◆DAY72 踊れることは、当たり前じゃない
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◆DAY72 踊れることは、当たり前じゃない

*2019年10月7日*

タンゴ連続5日目。さすがに足が痛くなってきた。
今日のテーマはビアジのワルツ。

このところ音楽について教わっている。
Rodorfo Biaji(ロドルフォ・ビアジ)はダリエンソ楽団の初期のピアニスト、その後独立して自身の楽団を結成。
私はこのビアジが大好きなのだ。特にワルツ!!!

高音のキラキラしたピアノの音が、きらめく星みたいでほんとうに美しい。

(ビアジのピアノの部分で拍手を取りに行くMaja & Marko)

音楽を聴きながら踊れるようになりたいから、Musicalityの話は積極的に学んでいきたい。

話は変わって、ハルティーナが体調不良でしばらくレッスンに参加できないと聞いた。今日のレッスンにも来れるとは思ってなかったけれど、ひょっこり現れたのでびっくり。検査結果次第では即入院の可能性もあるというから、来れる時に来たかったのかもしれない。

「ハルティーナさんの踊りをよく見ておいて」とたけし先生。

彼女とはよく一緒にレッスンするから、踊っている姿をみる機会も多い。でも今日は特に、目に焼き付けるようにしてみた。

足元が柔らかい。
それ以上にみるたびにすごいなあと思うのが、表情と空気感。

なんと表現したらいいんだろう、あのハルティーナにしか出せない空気感を。たけし先生は「アブラッソの天才」とか「日本人らしからぬ空気感」とかよく言っている。
ステップや体の使い方がどう、という次元の問題ではない。圧倒的な存在感と、「タンゴを踊っている!タンゴの空間にいる」と思わせるオーラ!タンゴが好きーーーーーーーーーーーーというのが伝わってくる。

私もタンゴは好きだけど、そんなさらりとした「好き」ではなく、もっと濃くて濃縮されたものが、粒子になって空気中を伝うような「好き」だ。

恋人と踊っているならわかる。でも私の知る限り、レッスン中でも、誰と踊っていたとしてもそう。ミロンガにいると、綺麗に派手なステップを踊る人よりも、私はいつもハルティーナの方を目で追ってしまう。

路子先生のブエノス旅行記『私のブエノスアイレス』にも、彼女についての記述がある。

「ところで、日本から一緒に行ったお友だちの女子は、ここでもすごかった。彼女はどこのミロンガでも誘われっぱなしだった。男がほおっておかない、ってこういうこと。
 どうしてえ? とは思わない。彼女と踊りたくなる男性の気持ちが私には理解できた。私にないものをもっている彼女がまぶしくて憧れた。色気? それもある、けれどそれだけではない。柔軟で豊穣な包容力が目にみえるくらいにあふれている。踊りたくもなるでしょう。つかのまのひとときをともに過ごしたくなるでしょう。
でもなんといっても、彼女は「踊りたい」と思っていた、と思う。
踊りたい、っていうきもち。それがどんなふうにあらわれ、どんな現象をおこすのか、私は目の当たりにした。 」
こちらの記事から引用)

柔軟で豊穣な包容力……まさに、そうなのだ!
ハルティーナと組むと、なんだか包み込まれているような、「そのままでいいんだよ」と言われているような、安心感を感じることができる。
人としての温かさが伝わってくる。

タンゴをはじめて間もない頃に、レッスン中に涙が止まらなくなったことがある(◆DAY6 癒しのタンゴ)。そのときのハルティーナの”抱擁”に、私は確かに救われた。

大好きな人で、大切なレッスン仲間……。
でも、この日記にもたびたび書いているけれど、特別な存在感が眩しく羨ましく、ときに妬ましくもある。

「なんで私は彼女みたいに踊れないの?」

わかっている、人の個性を羨んでも仕方がないということを。
私なりのタンゴを見つけないといけないということも。
だけど眩しいものは眩しいのだ。

今の私は、、、
1曲ワルツを踊った後に、「注意する点ありますか?」と先生に聞くと、「注意点というか、踊り方が可愛いよね」と言われてしまう。「そのままでいて欲しいような。大人な曲の時は、もう少し大人っぽく踊って欲しいような」と。
“可愛い踊り”が何を指すのか定かではないけれど、そう見えるとしたらそれが今の私のタンゴ。大人な曲で、背伸びして大人っぽく踊ろうとしてもきっと私には似合わないだろう。

("Evaristo Carriego"とかネットリした曲苦手だし……)

だから今できること
・とにかく足元を綺麗に(気をつけても気をつけすぎることはない精神)
・音楽をしっかり聴く
・もうちょっと踊りに抑揚をつける
まずは基本的なことを気をつけて踊るしかない。

そして最後のリクエストタイム。
(プラクティカの最後にたまに先生が設けてくれる、練習の復習もかねて1、2曲通しで踊る時間。曲は自分でリクエストできる)

自分の中でテーマがミロンガだったので、今日はSexteto Milongueroの"La Mulateada"をリクエスト。
(「えっ、これ好きなんだ?👀」と先生は意外そうにしてたけど、実は大好き。家で聴いてたら「へーい!」とか言っちゃうよね)

Yちゃんは"Poema"を。
そしてハルティーナのリクエストは……「今の私と踊りたい曲を先生が選んでください」。
(WOWその手があったー)

「わー、難題だ!」と笑いながらたけし先生が選んだのは、

Aníbal Troiloの"Gricel"。

この曲については、先週のLOCAのミロンガで先生とちょうど話をしたばかり。「気分が気分だったら、最初の入りのところで、泣いちゃうよね」と盛り上がった。私は、「人生が終わる時、最後に聞きたい」といった。詩の意味はわからないけれど、よくやったね、頑張ったね、とそんな風に祝福されているような気持ちになる、優しくエールを送られているような気分になる曲。

そんな話をした後だからか、先生のハルティーナへの選曲はなるほど、と思ったしさすがだなと思った。何より先生自身が大好きな曲だと言っていた。自分が大好きな曲を、エールを送りたい相手と踊る……それがたけし先生なりの励まし方なのだなと解釈した。

もう1曲は、Tango Bardoの"LOCA"。これも先生のお気に入りで、教室の名前の由来にまでなっている曲。ハルティーナは去年のブエノス旅行で、バルドの生演奏でこれを聴いているはず。
きっと、LOCAでレッスンしている人は皆、何かしらの思い入れをこの曲に持っているだろう。


はぁ、今日のハルティーナはひときわ美しかったな。
大げさでなく、生きているってこういうことなんだと思った。

みんな遅くまで残ってて、終電で帰って帰宅は午前様。

こんなにタンゴにのめり込めるのも今だけと思うと、本当はもっと冷静に色々なことの優先順位を考えないといけないと思うのだけど、一番にやりたいことを優先してしまう。

タンゴを踊れることは、当たり前のことじゃない。
特に今日はそう強く思った。

だから踊れる時に、少々足が痛くても、無理してでも踊る。
浸れるかぎり、タンゴの世界に浸っていたいと思う。

( Anibal Troilo "Gricel")


*2020年7月29日 追記*

コロナ禍の今、ほんとうに、心からそう思います。


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30代ライター@東京。ワインの記事を雑誌やwebに執筆。noteには趣味のことやこぼれ話などupしてます。 着物、ワイン、茶道、アルゼンチンタンゴ、猫が好き。 ◆『余韻手帖 きものでワイン』 http://muse-bacchus.com/ WSET Diploma受験中。