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ムサビ授業4:アートキュレーターの熱量と展示会

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第4回(2021/05/03)
ゲスト講師:鈴木潤子さん

◆「クリエイティブリーダーシップ特論(=CL特論)」とは?
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースで開講されている授業の1つです。
「クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されているゲスト講師を囲んで、参加者全員で議論を行う」を目的に、社会で活躍されている方の話を聞き、受講生が各自な視点から考えを深める講義となっております。

◆注記
この記事は、大学院の講義の一環として書かれたものです。学術目的で書き記すものであり、記載している内容はあくまでも個人的な見解であります。筆者が所属する組織・企業の見解を代表するものではございません。

ゲスト講師 鈴木潤子さん

東京都出身。時事通信社、森美術館、日本科学未来館で通算約20年間の勤務を経て独立。2011年から2020年までATELIER MUJIシニアキュレーターを務め、50件以上の展覧会とその関連イベントを企画運営されました。

キュレーターとしては、あいちトリエンナーレ2013PRオフィサー、東京 2020オリンピック・パラリンピック招致委員会評議会広報アドバイザー、TokyoTokyoFESTIVALスペシャル13、川村文化芸術振興財団などに携わっていらっしゃいます。

アートやデザインを中心に幅広い分野でPRやキュレーション、文化施設の立ち上げに貢献され、現在はキュレーターとして独立されています。2018年のATELIER MUJIの展示に参加した、若杉教授によれば、そこで鈴木さんの「現場力の強さ」に度肝を抜かれたそう。

寄り道と道草は無駄がない

マスコミ、博物館、美術館と、鈴木さんは色々な領域を経験されています。
講演中に「寄り道と道草は無駄がない」というフレーズがありましたが、好奇心に応じて進路を決めていったとしても、必ず経験が生きるという意味だと解釈できます。

現在は独立したキュレーターとして活動をされていますが、「アカデミックでもない。順当な美術の人でもなくてもご飯を食べている」と仰っていたことも印象的です。

鈴木さんは大学時代からアートに関心があったそうですが、美大を出ないと美術関連の仕事はできないと思っていたことから、一度はそれを諦めたそうです。

前回の森さんの話は、今後のキャリア観を問うような内容でしたが、今や「地方移住」「パラレルキャリア」等々、キャリアの考え方も変わりつつあるなかで、やりたいことに挑戦しやすくなっているのは間違いないと思います。

「チャンスがあるなら挑戦してみた方がいい、もしもそれが違ったとしても、将来のどこかで生きるときが来るから」というようなメッセージにも感じられました。

キュレーターという仕事

鈴木さんは普段の仕事ぶりの話もしてくれました。美術館には行くものの、その背後にいるキュレーターのことには関心がなかった著者からすると、貴重な機会を得ました。

仕事内容については、「キュレーション」という言葉から「(作品を)収集する仕事」という印象を持っていたのですが、実態としては企画から運営までのプロジェクト責任者のような仕事なのだと思い知らされました。

プロジェクトの性質や、キュレーターのスタイルによっても異なるそうですが、企画はもとより、それを実現するため泥臭い部分も自ら行うそうです。
(例えば、店舗を展示に使うため、施設利用/建築物の用途変更の申請が必要になり、600項目のチェックリストを埋める等の仕事を行うとか、、)

言うなれば、「展示会全体を作品として仕立てる」ような仕事でしょうか。
守備範囲がものすごく広く、相当な熱意がないときつい仕事だと感じます。

余談ですが、東京都現代美術館に藪前知子さんという担当学芸員がいらっしゃいます。その方が企画した展示「 石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」のインタビュー記事でキュレーターの仕事が語られています。

やはり、企画からディレクション、作品の貸し出し交渉、キャプション作りまで全て担当するということで、やることが多岐に亘る仕事のようです。
https://www.fashionsnap.com/article/eikoishioka-curator-interview/

なおえつ うみまちアート

鈴木さんは現在、新潟県上越市の直江津地区を舞台にした現代アートイベントを企画されています。

企画のコンセプトや詳しいアーティストの説明は、他の方のnoteに詳しいので割愛しますが、準備状況の説明の際に「全く楽な道を選んでいない」と言い切っていたのが気持ちがいいです。話しぶりからも、いかに全力投球しているかが伝わってきました。

開催が今夏に迫っていますが、予断を許すような状況ではなく、期日に間に合うのか、予算が足りるのか、問題なく運営が行くか等々、心配事は尽きないそうです。

それでも「ハートが強いわけではない」と自称する鈴木さんを突き動かすものは何なのでしょうか。キュレーターとしての責任感は当然あるのでしょうが、ぽろっと言っていた一言に集約される気がします。

誰よりこの作品が見たい。
もう一つ言うと、みんなに見せたい。

印象的だった話

とにかく、今夏に迫った「なおえつ うみまちアート」の話が印象的です。タイトルで書いた通り、素直に自分の目で作品を見てみたいと思いました。

鈴木潤子さんのお話メモ
10年後の自分が恥ずかしくないような仕事をしたい。
 誰かの一生、一瞬を変えることができるかもしれない。
・ものが生まれる渚が楽しい。ものが生まれるところは中毒性がある。
 98%は困難。楽しい2%のためにプロセスがある。
会期中、海のそば200mの所に住む。作品を守り、お客を守る。
 子どもには「お母さんはあまり儲からないマグロ漁船に乗ったと思って」 
 と言っている。
・キュレータの基本は「言い出したことに責任を持つ」。
・予期しないことが起きるということを楽しんでいる。
 人と仕事をするというのは、それだけ不確定のことが足される。
 上手くいくと一人ではできないことができる。

蛇足ながら、筆者が感じたことも書きたいと思います。

最近、具体的には「働き方改革」とか「ワークライフバランス」とかいう言葉を聞くようになったころ、「仕事に熱い」人は明らかに減ったような気がしています。

それは必ずしも悪いことではないのでしょうけど、心の底からやりたいことをやっているときの姿は、とても美しいものだと思います。

没頭しすぎて寝る間も惜しんで作業をしていたり、四六時中仕事のことばっかり考えていたりする人からは、命が燃えている火花が見える気がするのです。

時代の空気は、「仕事だけに打ち込むなんてどうなんだ」という方向に変化している中、それでも、どうせやるなら仕事には没頭してみるべき、そしたら見えてくるものがある、というのが筆者の考えです。

今回の鈴木さんの「どこまでも追求する」というスタンスはとても好感が持てますし、本当に今夏は上越に行ってみたいと思いました。
(ある種、術中にはまった形なのかもしれませんが、、笑)

クリエイティブリーダーシップとは?
~飽くなき追求~

今までのCL特論では、取り立てて意識していなかったものの、リーダーシップには「妥協せず、ひたすら追求する」という要素が必要と思いました。

それは、好奇心に突き動かされたものなのかもしれないし、世の中に対する問題意識から来るものなのかもしれないし、人生を変えたい、というものなのかもしれないですけど、また、そうしたスタンスで取り組む仕事は、周りを巻き込んで大きくなっていくものと思います。

筆者の経験上、どのような仕事であれ、どこかで必ず自分一人ではできない局面が来ます。必ず、周りに助けを求めることになります。創造的なことをする際には、なおさら他人の力も借りてモノを仕立てる必要が出てくるでしょう。

周りを巻き込む要素たる「飽くなき追求」があってこそ創造的な仕事ができるのではないでしょうか。

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