九州のバイオマス活用と持続可能なまちづくり ― 福岡県みやま市の事例からー

一般社団法人日本有機資源協会 十川 有子 

東日本大震災以降のパラダイムシフト
 バイオマスという言葉が一般に普及し始めたのは、東日本大震災以降ではないかと思う。私の住む東京の街は帰宅難民であふれ、震災後も少ない日数ではあったが計画停電が実施された。福島の事故から、エネルギーを生み出すものはなにか、エネルギーを消費することとは一体どのような意味があるのか、初めて考えた人々も多いはずだ。近年のパラダイムシフトは、東日本大震災とコロナ禍で起きたと思うが、震災前には、エネルギーや資源が無尽蔵に身近にあるものと思っていた自分を恥じたものである。

九州のバイオマス産業都市
 バイオマスとは動植物由来の資源のことで、太陽光や風力、水力と同様、エネルギーを生み出す再生可能エネルギー(以下、再エネ)の資源となる。また特にバイオマスの活用とは、カーボンニュートラルという考えが基礎にある。例えば、山の木を伐り家を建てる、年月が経ちその家を取り壊し、廃木材を燃やして電気や熱を生み出してエネルギーを作る。廃木材を燃やした時に排出されるCO2は、また木を植えれば、木が成長の過程でCO2を吸収し、大気中のCO2の増減に影響を与えないこと、これをカーボンニュートラルと呼ぶ。2020年に菅総理大臣が宣言したのは、2050年にはCO2の増減がない状態をキープできることを目指そうという宣言である。この目標を達成するためには、人間の社会活動から排出されるあらゆるCO2を徹底的に減少させなければならない。またエネルギー資源としては、バイオマスや太陽光、風力、水力、地熱など従来から使用されている再エネ資源のみならず、現在積極的に技術開発されている水素や微細藻類の活用、さらに新たな再エネ資源の開発が必要となる。総力戦で取り組まなければ達成できない目標である。
 九州ではこのバイオマスの活用がとても盛んだ。農林水産省はじめ内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省、環境省の7府省連携プロジェクトのバイオマス産業都市は、2021年11月時点では、全国の94市町村がバイオマス産業都市として認定されている。その中で、九州地域では13市町が認定されている。

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ここでは、「みゅぜぶらん八女」がある八女市のお隣、みやま市の取組の一部をご紹介したい。

福岡県みやま市
 福岡県みやま市は、バイオマス産業都市に2014年に認定された。バイオマス産業都市に認定されるには、その地域にあるバイオマスの賦存量を調査し、多種多様なバイオマスの種類をいくつも組み合わせて、循環型地域社会を作り上げることが必要だ。みやま市では、地域資源循環の中核を担う施設として、バイオマスセンター「ルフラン」を2018年から稼働している。

写真1 ルフランのメタン発酵槽

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バイオマスセンター「ルフラン」
 バイオマスセンター「ルフラン」とは、みやま市が事業主体の食品廃棄物を原料としたメタン発酵プラントである。施設は閉校した旧山川南部小学校の跡地に建設されている。

写真2 旧小学校の名残

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 メタン発酵とは、原料(食品廃棄物、下水汚泥、し尿、家畜ふん尿等の有機性廃棄物)を特定の温度で嫌気性発酵からメタンガスを発生させ、そのメタンガスを使ったバイオガス発電や、発電時の排熱を有効利用する、再生可能エネルギーの一つの手法である。このメタン発酵バイオガス発電は、近年では廃棄物の有効利用や地域資源循環の観点から、多くの地域で導入が進んでいる再エネである。ルフランでは、みやま市の地域住民から排出される生ごみを、週2回回収しメタン発酵を行っている。10世帯に1個の目安で生ごみ収集桶を設置し、その専用生ごみ収集桶で回収される仕組みである。ルフランではメタンガスで発電された電気は、施設の場内で使用されている。生ごみを焼却せずメタン発酵させるメリットはいくつもあるが、生ごみの資源化によって、焼却炉の建設費抑制やごみ処理費の経費削減等により大幅なコストダウンが見込めること、またメタン発酵で発生する発酵残さを農地に肥料として利用できることが大きなメリットである。
 メタン発酵の副産物である消化液はバイオ液肥とも呼ばれるが、肥料成分である窒素、リン、カリウムを含むため、農地に散布し適切に耕運することで有効な肥料として利用できる。みやま市では、このバイオ液肥の有効活用を積極的に行い、散布スケジュールを農家や天候等に合わせて組んでいる。

写真3 バイオ液肥の散布のようす

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地域住民との合意形成から
 みやま市の事例のように家庭から出る生ごみを原料としたメタン発酵では、地域住民によるごみの分別作業が不可欠である。玉ねぎやみかんの皮、骨、卵殻、貝殻、ビニール小袋等は発酵不適物であり、それらを生ごみに入れないことが必要だ。みやま市では、メタン発酵施設の建設に合わせ、149の行政区を6班にわけ、合計200か所を1年間かけて説明をして回った。このような地道で丁寧な合意形成が、結果的に施設の安定的な運営に繋がっている。
 施設と地域との繋がりはそれだけではない。ルフランは、旧山川南部小学校の跡地に建設されたが、校舎はそのまま活用されており、みやま市役所の一部機能や、カフェが併設され、近隣住民だけでなく国道を急ぐ人々に憩いの場が提供されている。ルフランカフェでは、日替わりで様々なお店が入り、毎日異なるメニューが楽しめる。ルフランカフェで営業することは、シェフやお店の店長にとっては、自分の店舗以外での顧客獲得に繋がり、店側にとってはチャンス獲得の場となっている。

写真4 筆者の注文した手作りハンバーガー

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Refrainと、みやまの4R
 ルフランとはフランス語のrefrain(詩や音楽など同じ句で曲節を繰り返すこと)から取られている。
 廃棄物としての生ごみを資源として有効活用し、地域資源循環のまちづくりの拠点としてイメージされたネーミングだそうだ。フランス語なので、「リフレイン」ではなく、「ルフラン」と読む。
 旧校舎の中にある、みやま市役所環境衛生課の壁には「みやまの4R」というキャッチフレーズが貼られていた。
<みやまの4R>
・Relax     (お牧山と一本桜に見守られた校舎で自分らしい時間 )
・Recycle   (みやまの資源循環の恵みを学び、味わい、実らせる)
・Rareness  (日本唯一の循環施設)
・Reasonable (220円からのチャレンジで世界を広げる)

 みやま市でも過疎化や近年連続して起きている豪雨災害等、九州の他の地域と同じ課題を抱えている。一方で、廃棄物を資源化することで、廃棄物処理費のコストダウン、ルフランによる雇用創出、バイオ液肥から作られる農産物の高付加価値化と、多方面から良い循環が生み出され、ルフラン稼働以降は全国からの視察や見学の申し込みがとても多くあるそうだ。
 みやまの4Rでは、一番上にRelaxと書かれていた。バイオマス活用、持続可能なまちづくり、地域資源の循環、それらはとても重要なことだが、みやま市ではRelaxして身近な人々との繋がりを大切にし、自分らしい時間を過ごせる。そのようなまちづくりは、頭でっかちに考えがちな私たちに多くのことを教えてくれる。





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