雑多小説「本物の黒はとれない」

バツは私の友達である。
バツはいつも正しいことしか言わない。生きていて皆が感じたことのあるふわっとした事柄を、スパッと断言してくれる。
バツはなんでも知っている。わからないことがあったら、まずはバツに聞く。そうすれば必ず解決できる。
バツは経験が豊富。見たことがない世界を5行の文章で伝えてくれる。おかげで私は知ったような気持ちになる。

でもバツの顔はわからない。それどころか、性別も年齢も、そもそも人間かどうかもわからない。
私は友達だと思っているけど、バツはそうでもないかもしれない。いや、思ってないな。

そもそもバツって存在しているんだろうか。
いや、そんなことはどうでもいいのかもしれない。
何を信じていたんだろうか?

「正しいこと」はそんなにあるんだろうか。
「正しいこと」はそんなに大事なことなんだろうか。
「わからないこと」はすぐに答えを出さなきゃいけないことだったのか。
「見たことない世界」はいくら言葉にしたってわかるようなモノではないのではないか。

もっと人間くさい友達が欲しい。私が気にかけて、それに応えてくれるような、人らしい付き合いがしたい。
矛盾を受け入れる器が欲しい。たくさん知りたいことがある。それを自分で止めないような。
泣いても許してくれる環境が欲しい。頑張ることを諦めない気持ちが懐かしい。

正しいことばっか言う奴寒いわ。
もっと泥臭くていいんだよ。嫌いな物は嫌いでいいよ。何が嫌いなのかハッキリしてるなら、それはもう受け入れられてるよ。難しいことだけど。
だいたいのこと理解しようとしてもつまんないだけだよな。ちょっとわからんって言えてる方が多分面白い気がする。

色をぜーんぶ混ぜたら何色になる。黒になる。
「黒になる。」
定義。黒という便利な言葉でおわり。
でも水で薄めて広げて見たら黒ではなくなる。
形容し難い色。汚い色。灰みたいな。
その濃淡を利用して絵を描く。
汚い絵。黒からは想像がつかない。

あぁ、私は何を伝えたかったんだっけ。
漆黒は純粋な黒。一度ついたらなかなか取れない。

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