過ぎ、途中で気分が悪くなり、早々に房へと戻ってしまう。

 新人さん、といっても、前科はたっぷりの猛者が入ってくる。ガラの悪い白木みのるといった風貌である。
 さっそく、今や最古参の前川氏による「取り調べ」。
 その結果判明した「事実」。
 この白木氏、2年前に傷害で捕まっていたのだが、今回は、その執行猶予期間にまたしても傷害を起こしてしまったとのこと。前回は相手の腰骨を砕き一時は意識不明の重傷を負わせ、今回は包丁を振り回して、相手を怪我させた由。これを聞いた場内からは、やんやの喝采。「イケイケだねぇ」と、感心の声しきり。
 基本的に、ここの人たちには、反省の色などみじんもない。

17日目
 朝から刺青氏、トビ両氏とも取り調べで、終日一人ぼっち。部屋を広々と使えるので、せっせと筋トレに励む。

 判決を明日に迎えた前川氏、朝からそわそわドキドキとしている。誰彼なくつかまえては、「どうしよう、どうしよう」と騒いでいる。少年院から経験済みの猛者も、何やら可愛く見えてくる。

 夕食後の、前川氏と担当看守との会話。
「女の場合も、入る時、身体検査するんですか」
「そりゃ、するよ」
「男パンツ一丁になるけど、女はどうするんすか?」
「女も同じだよ。でも、へそにピアスとかしているときは、パンツの中も調べるよ」
「なんでですか」
「ク×ト×スにピアスしてるかもしれんからな。男も、チ×ポに真珠入れてねぇか聞くべ」
「検査は、部長さんがやるんですか?」
 この場合の「部長」は、以前述べた通り、「巡査部長」のことである。
「いやいや、女の場合は、婦警さんがやるんだよ」
「……なんだ、そうすか。残念ですねぇ」
 のどかである。

 この夜、前川氏を含めて、翌日一気に三人の移監があるというので、恒例の送別会が催された。前川氏ともう一人は、明日が判決で、ほぼ、執行猶予が予想されている。今一人は、すでに実刑判決を受けていて、拘置所の空き待ちの人であった。

(つづく)


※この手記は2003年に執筆されました。文中の人物名はすべて仮名です。

この記事は故人の遺志により、妹が公開したものです。故人ですのでサポートは不要です。ただ、記事からお察しのとおりろくでもないことばかりやらかして借金を遺して逝ってしまったため、もしも万が一、サポートいただけましたら、借金を肩代わりした妹がきっと喜びます。故人もたぶん喜びます。