見出し画像

原因不明の多発奇形の児の死産

死産にはいろいろな原因がありますが,原因不明の多発奇形があって,妊娠中に子宮のなかで亡くなる児(こ)のめずらしくありません.とくにわたしが働いている病院は,胎児や新生児の病気を専門的にあつかっていますので,そういった児をあつかうことはよくあります.このような産婦であるお母さんの精神的,肉体的ケアはもちろんたいせつです.

しかし同時にその児の病気をくわしく調べることは重要な仕事のひとつです.次の妊娠においておなじ病気が再発するリスクを評価するためで,遺伝カウンセリングのために必須の作業です.さまざまな検査をしますが,そのなかでも全身のX線撮影は体を傷つけずに有力な情報を得ることができる検査です.

しかしこういった多発奇形の死産児の撮影をいやがる放射線技師さんがときどきいたりして困ることがあります.もちろんいまわたしが働いている病院は,そういった病気の児には慣れていて,そんなことはいっさいありません.しかし昔いた大学病院では,亡くなった児をよくぞんざいに扱われて,わたしたちを憤慨させたものでした.

もし悲嘆にくれるご両親を見る機会があれば,どんなときも尊厳をもって自然に接するようになるのでしょうが,そうでないひとにはただただ気味が悪い存在なのかもしれません.X線の撮影台のうえに赤ちゃんを置こうとしたら,それはダメだと怒られて,児を床におかせてポータブルで撮影しようとした技師さんもいました.

さすがにそれには強く抗議しました.撮影台はひとが横たわるところで「神聖」な場所だからだそうです.そのときは半分喧嘩になった記憶があります.思いだしてみれば30年近くも昔のことかもしれませんなにが言いたくてこんなことを書いていたんだろう(苦笑).

ひとは自分の職務に責任と自負をもち,仕事場では自らの価値観やルールをつくって働いています.しかし生まれつきの重い病気をもったため,この世で生きることなく生まれてきた子どもでも,その尊厳を最大限守ってあげるのはわれわれの仕事であり,そこは絶対にゆずることはできません.

ああちがいます.技師さん批判をしようとするつもりはけっしてありませんでした.ただ多発奇形で死産となることは結構あって,それを単なる詳細不明とせずに,きちんと病気を調べてあげる必要があり,それにはレントゲンがとても重要と書こうとしただけなのです.しかし書いているうちに昔の悔しい思い出が蘇ってきて思わずでした.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?