令和6年司法試験 行政法 再現答案

令和6年司法試験 行政法 再現答案
作成日 2024年7月17日
構成40分 作成80分
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※実際の答案はもう少し簡潔に表現していたと思いますが、直すのも面倒なのでこのまま公開します。

設問1(1)
1(1)「処分」(行政事件訴訟法3条2項)とは、公権力の主体たる国または地方公共団体の行為のうち、その行為によって国民の権利義務を形成し又はその範囲を直接画定することが法律上認められているものをいう。その判断に当たっては、①公権力性、②直接具体的法効果性から判断する。
(2)ア 本件事業変更認可は、法38条1項を根拠に、Q県がその優越的地位に基づき一方的にするものだから、公権力性が認められる(①充足)。
イ 次に、②直接具体的法効果性について。昭和60年最高裁判決は、土地区画整理組合の設立認可について、強制加入団体の設立行為であることを根拠に処分性を認めているところ、本件の市街地再開発組合でも、認可(法11条条1項)がなされることで、その施行地区内の所有者や借地権者(以下権利者とする)は自動的に組合員になるとされる(法20条1項)。つまり、組合設立認可及びそれと一体としてなされる事業計画認可(法11条1項)によって、組合員という地位が与えられるという点で事業計画認可には法効果がある。一方、事業「変更」認可は、計画の変更であって従来の組合員の地位に変更が生じるものではない。よって、この観点から直ちに直接具体的法効果性を認めることはできない。
 ここで、事業計画認可がなされると、次に公告(法19条1項)がなされることとなる。公告がされた後は、土地所有者は土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築等の建築行為ができなくなる(法66条1項)。本来土地所有者は自らの土地を建築行為含め自由に処分できるにもかかわらず、その地位が制約されているのである。事業計画変更認可についても、上記と同様に公告手続き(法38条2項、19条1項)がされた後は建築行為が制限される(法66条1項)。変更認可は、これまで施行地区に含まれず、よって自由に建築行為ができた者を新たに施行地区に組み込むことでその建築行為を制限し、または従来施行地区内にあって建築行為が制限されていた者を施行地区から外すことで建築行為が自由にできるようになる、という法効果を有する。このように、事業計画変更認可は、建築行為を自由にする権利を制約しあるいは免れさせる法効果を有するといえる。
 また、事業計画認可がなされ、公告がなされる(法11条1項、19条1項)と、土地所有者は、公告から30日以内に、権利変換を希望しない申出ができ(法71条1項)、それをしない場合は権利変換処分(法86条1項)がなされることとなる。権利変換処分とは、再開発対象地区の土地所有者に対しなされる処分であり、その所有権を各自の宅地の価額に応じて再開発ビルが建つ土地の共有持分権へ変換するとともに、当該土地には地上権が設定されその負担を負う一方、当該敷地の共有者には、地上権設定に対する補償として、再開発ビルの区分所有権が与えられることとなる。つまり、土地所有権を共有持分権へ変更し、さらに地上権という権利制約を課した上で、再開発ビルの区分所有権という権利の付与を行うのであり、権利変換処分には直接具体的法効果性がある。対して、権利変換を希望しない旨の申出は、それによって土地所有者は所有権を失い、その対価として一定の金銭を得ることになるので、これも所有権喪失あるいは一定の金銭債権の取得という直接具体的な法効果が認められる。そして、事業計画がなされると公告がなされることは手続き上確実なものであるから、事業計画認可の段階で土地所有者は権利変換を受けるか、拒むかの2択を強いられる地位に立たされることになり、そのどちらを選んでも上記法効果が生じるのである。事業計画変更認可は、そのような事業計画認可のもつ効果範囲を変更するものであり、これによって新たに上記地位に立たされ、あるいは上記地位を免れさせるものであるから、変更認可もまた直接具体的法効果性があるといえる。
 以上より、本件事業計画変更認可には、①建築制限、②権利変換を受け得る地位という2つの法効果があり、直接具体的法効果性が認められる。
2 本件事業計画変更認可は、「処分」に当たる。
設問1(2)
1(1)Dとしては、本件事業計画変更認可に当たって業計画の縦覧及び意見書提出手続(法第16条)をしなかったのは、同条に反すると主張することが考えられる。
(2)Q県知事としては、同手続きをしなかったのは変更が「軽微な変更」(法38条2項カッコ書き)であって、手続きが不要となったと反論するだろう。
 「軽微な変更」に当たる場合として、法施行令が1~5号で列挙している。本件変更は、1~4号には当たらない。公園という公共施設(法2条4号)を新設するので、2号が最も問題になると考えられる。本件変更によってB地区2万平方mからC地区2000平方mが加わるので10%しか面積に変更はないが、2号はあくまで既存施設建築物の設計の変更であって、本件のような新たに公共施設を作る場合は適用対象外である。よって、2号に当たらない。
 次に5号が問題となるが、同号は国交省令を引用し、施設の敷地内の給排水施設や消防用水利施設等の位置の変更の場合を、2号に準じて軽微な変更としている。これは、そのようなインフラ設備の移動は、施行地区の変動に伴って通常必要となるものであり、逐一縦覧手手続きを取るのが手間であるから設けられたのである。本件では、C地区は河川沿いの土地でこれまで空き地として放置されていたのだから、インフラはないと考えられる。ゆえに、5号の場合には当たらない。
(3)よって、「軽微な変更」に当たらないにもかかわらず、縦覧手続き・意見提出手続きをしなかったQ県の措置は違法である。
2(1)第2に、Dとしては、C地区は「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地」(一体性要件という。都計法13条1項13号)に当たらないのに、それに当たることを前提に変更認可したことは違法であると主張する。
(2)ア 市街地再開発事業は都市計画にて施行地区として定められて初めて行うことができるのであり、施行地区として本来定められるべきでない土地が施行地区とされ、それに基づき事業を進めるのは違法となる。そこで、C地区が一体性要件を満たし、施行地区対象として適法化が問題となる。
都市計画に基づく開発は、都市機能を向上させることを目的とするものである(都計法13条1項柱書参照)。都市機能の向上につながるような場合は一体性を肯定すべきである。具体的には、従来から一体として利用されてきた土地又は他の地区との関係で都市機能の向上がもたらされるような土地が、一体性要件を満たす土地であると解する。
イ C地区は空き地のままで放置されてきたのであり、従来から一体として利用されてきたとはいえない。
C地区は河川沿いの細長い形状の空き地であり、河川によってB地区から化率している。地区周辺の人通りも少なく、B地区側へ橋が架かっていないためにB地区側からの人の流入も期待できず、A駅方面へ行くにはかなりの遠回りをしなければならないという状況であった。このことから、C地区を施行地区に組み込んだとしても、B地区との人の行き来が楽になったり、生活が便宜になったり、商流が活発になる等の都市機能向上効果は期待できない。
ウ よって、C地区は一体性要件を満たさない。
(3)一体性要件を満たさないのに、それに当たることを前提にQ県が変更認可をしたのは違法である。
3(1)第3に、DとしてはR市長が「都市の機能の更新に貢献する」(法3条4号)に該当するとしてC地区を施行地区に組み入れた判断に裁量の逸脱・濫用があり違法(行訴法30条)であると主張する。
(2)ア 同号の要件は、「都市機能の更新」といった漠然抽象的な規定の仕方にとどまる。また、市街地再開発事業は、都市全体の均衡の観点から行政庁の技術的・専門的な裁量に委ねられるべきである。ゆえに、同号該当性の判断には要件裁量がある。
 もっとも裁量も無制限ではなく、行政の判断が重要な事実の基礎を欠き、又は社会通念上著しく妥当性を欠く場合には裁量の逸脱・濫用として違法になる。
イ 本件都市計画変更に際しては、B地区組合の組合員であり、かつ、C地区内の宅地を全て所有するEが、R市長やB地区組合の理事らに対し、C地区を本件事業の施行地区に編入するよう働き掛けを行っていた。C地区は上記のとおり不便な位置にあり、所有者EはC地区の活用に長年苦慮していたのである。ここで、「都市機能の更新」に資するかどうかは、都市機能の向上のために再開発事業を行うとの趣旨に鑑み、当該土地を組み入れることが都市機能向上につながるか否かを客観的に判断すべきである。にも関わらずR市長はEの強い働きかけという考慮すべきでない事情を考慮して本件都市計画変更を行っている。
 また、C地区は前述のとおり河川沿いの細長い形状の空き地であり、河川によってB地区から化率している。地区周辺の人通りも少なく、B地区側へ橋が架かっていないためにB地区側からの人の流入も期待できず、A駅方面へ行くにはかなりの遠回りをしなければならないという状況であった。C地区を施行地区に組み込んだとしても、B地区との人の行き来が楽になったりといった都市機能向上に資することがないのは明らかなのに、施行地区に組み入れているので、R市長の判断は重要な事実の基礎を欠く。
ウ 以上より、R市長の判断は重要な事実の基礎を欠き、社会通念上著しく妥当性を欠くので裁量の逸脱濫用がある。
(3)違法なR市長の判断に依拠した本件変更認可は、違法である。
設問2 ※被告がQ県知事だと勘違いしています。
1(1)事業計画変更認可と権利変換処分は別個の処分であるところ、先行処分の違法を後行処分で主張することを認めるのは公定力に反するし、また出訴期間を制限して法律関係の早期安定を図った法の趣旨(行訴法14条1項)に反することから、認められないのが原則である。
(2)しかし、常に違法性の承継を認めないのは国民の実効的権利救済の観点から妥当ではない。そこで、①先行行為と後行行為が同一目的を達成するために行われ、両者が相結合して初めてその効果を発揮するものであり、②先行行為の適否を争うための手続的保障が十分に与えられていない場合に限り、違法性の承継が認められると解する。
(3)ア ①実体的観点について。この点、Q県知事からは変更認可の目的は再開発の実現であるのに対し権利変換の目的は権利者の権利救済であって、両社は目的を異にするとの反論が考えられる。
 しかし、権利変換とは施行地区内の数多の土地所有者の所有権を一括して共有持分権とするものであるが、これは再開発事業を行うにあたり各所有者が権利を主張したのでは円滑な再開発の実現が妨げられることから、各自の所有権を取得し全体としてまとめたものだと考えられる。権利変換を希望しない申し出も、金銭を代価として所有権を放棄させることで、上述のような一体的な再開発の円滑推進を図るものである。そうであれば、権利変換手続きは再開発の円滑な実現に資するためのものとして同一目的であるといえる。
 また、Q県知事からは権利変換を希望しないこともできる以上、権利変換が確実になされるわけでなく、両者は結合関係にないとの反論が考えられる。しかし、変更認可、公告、権利変換を受けるか否の判断は一連の手続きを構成しているが、権利変換を希望しない申し出をしない限り自動的に権利変換されることとなり(71条1項、86条)、その意味で原則として権利変換がされることを法は予定しているものと考えられ、両者は一連の結合関係にあるといえる。
 以上から、変更認可と権利変換は一連の手続きであって、両者が合わさって再開発の円滑な実現という効果を発生させるので、①を満たす。
イ Q県知事からは変更認可の公告によってDはC地区が施行地区に入ることを認識しており、その時点で争訟の提起をできたのにしなかった。それはDが自らの権利床に変動がないと誤解していたせいであるが、その誤解はDの過失であり、手続き保障はその時点で十分なのだから、②を満たさないとの反論が考えられる。
 しかし、Dが受けたのは公告であって公示性が低い。また、公示されたのは変更内容にすぎない。すなわち、C地区が施行地区に組み入れられたとの内容である(法施行規則11条2号)。Dは事業計画変更の縦覧・意見提出手続きを受けていないところ、事業計画には施行地区のほか、設計の概要、事業施行期間、資金計画等の情報が載せられ、設計図には再開発ビルの図面や公園等の公共施設の位置・形状を示す図面があり、上記公告とはよりも情報が詳しい。縦覧・意見提出手続きが実行されていれば、Dは誤解をしなかった可能性が高い。そして、権利変更計画の縦覧手続きによって初めて自らの権利床の減少に気づいたのである。そうであれば、変更認可公告をもって十分な手続き保障があったとは言えない。
 よって、②も満たす。
2 よって、本件事業計画変更認可の違法性を本件取消訴訟において主張できる。


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