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浜松の椿姫観音堂とオペラ「椿姫」

ちょっと遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。本年もなにとぞよろしくおねがいします。

一昨年の年末の話ですが、浜松へ旅行へ行ってきました。その滞在中に東海道新幹線に停電のトラブルが生じて大幅なダイヤの乱れが発生、浜松駅でも大混乱が生じていました。そんな様子を見ながらわたしはふと…

「えっ?東海道新幹線が停まってる?もしかして静岡県内でのぞみが停まっているの?」

と一発ジョークが浮かんだのですが、さすがにマズいかなと思って言わずにおきました…って今言っちゃった。(あくまでジョークです。静岡県民の方々😊)

そんなわけで下の画像は浜松市内にある椿姫観音堂。

サイドから見たもの


路地の一角にある、といった感じの小さなお堂なのですが、地元の人たちから大事にされているのがよくわかるとてもよい雰囲気をしています。

昨年の大河ドラマの影響で多少なりとも話題になったようで、わたくしよりも詳しい人はたくさんいると思われますのでこの観音堂の由来に関しては現地の説明で。下の画像。ちょっと見づらいですが。

通常は非公開ですがその名も「椿姫観音」という観音像もあります。

「祈願石」なるものも。

浜松城の前身でもある引馬城は若き日の豊臣秀吉とも縁があったはず。

この悲劇のヒロインとも言うべきお田鶴の方は家康の正室、築山殿と姻戚関係があったらしく、説明にあるようにお田鶴と侍女たちの菩提を弔うために椿の木を植えたそうです。

まさにその築山殿自身がその十数年後に悲劇のヒロインになろうとは当時は誰も思ってもいなかったでしょう。しかも家康が浜松城に居を移した後に。まさかお田鶴の方の呪い?

椿の花は歌比丘尼と呼ばれる仏画の絵解きをして全国各地を教導してまわった尼僧侶たち、とくに熊野系の歌比丘尼たちが聖なる木/花として広めてまわったと言われています。現在でもお寺の境内に椿が植えられているのを見ることができますが、もともとの自生地ではない東北地方にも椿が植えられている寺院もあったりしていかに彼女たちが広い範囲で活動していたかがうかがえます。

お田鶴の死をいたんで椿の木を植えたという築山殿の行為はそんな椿の「聖なる木/花」としての意味もこめられていたのでしょう。

ちなみにツルとコウノトリは見た目が良く似ておりますが、かつてはどちらも「ツル」と呼ばれることもあり、現在のツルは田んぼでよく見かけることから「田鶴(タヅ)」と呼ばれていた。さらには万葉集の時代には「鶴」と書いて「タヅ」と読んでいた…

野生のコウノトリが事実上の絶滅状態となっている(そして復活の試みが行われている)今、これらは「失われた日本語」ということになるのでしょうか。

そして椿姫といえば、どうしてもヴェルディのオペラ作品を連想せずにはいられません。作品タイトルはそのままズバリ「椿姫」。

このオペラ、原題は「La traviata(道を踏み外した女性)」。「椿姫」の邦題は原作のデュマ・フィスの邦題をそのまま採用したもの。そのこともあってかずいぶん前から「ふさわしくない」という批判の声があったと記憶しています。そして近年の上演では原題そのままをカタカナで使用するケースも増えています。

でも近年のカタカナによる「なんちゃって英語」が乱用されている状況を考えると原題を尊重するという名目でカタカナ表記することが本当によいことなのか?という気もします。「ラ・トラヴィアータ」と言われてもほとんどの人は意味がわからないでしょうし、わからないまま「なんとなくわかった」ような気がして終わってしまいかねません。

椿の花は聖なる花として面を持っている一方でちょっと不吉な花としての面もあります。美しく咲き誇っていたかと思うと突然「ボタっ」と落ちる。花が「散る」ではなく「落ちる」イメージ。そのため「首になる」イメージと結びつけられたりしています。

桜とはまったく違った、美しいイメージがともなわない形でいきなり花の盛りが終わる。そのため最後の様子を目の当たりにする際に美しいイメージに目がくらまされてしまうこともなくありのままの様子を見届けることができる。

そんな椿の花はこの戦国時代の椿姫にも、オペラの椿姫にも相応しいように思えるのですがいかがでしょうか。

もう現時点でオペラの方は「椿姫のタイトルはできるだけ使わない」という方向が定まってしまっている印象で、おそらく今後も使われなくなる状況が進んでいくと思いますが、ちょっと意を唱えておきたい。

オペラ「椿姫」のヒロイン、ヴィオレッタはもともとは「グリゼット(Grisette)」と呼ばれる境遇で暮らしていました。これは表向きは洗濯屋や洋服店で働いて生計を立てているものの、しばしば売春行為をしている女性のこと。そこから彼女は高級娼婦へと上り詰めていくことになります。

このグリゼットは日本では江戸時代の「茶屋女」がもっとも近いでしょうか。また椿を聖なる花として各地に広めていった歌比丘尼たちも室町末期から江戸初期あたりになると売春行為を行うようになったと言われます。

このあたり洋の東西を問わず「La traviata(道を踏み外した女性)」の悲哀みたいなものを感じ取れそうです。そして椿の花のイメージがついてまわる。この点からもやはりオペラのタイトルから「椿」を外すべきではない、と主張したい。

上の画像のCDはおそらく定番中の定番の1枚、トゥリオ・セラフィン指揮ローマ歌劇場管弦楽団の録音。ヴィオレッタ役はヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルス。素晴らしい内容だと思います。


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