「AIのべりすと」と書いた文
「ドスケベとオスプレイって、似ていないかしら?」
「似てない」
「残念ね」
疑問はいつも唐突で、それでいて彼女自身が興味をもっていないようだった。
「難しいわ。日本語」
「ネイティブスピーカーでしょ?」
「きっと、英語はもっと難しいのね」
彼女は、時々そうやって寂しそうな顔をした。これは地顔だと言って譲らないが、眉毛の高さが微妙に変わっていることに最近気がついた。
「わたし、日本人になりたかったのよ」
「日本人じゃん」
「日本人はハンバーガーをそんなに食べないはず」
「じゃあ、僕も日本人じゃないの?」
「そう」
「あらま」
国籍を変えられてしまった。眉をひそめてポテトを口に運ぶ。寒空のベンチの上。彼女と僕の食卓だった。
「……ごめんなさい」
「いいよ」
「わたしたち、本当はもうちょっと違うはずだったのよね」
「なんのこと?」
「なんでもないわ」
僕は黙ったままコーラを飲み干す。彼女はコーヒーを両手で包み込んで俯いていた。
「私と一緒にいて楽しい?」
「死ぬほど」
「可愛いから?」
「死ぬほどにね」
「生きててくれてありがと」
新手のモラルハラメントのようにも聞こえる。
「愛してる?」
「これまた死ぬほど」
「嘘つき」
「そうかな」
「本当に愛してる?」
「このナゲットを賭けよう」
「ありがとう」
「どういたしまして」
僕は彼女のように愛の所在を確認しようとはしないけど、今はもう一人でマックを食べられる自信がない。
「わたしも、あなたのこと、好きだと思う」
「うん」
「あなたといると落ち着く」
「そうだね」
「あなたと話すのが好き」
「僕も」
「わたしの話をちゃんと聞いてくれる人って少ないから」
「意外」
「あなたはちゃんと聞いてる?」
「うん」
「ナゲット、賭ける?」
「いや、賭けない」
「もう」
今日はやけに粘り強い日だ。僕が何かを忘れているのか。
手帳を開いてみた。付き合って1ヶ月ごとの記念日は一昨日、デート強化週間は来週から、愛情ポイント延長申し込み期間の締め切りは明後日。今日はこれといった用事のない珍しい1日だった。
「……なんかあったっけ?」
「なにもないわ」
「ああ、そう」
「忘れちゃった?」
「なかなか、全部を把握するのはね」
「やっぱりね」
彼女は立ち上がってゴミ箱にコーヒーを捨てた。僕はそれを見て思い出す。
「あ」
「どうしたの?」
「君の誕生日だった」
「そうだけど」
「おめでとう」
「ふふ」
彼女は笑って手を振った。
「じゃあね」
「え? どこ行くの?」
「帰るのよ」
「なんで?」
「だって、誕生日だから」
「祝わないの?」
「別にいいわ」
「もったいないよ?」
「いいの!」
彼女がこちらを見た。大きな瞳には涙が溜まっている。
唇を噛んで上目遣いで睨みつける。そして一言だけ。
「ばか」
それだけ言って走り去った。僕は反射的に腰を浮かせた。彼女はよく走ったが、僕の加速はそれを遥かに上回り、スピードを保ったまま彼女の肩に手を置いた。
「『ばか』はひどくない?」
「離、して」
「なんで逃げるのさ」
「逃げ、て、ません」
彼女は観念して立ち止まった。膝に手をついて肩を大きく上下させている。
「手帳じゃ、買うたびに書かなきゃいけないでしょ?うっかり書き漏らしてた。次からはアプリで管理するよ」
「書か、なくても、覚えてて、ほしい」
息も絶え絶えに彼女はそう言った。
「ごめんね」
「わかれば、よろしい」
彼女はゆっくりと顔を上げて笑った。それからいつものように手を伸ばしてきたので、僕はその手を取った。
手首に縞々の模様が入っている。リストカットの跡というらしい。初めて見たときに戦化粧みたいと言ったら、彼女は半袖も着るようになった。
「足、速いよね」
「取り柄といえばそこくらいだよ」
「もっと、あるよ」
「彼女が可愛いとか?」
「私、可愛くて良かった」
彼女の足が止まった。
「私が可愛くなかったら、付き合ってた?」
「いいや?」
「潔いね」
「考えても仕方ないよ」
「一理ある」
彼女の背中を押した。
「後日、ちゃんと祝うから」
「ちゃんと日付まで決めて?」
「明後日。愛ポ全部使うよ」
「大好き」
「僕も」
愛情ポイントが2プラスされた。
***
【あとがき】
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この作品は、小説家になろう様にて連載していたものを加筆修正したものです。
作者は本屋でアルバイトをしているのですが、レジ打ち中にふと思いついたネタです。
小説を書くのは初めてだったのですが、思ったより楽しかったです。
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