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57日目 - 叶わぬ願い事ばかり

(前回の記事)

  朝食に納豆が出る。タイ人のボーイ君はさすがに食べられないようであった。
 その、ボーイ君との雑談。
  タイには徴兵制度がある。男子がある年齢になると半数は兵役につくのだが、これがクジ引きで決められるのだそうである。紙クジを引いて、白が出たら免除、赤が出たら2年間の兵役。こんな人生の一大事をクジ引きとは、恐ろしい。
 ちなみにボーイ君は、免除であった由。

 朝の運動時、隣の房の青年が弁護士接見で呼び出される。ものの3分くらいで戻ってくるが、初公判の日取りと、第2回公判の日取りまで決まっていた。2回目は、初公判の1週間後だそうで、もう、先が見えている。
 実にうらやましい。

 久しぶりに弁護士接見がある。来週の初公判を控えての、打ち合わせである。打ち合わせといっても、たいした内容は無く、増田弁護士曰く「これといって争点もないから、まかしといてください。結果はほぼ100%執行猶予だから」まあ、そりゃそうだ。

 打ち合わせがあまりにもあっけなく終わったので、現在追起訴待ちのマジックマッシュルームの件に関しての見通しを聞いてみた。
 彼の意見。
 マジックマッシュルームに関しては、6:4で不起訴となるだろう、ただ、未だもってこの件に関しての検事調べがないのはよくない兆候で、盆休みで他の案件が溜まっていると、追起訴が2回目の公判に持ち越される可能性もある。この留置場にも、「検事が忙しい」というだけでダラダラと追起訴が長引いている人もいるので、予断は許されん。初公判で「追起訴なし」が確定すると、判決公判はたいてい初公判の1週間後なので、最短だと2週間後には出られるかもしれない。ただし、あまり期待は抱かない方がよいだろう、との事であった。

 もう、何の期待も抱いてはいないが、願わくば…….。最近は、叶わぬ願い事ばかり多い。

 留置場に来てから2回目の健康診断。思いのほか、体重には何の変化もない。ここに来てから割とマメに筋トレにも励み、見た目では明らかにお腹がへこんでいるように思っていたのだが、なあんの変化もない。妹が十年一日のように「痩せた」「太った」と騒いでいた気分が、ほんの少しわかったような気がする。努力とは、基本、報われないものである。また、簡単に報われるようでは「努力」とは言えない。なんてね。
 それはさておき、眠剤の増量を頼む。例によって「軍医殿」は、簡単に処方を書いてくれる。頼れる「軍医殿」である。

 おやつの時間、いまや最古参、以前「送別会」で『山谷ブルース』から『雪国』の見事なメドレーを聴かせてくれた通称「組長」が判決公判から帰ってくる。
 どうやら今回は懲役刑がついてしまったらしく、「今度はちいっと、お勤めしてくるわい、グワッハッハ!」と笑う声が聞こえてくる。さすが組長、豪放! と言いたいところだが、さすがにすぐさまトーンダウン。「組長」と言えど、やはり懲役は堪えるようであった。


※この手記は2003年に執筆されました。文中の人物名はすべて仮名です。

この記事は故人の遺志により、妹が公開したものです。故人ですのでサポートは不要です。ただ、記事からお察しのとおりろくでもないことばかりやらかして借金を遺して逝ってしまったため、もしも万が一、サポートいただけましたら、借金を肩代わりした妹がきっと喜びます。故人もたぶん喜びます。