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山本直樹「レッド」

山本直樹「レッド」が完結しましたね.連載開始から10年,8巻+4巻+あさま山荘編の1巻の全13巻です.実際におきた事件をマンガ化するにあたり,いつもの山本直樹流の漂々としたストーリー展開で一気に読めます.なおかつすごいのは,登場人物が仮名のことをのぞけば,内容はほぼ事実に即していることです.

共産主義同盟赤軍派と日本共産党革命左派のふたつセクトが合流した「連合赤軍」が,山中の根拠地で同志をリンチして死に至らしめた山岳ベース事件と,逮捕をまぬがれた数人が山荘の管理人を人質としてたてこもった浅間山荘事件が物語のメインの舞台ですが,最初の8巻でそこにいたるまでの事情をていねいに描いています.

新左翼運動が自ら瓦解し終息の契機となったできごとで,わたしよりもひとまわりからふたまわりの上の団塊の世代の話です.わたしはそのとき小学6年生で,あさま山荘攻防を生のテレビ中継でみていた記憶があるので,ギリギリおなじ時代の空気を吸っていたといえるでしょうか.

あさま山荘事件の段階では,抵抗している学生への同情もまだすくなからずあったのですが,そのあとつぎつぎにあきらかにされた山岳ベースでのリンチ殺人事件は,国民の強烈な反感と嫌悪感とよびおこし,結果的にそれまでの国内の共産主義革命運動の息の根を完全にとめてしまいました.

その世代,すなわち全共闘世代あるいは団塊の世代は,なぜ時代を象徴するこの事件をきちんと総括して,あとの世代に残さないのかかねがね不満に思っていました.「総括しない」ことが教訓だったのかもしれませんが(笑)

これらの事件をモチーフとした生まれた文学作品もあまり成功してはいません.わたしが読んだものでは,立松和平の「光の雨」は小説としてつまらなかったし(映画は一部で評判だったようです),三田誠広「漂流記1972」はふざけすぎている.円地文子「食卓のない家」はちょっとテーマがちがいますね.

しかしこのマンガ「レッド」は事実に立脚して淡々と事実を書きながら,なぜ彼らの志と正義と善意が,他人の人間性を完全否定する悪に転落していったかがあまねく描きだされています.左翼でも右翼でも宗教でも政治でも,古今東西のイデオロギーがおちいりやすい罠です.

といったようなことを,YouTubeのAKB公式で「翼はいらない」のMVを聴きながら考えてました.このMVの舞台は1972年の大学構内での学生集会(のパロディ).山岳ベース事件から浅間山荘事件は1971~1972年なので,学生運動はまさに深刻な影響を受けていたころなんですが.

「翼をください」のパロディだろうこの曲をAKB48は脳天気に歌っていて,そこに上条恒彦まででてきていっしょにやってるのには笑ってしまいます.

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