インターホンの進化停滞を紐解く
「集合玄関機」といいます
マンションのエントランス部分にあるインターホンシステム。日本語では「集合玄関機」というのですが、逆にわかりづらいですね。
インターホンと言いましょう。インターホンにも色々あって、エントランスで呼び出して自動ドアを開ける「オートロック式インターホン」もありますし、玄関先で鳴らして呼び出す「玄関インターホン」もあります。昔は「呼び鈴」と呼ばれてましたね。
今回この「オートロック式インターホン」を「インターホン」と呼びます。
今後「インターホン」という言葉が出てきたら、玄関先で押すやつじゃなく、エントランスで鳴らすやつをイメージしてください。
結論からいいます
早速ですがこのインターホンについて、ぼくは非常に憤りを感じておりまして、結論からいうと「まったく進化させるつもりがない粗悪品」だと思っています。
なぜそう思うのかをこれから語っていきますが、あくまで一個人の意見ですが、ほとんどの方はインターホンについてそこまで深く考えたことはないと思うんです。そこにぼくは「メーカーがあぐらをかいている」と思っていて、日本全体の進化も遅らせている一因にもなりつつある、由々しき事態だと思っているので、ここで辛口に述べていきたいと思います。
理由は大きく3つあります。
・競合がないので進化させる必要がない
・エンドユーザーを見ていない
・ガラパゴス大好き症候群
これらがなぜインターホンの進化を妨げているか、紐解いていきます。
理由① 競合がないので進化させる必要がない
インターホンの機能って、「エントランスで呼び出して応答して自動ドアを開ける」くらいあれば充分なのでは?と思う方が多いでしょう。
しかしこのオートロックという存在が様々な不便を与えています。
昨今では「置き配」が流行りだしましたが、この「置き配」は不在時に玄関先まで荷物を届けるサービスで、再配達を減らし、宅配業の人材不足対策になる他、宅配車両の巡回距離を縮めて結果的にCO2排出量を減らすという取組みにもなっています。
言わずもがなですが、この「置き配」はオートロックが邪魔なんです。しかしほとんどのインターホンには「遠隔解錠」の仕組みが備わっていません。例えば「組合が許可したamazonだけAPIを公開して限定的に遠隔解錠できるようにする」とか、そういった仕組みは今の時代ならいとも簡単に作れるはずですが、まったくそういった装備はないんですね。
したがって、「遠隔解錠できる別のデバイスを別工事で設置する」みたいな後付け改造をする必要があったりします。標準装備ならどれだけ簡単に済むか。でもそれがない。なぜか?
それは国内のインターホンのシェアがほぼ「2社」にまとまっているからです。その2社は競合関係にあるかも知れませんが、仮に全国のマンションが700万棟あり、オートロック採用マンションが半分の350万とします。その競合比率が7:3だったとしても100万近くのマンションに設置が出来るので、充分なニーズ確保ができるという計算になります。
こうなると競合会社は「無い」に等しいんですね。そうなると、この設備に技術やアイデアを投資する必要なく、勝手に売れていくので進化させる必要がないということになります。
理由②エンドユーザーを見ていない
次の理由も紐解いていきます。
インターホンは誰が買うか?という点です。ほとんどのケースはマンションを建設する際に決定するでしょうから、デベロッパーが製品選定をします。大手デベロッパーですと、「最初からメーカーは決まっている」ということもあるでしょう。
そしてインターホンが劣化したときに新しいインターホンを買うのは誰か?マンションを所有しているオーナーですね。分譲マンションなら管理組合で決めますが、組合員は素人なので管理会社に選定を任せます。
管理会社も面倒なので「今と同じメーカーで」ということで、思考停止で事が進んでしまうことが多いでしょう。
はい、ここで「誰が買うか?」について答えが出ましたが、「実際に使う人=入居者」は一切登場していないんです。
つまり、インターホンのメーカーは「入居者の気持ちを考えたところで一銭にもならない」ということなんです。恐ろしいですねー。
となると、インターホンが売れる要は、「入居者にとって便利な機能の実装」ではなく、「大手デベやゼネコンに対する積極的な営業姿勢」なのでしょう。ここは推察ですが。
このことから機能拡張に対して乗り気になる必要がないことが伺えます。
理由③ガラパゴス大好き症候群
最後は日本らしい「囲い込みたがり」という性分のお話です。
インターホンって単体で成立せず、玄関インターホンや火災感知器と連動しているので、交換するとなる全部を交換する必要があります。
そして最近のインターホンは「機能連携」とかいう、あたかも「消費者のことを考えてますよ」と言わんばかりの取組みをして、実態は全然そんなことではない囲い込みしたいだけの戦略が見え見えの事を行っています。
例えば「宅配ロッカーと連携し、荷物が届いたらインターホンでお知らせします」という機能。一見便利そうですが、その機能全く必要ないですよね。
郵便受け見れば不在票入ってるので荷物があることわかるし、なんだったらインターホンじゃなくスマホに知らせろよって思いません?
この「連携機能」は宅配ロッカーと紐づけることによって、例えばそのマンションが15年後にインターホン交換をすることになったときに「うちのインターホン辞めると宅配ロッカーとの連携が切れますよー」という意図があります。
大したことない機能でも現状より不便になる製品を選定するわけにはいかないので、継続して同じメーカーを使うしかないんですね。
これが宅配ロッカーだけでなく、鍵やエレベーターとも連携させることで、「他のメーカーを選ぶ余地をゼロにする」という囲い込み戦略なんですね。
「連携」や「連動」とかいう言葉で誤魔化してますが、その実態は互換性が非常に低いガラパゴス製品に成り下がっているというわけです。
理由④(おまけ) 商品価値が商品自体にない
次いで、インターホンという製品自体には罪はないが、結果的に進化を鈍らせている要因の一つかなと思えることを「おまけ」的に説明します。
「商品価値が商品自体にない」とはどういうことかというと、インターホンにどんな機能が備わっているかなんて、ほとんどの人は気にしてないと思うんです。でも「オートロック」という言葉に対しては価値を高く感じていませんか?
例えば賃貸物件の検索条件に無意識に「オートロック」を当たり前のようにチェックを付けていませんか?そうなんです。商品価値は商品自体ではなく、「オートロック」という言葉のブランドが出来上がっているんです。
賃貸物件を探すときに当たり前にオートロックを条件にする。ということは逆にいうと「オートロックのない物件は検索すらされない」ということで、半ば強制的に「マンションにオートロックを付けねば価値が下がる」ということなんです。
でもよく考えると、マンションのオートロックってそこまで信頼性高いですか?普通に友連れできちゃうし、宅配業者なんて深く帽子被ってるのに、「宅配でーす」という言葉だけで「はいはーい」って解錠ボタン押してません?
この状況で「オートロック」って「高セキュリティ」とは言えないと思うんです。でもこの「オートロック」に対してすごい信頼感と価値を感じていますよね。このことでインターホンの価値を勝手に爆上げしています。
そして競合がいない。エンドユーザーの声を聞く必要がない。ガラパゴス化して囲い込みする。
ここまで揃ったら進化なんてさせる必要ないですよね。
でも、すごいところもある
ここまで悪意たっぷりに語っていきましたけど、この状況になるまで長い年月がかかったはずで、そこにはメーカーさんの大変な苦労もあったと思います。そこは評価しますし、「勝手にニーズが出来上がっている」というのはその努力のたまものであり、そういうビジネス戦略であったと思うので、そこに「もっとユーザーのことを考えろ!」というのはナンセンスかも知れません。
インターホンというビジネスモデルをここまで盤石なものにしたという、先人の知恵は本当にすごいと思いますし、頭のいい戦略だなと思います。
そこは素直に感心、感服します。
でもここだけは・・・
でもですね。スマホで遠隔操作が当たり前にできるこの昨今で、それができないというのは「遅れている」と言われても仕方ないんじゃないかと思います。
先日、自宅のインターホンがリプレースされるということで、「1万円自腹で払えばWiFiモデルのインターホンになります」ということだったので、「いやいや、絶対WiFiモデルのほうがいいに決まってんじゃん!」と思い、WiFiモデルのインターホンにしたんですが、取説読んで機能を知ってガッカリしました。
・スマホアプリでインターホンの応答ができる。
・でも解錠はできない。
・インターホンの応答の動画がスマホで閲覧できる。
・・・いらねぇw
応答できるけど解錠できないってどういうメリットなのよ?
外出中でもインターホンには出れるけど解錠はできないってダレトク?
配送業者が来て、インターホンにスマホで出て、「今いないんですー」って言ったら、配送業者も「え?インターホン出たのに?」ってなりますよね。
インターホン出たのに居留守使われた感じになるって、めちゃ印象悪いですよねw
何この機能?w
今日び、WiFiが使えるのであれば遠隔解錠もできるし、APIなり公開してYoomやMAKEを使えば「LINEで”ただいま”って打ったら自動ドアが開く」とかが構築できるとか、掲示板に貼るような内容をインターホンアプリで通知送れるとか、そういう機能がついてるんじゃないかと想像するわけですよ。
それが・・・なにこれ?w
むすびます
ということで序盤はかなり辛口でしたが、インターホンメーカーさんは頑張ってるとは思います。インターフェースも昔に比べてかっこよくはなっています。
だが!
その進化は他の家電製品や設備に比べると立派な「亀」です。
これは「ほっといても収益が約束されているから」と思われても仕方ない進化の遅れであると思います。
最近ではiPhoneやテスラの進化がすさまじいので日本自体が遅れている印象はありますが、そんなことはなく、洗濯機や掃除機、テレビなど日本の家電メーカーは常にエンドユーザーが想像する以上の進化を遂げていると思います。
それと比べるとどうしても「全く進化してねーな」と思ってしまうんです。
売る相手は入居者ではないことはわかっています。大手デベに対してより多くの手をこすっているほうが収益は上がるでしょう。それもわかっています。
しかし製品を使う人間のこともちゃんと見て欲しいなーと思います。
せっかく「なくてはならない製品」にまで発展したんです。もっと消費者に夢を見せてくれると嬉しいなと思います。