「過剰診断」は現代医療を冷静に見直す
NLM(米国国立医学図書館)が,Index Medicusの見出し語(MeSH)として"overdiagnosis"(過剰診断)を採用しました.Index MedicusはNLMが世界中の医学文献を集めたデータベースであり,現在はPubMedとして無料公開されています.
日常医療のなかで「過剰診断」を意識することはすくないのですが,実は非常に深刻な問題をおこしています.わたしもふつうの医学教育と臨床トレーニングをうけてきて,こういった過剰診断の問題を意識せずに,一般的とされる医療をこれまでおこなってきました.
福島原発事故についてさまざまな活動や議論を経験するなかで,この「過剰診断」の問題が深刻な害をおよぼしていることにようやくわたしが気がついたのは,恥ずかしながらつい最近のことです.引用したBMJの記事では,過剰診断を以下のように定義しています.
「発見されずに放置していても害を及ぼさなかった病気をみつけだしたり,それまで問題ない状態を医療の対象として新しい診断をつくりだしたり,検査の閾値を下げ診断基準を拡大して病気の対象を拡大したりすること.過剰診断から身体的,心理的,経済的デメリットの可能性はあるが,臨床的利益はない」
過剰診断について注目をあびるようになったきっかけは,2013年にダートマス大学で開催された第1回国際過剰診断防止会議(Annual International Preventing Overdiagnosis Conference)でした.新しい見出し語(MeSH)採用は「過剰診断」の概念を公式なものとし,医学的に評価検討されることになります.
われわれは盲目的に「スクリーニング」をよいこと,やったほうがいいことと信じていますが,厳密なエビデンスなしで医療行為をおこなうと,かえって害のほうが大きくなります.一度こういった問題意識をもつようになると,われわれが日常おこなっている医療行為について多くの反省をせまられます.
過剰診断の問題はがん検診で議論されることが多いようですが,それ以外の領域にも存在しています.たとえばわたしの領域でいうと,切迫早産の診断,頸管長の計測,超音波による胎児スクリーニング,妊娠糖尿病のスクリーニングなどについて,いろいろなことが議論できるかもしれません.
「過剰診断」は現代医療のなかの最大の問題のひとつです.ただしここで注意が必要なことがふたつあります.ひとつは,こういった見直しは国の医療費削減に与するものではけっしてなく,医療の進歩のなかである種必然的にでてくる過剰な部分をチェックするものです.もうひとつは,「過剰診断」の概念は現代医療を否定するものでなく,「反医療」とか「ニセ医療」といったものと一線を画します.
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