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寄贈句集鑑賞

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寄贈賜りました書籍の鑑賞ページです  句集 俳句関連の随筆・評論 武良竜彦
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記事一覧

本杉純生句集『有心(うしん)』

   冠省  このたびは玉句集『有心(うしん)』をご恵送賜りありがとうございました。 『跋』に橋本榮治氏が「大人の風貌」と題して寄稿しているように、深い教養に支えられた格調の高い作風の句集に感じました。  秀句揃いの句集の中から、特にわたしが好きになった句を以下に揚げて、御礼とさせていただきます。  水を発ち水を離れず冬かもめ  青蛙おのれの色の草に跳ぶ  ひと色の雨ひと色の夏野かな  滅びたる記紀のたれかれ冬銀河  日輪へ深き一礼潮かぐら  田蛙の闇なま

太田土男著『季語深耕 まきばの科学―牛馬の育む生物多様性』 

     太田土男氏の「季語深耕」の第二弾が上梓された。  先に上梓された『田んぼの科学』の姉妹編かつ続編であると、著者が「あとがき」で述べている。  ✳︎『田んぼの科学』についても、このブログで紹介している。                https://note.com/muratatu/n/nd1d57e607845  牧場、「ぼくじょう」ではなく「まきば」といえば次の唱歌「牧場(まきば)の朝」の歌詞を思い出す。 ただ一面に立ちこめた 牧場(まきば)の朝の霧の

 金 利恵(キム リエ)句集『くりうむ』  ―身体的母国と精神的母国の融合体験がわたしたちに問いかけること

   この句集の他にない際立った特色については、ここに転写引用させていただいた「著者略歴」と、次に引用する「あとがき」のことばを、じっくり味わっていただいた方がいいだろう。  読後、大半の読者が普段考えたこともなく、体験したこともない、ある感慨に包まれるはずである。次がその「あとがき」の一部。      ※ あとがき  母国の舞を求めて韓国にやって来たのは、二十代半ばを過ぎた頃だった。未知のことばを学び、暮らし、そして毎日のように母国の音楽にのせて舞の動きをなぞった

『黒田杏子 俳句コレクション3 雛』 髙田正子編著

                    高田正子氏のライフワークの黒田杏子俳句コレクションの第三集が上梓された。  今回のテーマは「雛」である。  雛で一冊になることに先ず驚いている。  既刊の句集で読んで覚えていた次のような印象的な句も、もちろん収録されていた。   雛流す常世の涯の浪の音        『日光月光』   逢ひ訣れ逢ひ訣れ雛飾りけり        〃    そして雛の句ではないが、強く印象に残っていた次の句も収録されていた。   子を持た

髙田正子主宰「青麗」創刊

    爽やかな結社誌が創刊された。  「青麗」、読みは「せいれい」。  髙田正子氏が主宰。  永く黒田杏子に師事し、その主宰誌運営の中心的な役目を果たして来た人である。  以下は、髙田正子氏の来歴と目次である。  2023年3月逝去された黒田氏の最後の句集の上梓、お別れの会の開催、そして会誌の追悼号としての「藍生」の最終号の刊行と、会の解散にともなう諸業務という、多忙な中、仲間たちが力を合わせて、髙田正子氏を主宰として立ち上げ、新たなスタートを切った、力の籠った新結社誌

東 國人句集『白熱灯』

      著者略歴のページから       東 國人様 冠省  この度は玉句集『白熱灯』をご恵送賜り有難うございました。  秀句揃いの中で特に印象に残りましたのは次の句です。 レモン転がるどこまでも青い天 友の死へ羽音ばかりの夜の蝉 鰯雲墓標の裏で月眠る 空になりたくて飛魚飛び上る 凍て蝶へ太平洋という棺 意識なき父の見ている冬の星 海亀の半眼沖縄慰霊の日 星月夜互い違いの過去光る ハイビスカス落した腕を捜しに行く ダム底に礎石現はる初明

浅川芳直句集『夜景の奥』をめぐって ―その高き志に更に期待することなど

      期待の俊英俳人、浅川芳直氏の第一句集が上梓された。 浅川氏の略歴は次の通り。  巻頭に「駒草」前主宰の蓬田紀枝子氏の序句が置かれている。   秋の草刈り始めたる音届く   浅川氏の現年齢三十歳までの成長を見守ってきた俳人からの、一区切りの祝言にして、これからの更なる飛躍に手向けた句だろうか。  そして序には「駒草」現主宰の西山睦氏が寄稿している。  句集の構成は次の四章立て。   第一章「春ひとつ」が平成十四~二十八年   第二章「雑魚の眼」

林みよ子句集『名古の月』

〈書簡 句集感想〉 冠省  玉句集『名古の月』、拝読いたしました。  黒潮の香溢れる地域色豊かな句集、堪能させていただきました。  地に足のついた暮らしのさまが見える、誠実な詠法、俳句に向き合われるご姿勢がうかがわれて共感しました。  韻文入門は学生時代の詩からのようで、それが林さんのうたこごろの原点にあるようで、どの句にも豊な詩情が立ち上り、読後感の味わい深さに資しているように感じました。  秀句揃いの句集の中から、特に強く印象に残り、共感いたしました句を、以下

長谷川昭放句集『漂泊と定住』

《書簡体 句集評》 冠省  ご恵送賜りました玉句集『漂泊と定住』、拝読しました。 「序」にてご所属の「顔」主宰の川村智香子氏が次のように述べられています。      ※  神奈川県西部の緑豊かな地に居住されている作者は、農作業に汗を流し、大地から生まれる収穫の喜び、大自然の中に身を置く幸せを味わっておられる。野菜は三十種類も育てられ、自給自足の暮らしぶりとのこと。 (略)サラリーマン生活に終止符を打ち、定住と決めて大地に根をおろしつつも、漂泊の思いを忘れずに俳句

土見敬志郎句集『岬の木』

冠省  拝受致しました玉句集『岬の木』、読了致しました。  土見様の東日本大震災の震災体験と、ご実家がある寒風沢島(さぶさわじま)の壊滅的な被害の体験が、永く心の中に残り続け、この度、最後と決めていた前句集を更新すべく、本句集を編まれたお気持ちが「あとがき」にあり、胸打たれつつ拝読いたしました。  秀句揃いの句集の中、特に印象に残った句のみを、以下に揚げさせていただきます。 Ⅰ 雪の精 白鳥の沼に陽の櫂風の櫂 村中の柱の中の解氷音 嬰児の呼吸青野の漣す

佐藤久句集『呼鈴のあと』

書簡体 句集評 冠省  玉句集『呼鈴のあと』、拝読いたしました。 「序」にて鹿又氏が「佐藤さんが外見は穏やかでやさしそうだが、心の中は何事にも左右されない強い意志をもっている、いわゆる『外柔内剛』の人だ」と述べ、尾澤氏が「跋」にて「佐藤さんは、例えばそれが静かな句であっても、その内には物を見詰める確かな目と、真摯な情熱をお持ちでいらっしゃいます」と評していますが、佐藤さんの俳句に向き合う姿勢に対する、これらの評に首肯しつつ、その世界を堪能しました。 初学のころから、す

太田土男著『松崎鉄之介―俳句鑑賞ノート―』について

                   百鳥叢書137 2023年10月15日刊  太田土男氏が師事した二番目の師である松崎鉄之介の俳句鑑賞の書である。  太田土男氏には一代目の師の俳句鑑賞の書がある。 それが『『大野林火―俳句鑑賞ノートー』で、わたしのブログでも紹介しているので、是非そちらも併読していただけたら幸いである。   太田土男著『大野林火―俳句鑑賞ノートー』|武良竜彦(むらたつひこ) (note.com) https://note.com/murata

川口真理句集『海を醒ます』 

     「あとがき」も、他の人による「跋文」など、解説のようなものが一切ない、純粋に俳句だけの句集である。  だから、鑑賞に当っての予備知識も与えられないかわりに、予断なく作品と向かい合うことを促す、潔い編集姿勢である。  巻末に著者略歴だけが掲載されている。  それを摘録する。      ※ 昭和三十六年 兵庫県神戸市生まれ 平成十三年  「ゆう」入会 田中裕明に師事 平成十七年  第十九回俳壇賞受賞 「ゆう」閉会 後、中嶋鬼谷代表 「雁坂」 大牧広主

堀込学句集『かまくらゆり』

   表紙側の帯文に次のように記されている。    ※  生死のみちのべに変転する古今の足跡。  未知の記憶に誘われ「俳句詩形」の懐に身を預ける。  いま、韻律の森の根茎を掘り起こす。  月影に濡れる一本の鍬のやうに。    ※  古文的な格調高い調べで、作者の作句姿勢と理念のようなものが暗示されている。  一行目の「古今」の「古」からは、過去生を生きた詩人たちの足跡を踏まえるという姿勢を読み取れるかもしれない。 「今」の方には作者も含まれていよう。