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フジロックのこと 2023

 2月のある日、『New Neighbors』のレコーディング中だったスタジオにずっとお世話になっているライブ制作のスタッフの方がふらっと姿を見せた。レコーディングに来るなんてはじめてのことだった。4月からはじまるツアーのことでも話すのかな、と思いつつボーカルとコーラスを録音したばかりの「US/アス」を聴いてもらったりした。アルバム制作も終盤だった。「US/アス」は僕のなかで、この曲があればこのアルバムは大丈夫だろう、と思えるような曲だった。多分ずっと演奏するような曲になるだろうな、と思っていた。これはライブで映えそうな曲ですね、という感想から何気なく会話はフジロックの話になった。「strokesは絶対に観たいからもう今からチケット買おうかなと思うんですよね」と僕がいうと、スタッフの方が「今年はチケット買わなくていいですよ」と言った。不器用な伝え方が、なんともその人らしくて可愛かった。その場でステージがホワイトステージだということも教えてもらった。思えばHomecomingsで出演するのは2016年以来のことだった(2017年と2019年は平賀さち枝とホームカミングス名義だった)。

 それからの日々はあっという間に過ぎていった。アルバムの制作が終わったと思うと、次はアートワークの制作が待っていた。「US/アス」のMVとアルバムのジャケットの撮影の日は小さい頃からの夢がひとつ叶ったような気持ちになった。セサミストリートとアメリカのマペットキャラクター。小さい頃に抱いた海外の文化への憧れが今の自分を作っているような気がする。
「ラプス」のMVは育った町のフィッシュランドという遊園地で撮影した。高校を卒業するまでの生活の風景にずっとあった、大きな観覧車の下で演奏シーンを撮った。5月には弟の結婚式があったこともあってなんとなく、自分がどうやってここまできたか、を振り返ることが多かった。
 リリースと同時にツアーの前編がはじまった。大阪、名古屋と続いて、次の週にリキッドルームでワンマンをした。周りのスタッフやずっとお世話になってきているチームのみんなが口を揃えて今まで一番よかった、と言うようなライブだった。はっきりとした理由はなかったけど、たしかにメンバー4人もとても良いライブができたという実感があった夜だった。
 その次の日からリキッドルームの二階にあるKATAというギャラリーで『New neighbors』のアートワークにまつわる展示『Colorling Book』がはじまった。ツアーやリリースのばたばたにかまけてサヌキさんに頼りきりだったけれど、たくさんのお客さんと久しぶりに直接話すことができてうれしかった。5月はいくつかのライブとキャンペーン、そしてツアーの後編の準備ですぐに終わってしまった。友達が立て続けにバンドを辞めていった。いろんなことを考えた。
 6月のツアーは本当に大変だった。いろんなところで話しているように、全部の会場で大きなトラブルがあって毎晩気持がすり減っていった。最終日の朝、京都の永正亭で食べたかけそばにかなり救われたけど、その日の夜のハプニングが一番大きいものだった。次の日の朝はやまもとでかけそばを食べて少しだけ元気をとりもどした。ライブのあとに久しぶりにタワレコ時代の親友に会えて本当にうれしかった。
 そんなこんなであっという間に7月になって、フジロックを迎えることになった。セットリストは直前のゲネまで悩みに悩んで決めた。4人や周りのみんなの想いもあって、本当に何パターンも試してみて、最終的な形に落ち着いた。今までのHomecmingsをぎゅっしたようなセットになった。
 

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