愚痴・懺悔



小・中学校の友人とは全員縁を切った。高校時代の友人とは2人とだけ連絡をとっている。
1人は高校時代に両親が離婚して、不安定さを抱えている。もう1人は幸せな家庭で育ち、真っ直ぐな精神を携えている。
前者の友人は、高校時代によく死にたがっており、波長が合うのでなんでも話せた。

昨日のことだ。その2人と電話をした。後者の友人は、翌日のバイトに備えて早々に寝てしまった。前者の不安定な友人と、2人きりの会話になった。

友人は、未だ死にたさを抱えている。不安定で、先日彼女の兄の自殺未遂騒動もあり、精神が引っ張られているようだった。
しかしなのだ。話題は高校時代、彼女を支えてくれた太陽のような女生徒の話、大学での友人の話、推しのVTuberの話、そのライブの話と、希望の光に満ち溢れていた。
私と言えばどうだ、話せることは何もない。高校時代の友人は前述の通り、2人を覗いて全員の連絡先を削除した。小中学校に至っては誰とも繋がっていないから、みんなどうなったかわからない。今まで貰った卒業アルバムは、全て目を通していない。アルバイトも途中で行くのをやめて、新しいバイトを探すも面接までクリアして全て飛んでいる。大学は行っていないし会話をする人もいない。推しもいない、そもそも外に出ないのでライブなどもってのほか。

電話の終盤、友人は自分の住む部屋のルームツアーを始めた。VTuberのグッズや彼らが表紙を飾った写真雑誌、アニメキャラクターのイメージグッズなどが並んでいたが、全体的に片付いていて清潔感に溢れた部屋だった。対する私の部屋は、飲んだ酒の缶が洗われることもなく至る所に放置され、ベッド以外のスペースは丸めたティッシュに溢れ、三ツ矢サイダーの空ペットボトル、カップラーメンのゴミ、タバコの吸殻とその空き箱に床面が覆い尽くされている。机の下には外に出ないからろくに使わないメイク道具が散乱し、居場所を失った生理用ナプキンが棚に仕舞われることなく床で存在を主張している。友人に見せることなどできず、私はずっとカメラをオフにしていた。

何故こんなにも違うのか。友人はたった1か月前に兄弟の自殺未遂を目の当たりにした。両親は別居しており、両方と同時に会うことはもう叶わないだろう。彼女には彼女なりの苦悩があって、今でも口癖のように死にたいと言う。
ああ、それなのに、この友人には、彼女自身の生を望むたくさんの人に囲まれている、生きるべきだ、と思った。

私の家は両親の離婚以外のことを全てしたと思う。暴力、罵詈雑言、姉の失踪、自殺未遂、兄の実質的な勘当、警察沙汰になったこともある。
しかし、私は兄姉と歳が離れているから、それらを経験したのは小中をまたがってのことだ。私の中ではもう精算されていて、思い返しても暗い気持ちになることは無い。だから、家庭環境のせいにはしたくない。
何故こんなにも暗く、重く、救いようのない卑屈な人間になってしまったのか、正直自分でもわからない。わからないが、多分色々なことがちょうどいいタイミングで起こったのだろう。実際には、中学校以前のことはよく思い出せない。だから、いじめがあったこと自体は覚えていても、何をされたかなどは思い出せない。たった7、8年前のことだが、空白のようにぽっかり記憶から消去されている。高校時代もそうなりつつあり、日毎思い出せない顔が増えていく。

何を書きたいのか自分でもわからなくなってきたが、ただ、これが衝撃的だったのだ。
分かり合えると思っていた友人が、高校時代に1人の女生徒に光を見出しており、その子を支えにそれなりに学校生活を楽しんでいたこと。
私は別に、高校時代、ひとりぼっちだったわけではない。なんなら、休み時間の度に私の席に5、6人の友人が集まってきてくれて、楽しく大声で騒いだ記憶もある。先生のモノマネをしたり、先日見たテレビやスキャンダルの振り返りをしたり。それなりに普通か、それ以上の楽しい学校生活を送っていた。ただし、心は空虚なままだった。だから、ほぼ全員の連絡先を消した。この点に関しては、私自身私のことがよく分からないので書けることは少ない。
高校時代を汚点に感じていたのは自分だけだったという事実に打ちひしがれた。きっと当時の思い出だけで友人はうまく生きていけるだろう。実際上手くやっている。無欠席で大学に通い、部活もこなし、大勢の友人に囲まれている。入学式後の初日から大学をサボり、奨学金貸与ギリギリの単位しか取れない私とは大違いだ。未だに友人はいない。

根本的なものが違うのだと思う。そう、違うのだ。私と分かり合える人間なんていないと、再認識した。
当時は楽しかった高校生活も、振り返るとなんだかとても暗いもののように思える。
分かり合えると思っていた友人との相違点がじわじわと差を広げ、今や立派な壁となった。もう元には戻れないと思う。
今、連絡先を切りたいというとてつもない衝動に襲われている。あの子は他人から生を望まれている。私にはもう家族しかいなくて、その家族も新しい家族を形成している。両親は恐らく長くはない。いずれ誰からも文字通り生を望まれることもなくなる。生きている意味など最初からなかったが、私をこの世に引き止める理由がなくなる。
紫煙が染み付き、香りが変成したなんとも言えない腐臭の漂うこのゴミに溢れた汚部屋で、ひとり寂しく死ぬのだ。

部屋の片付けをする余裕もあって、外に出られて、推し活ができて、友人も沢山いて、高校時代の思い出も輝いていて、私立の大学に通っているのにバイトをしなくてもいいくらいお金があって、それでなんで死にたいの?と思ってしまった。理不尽な怒りだ。特に最後のものは彼女自身の性質ではなく生まれ持ったものだ。それに、人には人の痛みがある。それを全て理解することは難しい。私は、理解できないということを理解している。それなのに、自分自身が友人に対して理不尽な怒りを覚えたことに落胆した。
内臓が全てねじ切れそうだ。
もう何もわからないなと思う。私の周囲は壁で埋め尽くされており、その中で1人、今日もタバコを吸っている。

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