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1日平均どのくらい走ればいいですか?

 月間1000km走った!など,月間走行距離もしくは1日平均の走行距離はちょくちょく話題になりますが陸上の走競技は「速く」走ることを競うものなので,走れば走るほど速くなるわけではありません.そうは言っても一流の中長距離選手は少なくても月間400kmは走っていると思います.このあたりどのような考え方で月間走行距離の目安を考えていけばいいのか私なりの考えを書いてみようと思います.
 私は競技力を伸ばすためには週に2回程度強度の高いトレーニング(いわゆるポイント練習)が必要になると考えています.そしてその高強度トレーニングの効果を最大限得るために必要な量は専門とする種目(距離)により(経験的に)おおよそ決まってきます.1日に走るべき平均的な距離は,その高強度トレーニングを行う日に走る距離(ウォーミングアップ,ウールダウンなども含めて)と同程度の距離というのが目安となると考えています.
 例えば1500mが専門種目で高強度トレーニングとして400X10とか1200X3とか3000+2000+1000とか8000~12000mテンポ走とか(ジョギングなどにくらべると)強度の高いトレーニングを週に2回程度行うとします.このようなトレーニングを行う日にウォーミングアップ,クールダウンを含めてどのぐらいの距離を走っているかを考えてみます.400X10はリカバリ200jogとすれば6km,アップ20分jog(4km),ウインドスプリントやドリル(1km),ダウン20分jog(4km)として合計約15kmとなります.よって1日あたりに平均して15kmぐらい走ると良いのかなと思います.走らない日も含めて平均15kmということにご注意ください.つまりこの例で考えると月間450km程度が目安になります.
 なぜこのような走行距離の目安を提案するのか?については次のような理由によります.Pozerら(2015)はハッザ族という主に狩猟採取による生活を営む民族の1日の活動距離と消費エネルギーを調べました.その結果,ハッザ族の男性は1日平均11kmほどの距離を移動していることが明らかになりましたが驚くべきはその1日の消費エネルギーでした.彼らの1日の消費エネルギーは活動的でないアメリカ白人男性と同程度であったのです.そしてその内訳を見ると運動が効率的で消費エネルギーが小さい訳ではなく,運動以外の場面におけるエネルギー消費が少なくなっていることによりトータルの消費エネルギーが運動しない人と同程度になっていたのです.「運動をしてもトータルの消費エネルギーは増えない」というのは運動をしてダイエットしようとする人にとっては悲報とも言える結果なわけですがランナー向けに言い方を変えると
「習慣的に運動している人は運動をしてもエネルギー不足になりにくい」
ということです.習慣的な走行距離が少なく高強度トレーニングの度にエネルギー不足が生じると疲労や故障の要因となったり体調の波が大きくなりストレスの原因となったりしますので,長期的なパフォーマンス向上にマイナスの影響があります.このことから,高強度トレーニングを安定的にこなしていくためには高強度トレーニング以外の日になるべく多く運動する必要があるといえます.つまり平均的な走行距離を確保することの最も重要な目的の一つは「高強度トレーニングに使えるエネルギーを増やすこと」と言えます.平均的な走行距離を確保することの最も重要な目的の一つは「高強度トレーニングに使えるエネルギーを増やすこと」と言えます.(大事なことなので2回言いました)
 個人にとって最適な月間走行距離というのもこのように考えると概ね導き出せます.個人特性(スピードタイプ,スタミナタイプなど)によって同じ専門種目の選手でも必要とされる高強度トレーニングが変わります.この必要とされる高強度トレーニングに使うためのエネルギーを確保することが月間走行距離の目的と考えると個人によって最適な月間走行距離が異なるのも納得できます.例えば1500m選手としてスピードは十分あるけれどスタミナ不足が課題の選手は高強度トレーニングとしてスプリントインターバルのようなものよりは3000mや8000m以上のテンポ走などの重要性が高いでしょう.これらのトレーニングはスプリントインターバルよりも消費エネルギーが大きく(走行距離が多く)なると考えられるのでそれに応じて月間走行距離も増やすことが必要になります.スピードが不足する選手の場合は,,,その逆なので割愛します.

以上,参考になりましたら幸いです.

参考
Pontzer, H., Raichlen, D. A., Wood, B. M., Emery Thompson, M., Racette, S. B., Mabulla, A. Z. P., & Marlowe, F. W. (2015). Energy expenditure and activity among Hadza hunter-gatherers. American Journal of Human Biology: The Official Journal of the Human Biology Council, 27(5), 628–637. https://doi.org/10.1002/ajhb.22711