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back numberを聴く男の人とはお付き合いできません。

back numberを聴く男の人とは付き合えない。


私はback numberの大ファンだ。
7年以上好きだし、全曲好きだし、ラジオも聴いてたし、シングルもアルバムも新譜は必ずCDで買うし、ファンクラブゴールド会員だし、ライブも毎年行くし、タワレコのback numberカフェも行ったし、ほぼ毎日聴く。

でも、彼氏にするなら、back numberに全然詳しくない人がいい。たまにカップルでおそろいのTシャツを着てライブに来ている人を見かけるけれど、全く1ミリも羨ましいと思わない。


私にとって、back numberは青春のすべてで、そしてどんなに悶えても心臓を掻きむしっても離してくれない苦しみを呼び起こす、呪いみたいなものだ。
必ず、思い出す。笑うような柔らかい目を。
そこに、他の誰かが入る余地はない。

私は、今日もまた聴いている。

✳︎

私がback numberに出逢ったのは、中学生のときだ。「思い出せなくなるその日まで」という曲がきっかけだった。

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世界で1番大事な人がいなくなっても日々は続いてく
思い出せなくなるその日まで
何をして何を見て息をしていよう

歌い出しを聴いて、頭を殴られるくらいの衝撃を受けた。私が当時知っていたすべての歌のなかで、一番心というものに近いと思った。

そのとき読んでいた国語の教材で、「分化する」という言葉を知ったことを思い出した。名前をつけることで、その存在があること自体を確かめることができる。これだ、と思った。私のなかにあるようなないような、靄みたいな「未分化」の感情のうちのひとつに名前をつけてもらえたような感覚が、確かにこのとき私にはあったのだ。
(もちろんこの当時私は息もできなくなるほどの失恋などしていなかったのだが、その時はなぜか「知っている」と思った)

書いてはいけないなんて、誰も言っていない。
でも、誰も書いてこなかった。 
そんな心の奥深くに潜っていかなければ届かないような言葉を、この人は書いてしまえるのだ。

たった一曲を聴いただけでそう確信してしまった私は、そのとき出ていたすべての楽曲を聴きあさり、あっという間に夢中になった。


そしてそれから2年ほど経って、確かback numberが「高嶺の花子さん」をリリースして、私がほら見たことか!この人らは天才だ!と一人で鼻息荒くしていた頃だったと思う。

中学三年生の授業で「好きなものをプレゼンする」という時間があった。当然のごとく、私はback numberを選んだ。今では信じられないが、その当時クラスでback numberを知っているのは私の他に2人。しかもそれも2曲ほど知っていて「歌詞いいよね」と言ってくれる程度だったのだ。私とクラスのback number熱の温度差たるや。

しかし私は昔からプレゼンの類いは得意分野であり、おまけに溢れんばかりの愛と絶対に売れるバンドだ!という確信を持って、後に職員室で話題になるほど熱量のあるプレゼンでback numberを語った。

すると、4歳からの幼馴染みであり、当時同じクラスで隣の席に座っていて、そして私が好きだった男の子がback numberにハマったと言い出してきてくれたのだ。なんでも私がプレゼンしたその日のうちにアルバムを全部借りてきて聴いたのだそうだ。本気で泣くかと思った。

それから毎日のように、彼とback numberの話で盛り上がった。私は全部好きだが特に「春を歌にして」「幸せ」のような、初期の失恋曲が好きで、彼は「高嶺の花子さん」「そのドレスちょっと待った」みたいなポップなサウンドの曲が好きだった。悲しすぎる曲はあんまり好きじゃない、と笑う彼が私は好きだった。それがいいんじゃん分かってないなあ、とか笑いながら、すっごい楽しい、とずっと思っていた。そういう言い合いが本当に心地よかった。
アルバム「ラブストーリー」を買って聴いたとき、「光の街」という曲に、これ好きそう、と思った。次の日聞いてみたらやっぱり一番好きだと言っていて、彼の好みを理解できていた自分に舞い上がった。そしてその曲を私も一番好きだと思ったことにも、また舞い上がった。

シングル「ヒロイン」が発売された頃から、ようやくクラスの他の子たちもback numberの曲の良さに気づき始め、「CD貸して」などと言ってくるようになった。もちろん貸したが、内心「もう入れてあげない」と思っていた。あんなに布教したい一心でプレゼンしたのに、今は彼と二人占めしたい。私に便乗して「ようやく気づいたか」とかドヤ顔してる彼を独り占めしたい。

そんなふうに思っていたけれど、月日が流れるのはあっという間で、卒業を迎え、別々の高校に進学する私と彼は、出会ってから初めて離れることになった。
ベタだけれど私は卒業のタイミングで彼に「好きだ」と言った。彼はありがとう、と言って困ったように笑った。付き合って欲しい、と言った私の言葉には、ごめん友達でいたい、とすぐに答えた。

振られたことよりも、その後もう会えないことが苦しかった。家も結構近いのに、偶然会えることもなかった。「風の強い日」を聴きながら、学校沿いの土手を毎日のように走った。そのときの春の生ぬるい風を、今もよく覚えている。

公園の角の桜の木が綺麗だねって
あなたに言いたくなる
ああそうか もう会えないんだった

いつもこの同じフレーズで泣いた。


高校時代は、渇いた時間だった。

もちろん楽しいことも沢山あったし、勉強も部活も頑張っていた。友達も沢山いたし、かっこいいなと思った先輩もいた。

でも、彼はいなかった。

彼以上に心が振れる出逢いなどひとつもなく、あの時以上に心が踊る日々など1日もなく、気がついたら2年が過ぎていた。「クリスマスソング」が大ヒットしback numberは一躍大人気アーティストになり、彼らのことを知らない人はいなくなった。私にはそれが、すこし寂しかった。
それでも毎日通学電車ではback numberを聴いた。「思い出せなくなるその日まで」の冒頭は、私のことだ、とその時思った。

そんな折、私はback number All Our Yesterdays Tour 2017の横浜アリーナに当選した。 
ベストアルバム「アンコール」を引っさげた全国ツアーだ。私は何も考えず2枚で応募していたことを思い出した。

いや、何も考えていなかったというのは嘘だ。その頃にはback numberファンも周りに何人かいて、その中の誰かは来てくれるだろうと思いながら、心のどこかで(彼が来てくれるのではないか)と思って2枚にした。

そして彼は本当に、来てくれたのだ。
高校3年生になる前の春休み最終日。
私は、彼と待ち合わせて横浜アリーナに来ていた。
その日のことは、もうはじめから終わりまで何もかも鮮明に思い出せる。
駅で待ち合わせたときの、駆け寄ってきた彼の表情。電車のナビを私に任せて勝手に寝だした横顔。途中で寄ったコンビニでおにぎりの具を迷い、「優柔不断でごめん」と照れた顔。並んだ時の高い肩。ココアを冷ます猫舌。雨風で私の傘が壊れて、「仕方ないな」と笑って入れてくれた大きな黒い傘。何歌うかなあ、と嬉しそうな後ろ姿。「そのドレスちょっと待った」の歌詞の話をして、男なんてみんなそんな感じだよ、と言ったときの笑ったような瞳。

会いたかった。2年ぶりに、世界で1番大事な人に会えた。ちゃんと、息ができると思った。
彼は、依与吏さんの書く主人公に似てるな、とそのときふと思った。

ライブは、「はなびら」からはじまった。「高嶺の花子さん」、「003」、「そのドレスちょっと待った」と彼の好きだった曲つづきだなあと思ってたら、彼がものすごく蒸気した顔で振り向いたので噴き出してしまった。
ふたりで盛り上がった曲も、ひとりで泣きながら聴いた曲も、沢山歌ってくれた。彼とふたりでベストアルバムのライブに来ているということに私は運命めいたものすら感じた。ステージで歌う依与吏さんは、泣き出しそうな声で、揺るぎない強い声で、情けない男の声で、ずるい女の声で、愛おしそうな声で、色々な人生を矛盾なく続けて歌い上げた。

「また、迎えに来るからな!!!!!スーパースターになったら!!!!」
ライブの定番、フィナーレの「スーパースターになったら」のコールで依与吏さんはそう叫ぶ。その言葉に私も彼もアリーナ全部が共鳴し、熱狂で答えた。もうスーパースターなのに。まだ、先をいくんだな、どこまでも着いていくから、と叫んだ。

彼もそのフィナーレに圧倒されたようで、帰り道はずっとその話をしていた。私も、熱くセトリについて語りながら、終わってしまう、と焦っていた。
私の家の方まで来てくれて、彼は優しく笑ってじゃあ、おやすみ、と言った。私は、これでもう会えなくなるのを分かっていて、それでも、またね、と言った。彼の後ろ姿に、もう一度好きだと言いたかったけれど、あの時と同じ困った笑顔を見るのが怖くて、何も言えなかった。


高校3年間で彼に会えたのは、その時だけだった。
勇気を出してその夏に夏祭りに誘ったら、「好きな子がいるからごめん」と言われてしまった。

次の年の東京ドームも、その次の年のNO MAGIC TOURも、私は彼を誘えなかった。女の子の友達と2人で観に行き、叫んで、飛んで、そして泣いた。

ライブに行くと、あの春が蘇る。嬉しそうな顔が蘇る。「誘ってくれて嬉しかった」と、言ってくれたことが蘇る。
曲を聴くと、あの頃が蘇る。「光の街」の2番Aメロは神だ、「ネタンデルタール人」めっちゃ好き、「はなびら」は最強、「春を歌にして」とか悲しすぎる。そう言って笑ってた彼が蘇る。

最近のシングルはタイアップが多く、「瞬き」「オールドファッション」など幸せな歌も増えた。もちろんどれも最高だが、私はどこかで置いていかれたような気がしていた。私の空虚に寄り添って慰めてくれた彼らも、私の元からいなくなっていく気がした。


だけど、NO MAGIC TOURで、依与吏さんは言ってくれた。「どうしようもなく落ち込んだ日に、聴きたい曲なんかなかった。どれも俺の事じゃない、他人事だって思ってた。だから自分で書く。日本一のバンドになる。心の深くまで潜って書いた詞で、日本一上手くいかない日にも寄り添えるバンドになる。」

初めて聴いたあの日に感じたことを、言葉にしてくれた。私がずっと支えにしてきたものを、私がこれからもそうあってほしいと願っていたことを、もしかしてもう変わっていくのではないかと恐れていたことを、言葉にしてくれた。

本当のことをいえば、まだ、忘れられない。

出逢って16年、恋をして6年、離れて5年、あのライブの日から2年半。


私の真ん中には、まだ、彼がいる。

イヤフォンから聴こえてくるback numberが歌う、「君」も「あなた」も、思い浮かべる顔はひとつだけ。


それでも、変わっていけると思った。

価値を問い続け、変化しながら、それでも1番真ん中はあの頃と変わらないままでback numberが傍にいてくれるから。ずっと傍にいるために走り続けてくれるから。そう信じられるから。

back numberを聴く人とは付き合えない。
この先誰かを好きになっても、誰かと結婚しても、back numberだけは、私にとっては彼へのラブソングだ。1番大切な人に選ばれなかった苦しさや、もう二度と戻れない懐かしさが何度も胸を反芻するけれど、それでも私は、今日も彼らの曲を聴く。


#いまから推しのアーティスト語らせて

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