◆DAY36 上質な香りをまとう贅沢

＊2019年6月20日＊

LOCAのミロンガに行く前に、路子先生と一緒に香水を買いにいった。向かった先は六本木のグランドハイアットにある「Fueguia フエギア」。路子先生が愛用しているブエノスアイレス発のフレグランスメゾンである。タンゴを踊るようになってからお気に入りの香水をなにか見つけたくて、香水ジプシーだった私を路子先生がナビゲートしてくれた。

グランドハイアットのロビーは、なんともいえない高貴な芳香に包まれていた。フエギアの店舗に近づくにつれその香りは濃厚になる。ううーん、想像以上に高級感あふれるお店。一人では入りにくいよぅ……路子先生がいてくれてよかった。

100種類近くの香水のボトルがずらりと並ぶ幻想的な空間に気圧されモゴモゴしていると、店員さんが、「普段どんなものを着けられていますか？」などと質問してくれる。

これまで、あまり香りというものをまとってこなかった。ワイン漬けの生活を送っていると、香水をつけるのが悪に感じるからだ。ワインの試飲会やワイン会で香りがきついと、いくらおしゃれな人でも、その瞬間"KY"認定されてしまう。

それでも「香水をつけない女に未来はない」とシャネルの言葉に影響を受けて、香りに興味を持ったのが20代後半。
はじめて自分でちゃんとしたお店で買ったのが、ラルチザン パフュームの、"エテ アン ドゥース”。 “ひと夏の夕暮れ”という詩的なネーミングに惹かれた。

「 沈みゆく太陽、ピンクとブルーの夕焼け空、煌めく宵の明星。 涼しい風に吹かれ、全てが澄みわたる夜の手前、 儚い夢のような時間を描いたピュアな香り」。夏の日差しの余韻。オレンジの花やリンデンにほんのりホワイトムスクが香る、爽やかで柔らかな香り。オードトワレなのでかなり軽やか。

（今は寝るときに着けることが多い）

それからもう一つのお気に入りは、シャネルの”CHANCE”。路子先生からのプレゼントだ。「季節で使い分けてね」とボディローションとスプレータイプを頂いた。
”CHANCE”、このネーミングにも由来がある。公式サイトから引用すると、「その瞬間を逃してしまったら、二度と手に入れることができないチャンス、いつ訪れるかわからない、予測することのできない瞬間、でもそのチャンスをつかむことができれば不可能なことはない。マドモアゼル シャネルは、いつでもチャンスを作るのは自分自身で、真のチャンスは自分の中にあることを知っていました」 。

フローラル強めで、その中にジャスミンやパチョリが香る、けっこう官能的な香り。まさにチャンスを掴みにいきたいとき、ここぞというときに使っていた。この香りをまとうと、違う自分になれる、スイッチの切り替えみたいな役割を果たしてくれた。
ちなみに、この香りをつけている時、初対面の男性に「それ、"チャンス"ですか？」と見事に言い当てられてドキッとしたことがある。その背後のストーリーを色々と想像してしまった。

前置きが長くなってしまったけれど、
「あまり香水はつけなくて」などといいながら気になったものの香りをみさせてもらう。

全ての香水に香りのイメージでつけられた名前があり、いちいちセンスがいい。百種類近くあるボトルは香りの系統でフローラル系、スパイス系など、なんとなくまとまっている。
官能的すぎるムンムン系コーナーでは「ちょっと違うね」などと横で路子先生が意見をくれるのも参考になる。

香りの系統的に惹かれるのは、ちょっとオリエンタルな神秘的な香り。フローラルや果実が強すぎるものより、適度にグリーンやスパイスが入った、ある意味ユニセックスな感じが今の気分。と思っていたら、そのあたりでどんぴしゃりなものに出会ってしまった。

Alguien Sueña。 「誰かの夢」というネーミング。
千夜一夜物語をイメージしたという香り。

アラビアンナイト……掴みどころなくて謎めいていて、なんとも好みにぴったり。太陽が沈みかける黄昏時の空の色、夜が明ける頃の、光と闇が入り混じる時間……幻想的なひとときを香りに詰め込んだような、エキゾチックな香り。

すぐに「これだ！」とぴーんときた。念の為ぐるりと一周し、ほかの香りを確認しながらも、心は決まっていた。

＊

帰り際、紙袋にもシュッと、香水を吹き付けてくれる。美しい袋から、至高の夢の香りが漂ってくる……。上質な香りをまとう贅沢を知ったとき、気づいてしまった。
「仕事柄、香水はつけない」はただの怠慢だったことに。

そのあとのミロンガが、ご機嫌だったのはいうまでもない。

＊フエギアについてもっと知りたい方は、路子先生のフエギア訪問記@ブエノスアイレスをご覧ください。→http://michikosalon.com/blog/%e2%97%8etango-blog/7189