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「生誕110年香月泰男展」宮城県美術館

「生誕110年 香月泰男展」宮城県美術館。2年間のシベリア抑留を描いた「シベリアシリーズ」が有名でありながら、ふだんはなかなか現物をみることのできない画家です。今回は同シリーズ全57点をふくむ回顧展であり、とても見ごたえあるものでした。

1943年に応召された香月泰男が、当時の満洲国ハイラルで敗戦をむかえ、そのままシベリアに抑留されて強制労働を経験することになります。きびしい環境下で戦友がつぎつぎと倒れていく限界状況からなんとか生還できたあと、故郷の三隅町でシベリアでの体験を生涯描きつづけました。

シベリアシリーズは、方解末をまぜた黄土色の下地のうえに木炭粉の黒を擦りつけていく独自の技法によって描かれています。ほぼ黒によって表現されるひとの顔や雪の凍土、太陽や星は黒の盛り上がりによってかろうじて判別されます。そこには飢えや寒さ、死といったものの本質が迫ってくるようです。

「1945」と題された絵は、敗戦後に満洲からシベリアに送られるとき列車のまどからみた、うしろ手にしばられ真っ赤に腫れあがった死体がモチーフです。おそらく地元民のリンチを受けて殺された日本人でしょう。敗戦からようやく日本社会がたちあがり、高度成長をまぢかに迎える1959年に描かれています。

香月泰男が生涯なににこだわってシベリアシリーズを描きつづけたのかがここに象徴されているように感じます。テーマは重いうえに、黒と黄土色のみとギリギリまで単純化された一見地味な絵のため、好き嫌いはおおきくわかれるでしょう。実際、平日とはいえ会場は閑散としていました。

若いときの習作から遺作の「渚(ナホトカ)」まで網羅されている大回顧展であり、黄土色と黒の彼のスタイルがどのように完成されていったかがわかるようになっていて、その軌跡は感動的でもあります。わたしはとても気にいりましたが、どなたかほかのかたの感想もお聞きしたいところです。

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