見出し画像

【AIR】「労働供給制約社会」の到来を理解するためにレポート『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』を読んでみよう

年々深刻化している「人手不足問題」。運転手不足が原因で路線バスが減便・廃止されたり、能登地震の現場では建設業界の人手不足で解体作業が進まなかったり、その影響はさまざまな業種で広がりを見せています。

・バス運転手は「割に合わない」、人手不足で減便・廃止相次ぐ…残業規制が拍車
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240416-OYT1T50227/

・被災家屋、解体作業進まず 二次被害懸念、背景に人手不足―識者「工夫が必要」・能登地震
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024030101105&g=soc

こうした今、日々のニュース等で報じられる人手不足は、ともするとコロナ禍から急回復している影響からの人手不足と混同されてしまいがちですが、実は日本の人口動態や産業構造に起因した構造的な問題であり、今はまだ序の口でこれから益々深刻化し、長期的に続く可能性が高まっています。

AIR編集長の木下も下記の記事等でも積極的に「供給制約時代」の到来を多くの人に理解してもらうための発信を行っています。

・【AIR】昭和100年の終焉。供給制約時代の到来を理解した地域が生き残る
https://note.com/shoutengai/n/nae380f36f0a6

こうした状況を踏まえて、「労働供給制約」について理解を深めるために参考となるレポートを昨年3月にリクルートワークス研究所が公表してくれています。レポートのタイトルはWorks Report 2023 『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』(以下、「本レポート」)です。

・リクルートワークス研究所 Works Report 2023 『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』
https://www.works-i.com/research/report/item/forecast2040.pdf

現在でも既に様々な業界、職種で深刻な人手不足に陥っている状況です。しかしながら「大変だけどもうひと頑張りして乗り切ろう」という精神論や根性論でなんとかしようという日本人の悪い癖がここでも現れているような気がします。本レポートを読んでいただくと、そういった考えでは片付けられないほど、日本社会の現状はこれまでとまったく違うことが分かってきます。本レポートが指摘する近未来の日本への警鐘をピックアップしながら見ていきましょう。

本レポートではまず背景にある人口動態を取り上げ、国立社会保障・人口問題研究所の推計では2043年までは日本の65歳以上の高齢人口は増加を続けていく一方で現役世代と言われる15〜64歳の生産年齢人口は、2040年代まで急激に減少していきます。

その結果「社会の高齢化は著しい労働の需給ギャップ、需要過剰をもたらす」と本レポートでは指摘しています。また「社会において高齢人口の割合が高まるということは、必要な労働力の需要と供給のバランスが崩れ、慢性的な労働供給不足に直面するということだ。これを『労働供給制約社会』と呼ぶ。」としています。

出典:リクルートワークス研究所 Works Report 2023 『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』

では今後2040年に向かってどのくらいの労働供給の需給ギャップが起こるのか、本レポートでは次のように推計されています。(本レポートにあたり、リクルートワークス研究所独自に労働需給シュミレーションを行っており、需要ブロック、供給ブロック、需給調整ブロックの3つのブロックに分けて予測式を作成し試算しています。)

出典:リクルートワークス研究所 Works Report 2023 『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』

(1)2030年に341万人余、2040年に1100万人余の労働供給が不足する
2030年段階でも341万人余の労働供給不足が起こると推定されていますが、2040年段階では1100万人余の労働供給不足が起きると推定されています。1100万人というのはおよそ現在の近畿地方の就業者数が丸ごと消滅する規模のインパクトです。

(2)労働供給は今後加速度的に減少していく
社会における労働の供給量(担い手の数)は、2027年頃から急激に減少する局面に入ります。2022年に約6587万人であった労働供給量は、現役世代人口が急減していく影響で、2030年には約6337万人、2040年には 5767万人へと減少していくと推計されています。

(3)労働需要はほぼ横ばい
社会における労働の需要量は、今後もほぼ横ばいで推移していきます。労働需要が減少しないのは、2040年までの日本社会においては高齢人口が減少しないことが関係しています。高齢者らは、医療福祉サービスはもちろん、物流や小売等においても人手を介して提供される生活サービスへの依存度が高いと考えられるため、こうした業種を中心に従事する担い手の数がどうしても必要となるため、労働需要は今後も増加していく可能性が高いと推計されています。

以上のような労働供給の需給ギャップが引き起こす懸念点として本レポートが指摘するのが、物流、建設・土木、介護・福祉、接客等の「生活維持サービス」が持続困難に陥り、私たちの暮らしに大きなダメージを与える可能性が高いとしています。

本レポートには生活維持サービスに関わる職種別のシュミレーションも掲載されていますが、ほぼ全面的に労働供給が不足するということがわかっています。ここに挙がっている職種は、現時点でも人手不足の象徴のような職種で「人手がいなくて大変だ!」と騒がれていますが、その大変さというのも日本社会全体が人口動態の変化に伴う労働供給制約に直面していくまだ序の口に過ぎず、その深刻度は年々増していき、しかも15年近くの長期に渡り続いていくということがシュミレーションから見てきます。

出典:リクルートワークス研究所 Works Report 2023 『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』

例えば、建設職種は、2030年に22.3万人、2040年に65.7万人の労働供給が不足するとされています。2040年段階での労働需要に対する不足率は22.0%です。イメージとしては100人必要な建設現場に78人しか集まらないという状況です。

このような状況下では、道路のメンテナンスや補修、災害からの復旧・復興が労働供給制約により滞り、対応できなくなることが予想されます。

現在、「朽ちるインフラ」と言われるような道路、橋、上下水道、公共施設といった社会資本のメンテナンスをしようにも財源不足がネックとなる自治体が多いですが、これからは更にそこにプラス労働供給制約がかかり、財源は確保できても、必要な作業人員数が確保できず工事に着手できないという事態が増えてくるかもしれません。

そうなるとインフラの維持管理が崩壊し、私たちが暮らせる地域というのも建設職種における労働供給制約によって狭まっていくかもしれません。労働供給制約社会というのは実はまちづくりの話とも結びつく話でもあると理解できます。

本レポートには、今回取り上げたデータ以外にも、都道府県別の労働需給ギャップシュミレーションも掲載されており、皆さんの暮らす都道府県の近未来を考える参考になりそうです。

また単に警鐘を鳴らすだけではなく、後半以降では「1徹底的な機械化・自動化」、「2ワーキッシュアクトという選択肢」、「3シニアの小さな活動」。「4待ったなしのムダ改革」と4つの解決に向けた提言や論点整理も掲載されています。

これからの日本社会で大きなイシューとなる「労働供給制約社会」を理解していく手がかりとして、今回ピックアップしたリクルートワークス研究所の本レポートを一度じっくりと読んでみることをお勧め致します。

・『「働き手不足1100万人」の衝撃――2040年の日本が直面する危機と“希望”』
https://amzn.to/4eHvvcD

本レポートを読み、更に掘り下げたい方向けに本レポートのプロジェクトリーダーを担当された方とリクルートワークス研究所で書いた書籍も出版されているので合わせて読んでみてもいいかと思います。

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 300
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?