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シロアリはどんな味?実際に食べた感想とシロアリ食についての考察
はじめに
近年、食糧問題・環境問題の解決策として、昆虫食が注目されています。現在、食用昆虫の研究が世界各国の企業や大学などで盛んにおこなわれていて、インターネットで調べてみると、たくさんの種類の昆虫食商品が流通しています。
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出典:「昆虫食・昆虫飼料市場の全貌がわかる『昆虫食カオスマップ 2019』公開」.BUGS GROOVE.https://bugsgroove.com/articles/2
今回はそんな空前の昆虫食ブームに乗っかる形で、食用シロアリを実際に食べてみてその感想をリポートしつつ、食材としてのシロアリの可能性を考察していきたいと思います。
実食
今日食べるのは、某国内企業がタイから輸入販売しているシロアリの一種です。原材料にはNasutitermes属と書いているのですが、これはどうやら熱帯に生息している種類のシロアリのようです。
ちなみに「シロアリ」という名前なのでアリの一種と思うかもしれませんが、シロアリはアリの仲間ではなく、ゴキブリの仲間です(アリはハチ目、シロアリはゴキブリ目に分類されます)。ですが、シロアリはアリと同じ「社会性昆虫」で、「女王アリ」や「働きアリ」といった階層に分かれて、社会的なコロニーを形成しています。
今回食べるものは羽のあるシロアリです。主に結婚飛行のために羽をもって地上に出てきた女王アリとオスアリ(王アリ)だと考えられます。
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出典:「5月の羽アリの特徴と駆除法」.シロアリ駆除119番.https://shiroari119.com/15451104676786
・見た目
アリと聞くと小さな小さなイメージがありますが、測ってみたところ平均的な大きさは1cmを少し超えたくらいで、間近に見ると思ったよりも大粒です。ゴキブリの仲間だけあって、よくみると心なしかフォルムがゴキっぽいです。体もアリらしいくびれのあるフォルムではなく、胴長で薬のカプセルのような形状をしています。
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色は焦げ茶色~黒色です。「シロアリ」という名前なのにこの色なのは驚きかもしれませんが、日本のシロアリでは白っぽい見た目をしているのは働きアリであり、羽アリは黒色とか茶色の見た目をしています。また、このシロアリはおそらく熱帯の種ですが、熱帯にはそもそも白くないシロアリの種がいるので、その種なのかもしれません。
コオロギは脚の形状などがはっきりわかるので気持ち悪さがありましたが、シロアリは小さいし、加工される過程で頭や脚が分離してるのが多いためか、虫としての抵抗感はありません。むしろかわいらしい。ちなみに羽は除去済みだそうです(シロアリの羽はとれやすい)。
・匂い
香ばしい感じの匂いで、クセはあまりありません。木を食べているからか、木材っぽい匂いがします。身近なものに例えるならえんぴつの木の部分の匂いが一番近いかもしれません。捉えようによってはナッツの香りのようにも感じます。実際、シロアリはカシューナッツに近い味だという話もあります。
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コオロギやバッタのクセの強い匂いに比べてあまり抵抗感はありません。とはいえ、昆虫特有の匂いがやはりあります。この匂いは、釣り用の練り餌を薄めたような匂いで、コオロギを食べた時に強く感じました。詳しくは以下の記事に書いています。
やはり昆虫には共通して「昆虫風味」というのがあるのかもしれません。
この共通の匂いは、実際に匂ってみると分かると思います。例えば魚にはいろいろ種類がありますが、みんな魚特有の生臭さをもってますよね。昆虫の匂いもそういう類いのものです。
ただ、魚の生臭さは食材としてのある種の魅力になりえますが、虫の風味のほうはあまり受け入れられないかもしれません...。
・食感
食感はサクサクした感じですが、そこまで硬くありません。たとえるならサクラエビの食感が一番近いかもしれません。サクラエビのあの柔らかめの殻に包まれた身を噛んでいるようです。ただ一匹一匹が小さすぎるためか、噛み応えがほとんどありません。腹の中にははふわふわした木くずのような謎のものが入っていました(多分木くずではないですが)。
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・味
甘味や酸味というような味自体はほとんどありません。わずかに苦みを感じる程度です。コオロギにはうまみが少しあったので、だしに使えそうだと思いましたが、シロアリにはそういう期待は一切できなさそうです。
しかし、(変な話ですが)昆虫食において「味がないこと」は基本的に「高評価」です。そもそも不味いのがデフォルトなので、評価のハードルが低いのです…。何の主張もしないだけましということです。
味はありませんが、舌に残る濃厚な質感があります。これは、ナッツを食べた時の感覚にそっくりです!世間の昆虫の味の感想はあんまりあてにならないので(コオロギ≒エビとか)、シロアリが「ナッツに似ている」という巷の話も期待していませんでしたが、今回は完全に同意します。香りもナッツによく似ています。シロアリを食べた時の感覚は、ナッツをある程度口の中で噛んで細かくなった時の状態にとてもよく似ています。
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この濃厚さはシロアリの脂肪分によるものだと思います。シロアリは虫の中では比較的脂質が多いです。
三橋淳著「虫を食べる人びと」(1997、平凡社)によると、シロアリ(※1)の脂質は乾燥重量比で46.1%です。イナゴは4.0%、近年話題のサバクトビバッタは10.7%ですから、その多さが分かりますね。カシューナッツの脂質は47.6%(※2)ですので、脂質の量はめちゃくちゃ近いです。シロアリとナッツが似ているのもうなずけます。食べた感じは悪くありません。パクパクいけます。
※1 引用元には「シロアリの一種(Macrotermes subhyalinus)」と書かれています。
※2 出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
無味なのでそのままだとすぐに飽きてしまうでしょうが、味付けして調理する素材としては昆虫界トップクラスかもしれません。炒めたらエビのようないい香りがするらしいです。シロアリなら日常の食卓に出てきても全然食べられる気がしますね。
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出典:「シロアリの炒めもの」.アフリック・アフリカ.https://afric-africa.org/japan/africook/cooking/insect/recipe45/
・全体の感想
全体的に見て食材としてのポテンシャルを感じます。見た目・匂い・味ともにクセがなく(というか味がなく)、昆虫食初心者の方が最初に挑戦する虫としておすすめできます。コオロギはのどに硬い破片が残ったような不快感がありましたが、シロアリは虫にしては柔らかめで食べやすかったです。ただ、それ自体の個性はほとんどないので、いろいろ調理してみないとその真価が分かりません。料理はまた挑戦してみたいと思います。
考察:シロアリは普及するのか
・さまざまな利用可能性を秘めたシロアリ
シロアリが食材として有望だと思う話は前述しました。実際シロアリはケニアなどでは昔から食べられています。ケニアにおける昆虫食の状況を調査したあるレポートでは、
エンザロ村の農家各戸聞き取り調査から、農家によっては全食事量(生重量) の1/4-1/3をシロアリが占めていることがあった。 また、小学校 1年生21名全員が週 1回以上夕食あるいは夜食にシロアリを食べていることがわかった。
と書かれています(エンザロ村はケニア西部の村)。しれっと書かれていますが、1/4-1/3ってすさまじい量ですよね。現代の日本人でいう米くらいのレベルじゃないでしょうか。特に農作物の取れない雨季においては、現地の人の貴重なたんぱく源・脂肪源になっているようです。
「Mr.シロアリマン」ことジャスタス氏は、栄養豊富で採取しやすいシロアリに注目し、アフリカの食料不足を救う方法として、シロアリ食の普及に力を尽くされているようです(クラファンをやって100万円以上集めています。すごい)。
確かに、脂質やたんぱく質を多く含み、広い地域に生息しているシロアリは優秀な食材です。しかも、シロアリのエサは枯れ木など、死んだ植物であり、森が存在する限りずっと手に入るものです。木の主成分はセルロースで、これはブドウ糖の複合体ですが、人間は体内で分解することができません(だから段ボールを食べても無意味です)。
ところが、シロアリは腸内に住んでいる原生生物(※3)を利用してセルロースを効率よく分解することができます。地球の表面積の約3割を占める森林を、直接エネルギーにして得られるというのはすごくロマンを感じる話です。シロアリの高度なセルロース分解システムを利用して、木質バイオマスからエタノールの生産する技術の研究もあります(詳しくはこの記事を参照)。
※3 動物、植物、菌類のいずれにも属さない真核生物の総称。
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・でもシロアリは難しい生き物
このように、産業利用のために注目を集めているシロアリではありますが、国内で食用化を目指す試みは今のところあまりありません。個人的には、もっとシロアリが食用として注目されてもいいのではないかと思っています。調べた限りでは、食用化のための研究は存在しますが、実際に食用・飼料用のシロアリの大規模飼育を試みている企業はありません。コオロギやアメリカミズアブ、ミルワーム、イエバエなどの食用化・飼料用化の実験は世界各地で進んでいるにもかかわらず、シロアリにはあまりスポットライトが当たっていないのが現状のようです。
もしかしたら、ほかの昆虫と比べて養殖が難しいのかもしれません。シロアリの防除を行っている企業「シロアリ1番」の記事によると、シロアリを飼うにはカビを生やさずに湿度を上げる必要があるし、ガスは発生するしで、飼育は一筋縄ではいかないようです。
しかし、大阪にある清風高校の生物部では、シロアリの代替飼料としての可能性に着目して、2018年からシロアリを飼育し研究しているようです。しかもその研究のクオリティーが非常に高いです。例えば研究報告の中では、シロアリをエサとして与える実験魚として飼っているゼブラフィッシュの飼育装置についての記述がありますが、
他のインターネットサイトなどに売っているゼブラタンクを購入すると 120 万円程かかるが、我々が作成したゼブラタンクは約 7 万円でできる。
https://www.nakatani-foundation.jp/wp-content/uploads/f9734a00bbc203ddb2dcd3f2d092788c.pdfより引用
と書かれています。なんと費用が17/1以下に抑えられています。一体どうやったんでしょうか。とにかくすごいですね。個人的にはこの研究をとても応援しています(今もやっているのか不明ですが)。
この高校のように、もっと研究するところが増えてほしいと思います。シロアリというと家を荒らす害虫のイメージが非常に強いですが、こういう虫こそ食糧問題・環境問題の解決に一役買って、いつか日の目を見てほしいものです。
参考文献
・三橋淳(1997).『虫を食べる人びと』.平凡社.
・八木繁実・E.Kokwaro・岸田袈裟 ・矢沢盈男(1997).「国際農業研究成果情報.No.5」,pp.19-20.
・清風高等学校生物部(横川 智之・ 髙橋 英眞・奈須 一颯・宮崎 稜也).
「シロアリが日本を救う!? 間伐材を新たな資源に」.『化学と生物』.
Vol. 59, No. 9, 2021,pp.477-481.
・「世界8億人の栄養失調を救う「シロアリ昆虫食」普及プロジェクト」.READYFOR.https://readyfor.jp/projects/shiroariman01,(閲覧日2022-06-10)
・「シロアリから燃料を生成? シロアリが持つ驚異のメカニズムの謎に挑む」.EMIRA.https://readyfor.jp/projects/shiroariman01,(閲覧日2022-06-10)
・「シロアリ飼育は難しい?こんな悩みどころがあります」.シロアリ1番!.https://www.jircas.go.jp/sites/default/files/seika/1997/1997_10_A3_ja.pdf,(閲覧日2022-06-10)
・清風学園生物部のシロアリ研究内容.https://www.nakatani-foundation.jp/wp-content/uploads/f9734a00bbc203ddb2dcd3f2d092788c.pdf
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