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杉元伶一・原作 加藤伸吉・漫画「国民クイズ」レビュー「命ある限り闘いは続き,命ある限り革命は続く」。

クイズの合格者の望みが憲法より優先され日本は世界一の金持ちで核保有国で世界各国は皆日本に何らかの負債があり例えクイズの合格者の望みが「エッフェル塔が欲しい」で仏国民が猛反対しても負債軽減の為,差し出す有様を描く狂った世界観が素晴らしい作品。

本作が描かれた頃,貧困層の外国人労働者が日本製のラジカセをハンマーで叩き壊して粋がる映像がニュースで流され「金持ち国家・日本」が叩かれてた訳で,そうした世相を知らんと本作における「日本」の設定は分かりにくいかもね。

本作の序盤で「国民クイズ」の実態とクイズに翻弄される欲まみれの参加者の狂態を散々描いておいて「こうした状況は正されなくてはならない」って読者を煽っておいてから満を持して登場するのが国民クイズ体制打倒をスローガンとする革命の闘士・憂木響子なのである。

彼女の爬虫類の様な所作,国民クイズ体制を守らんとする番犬共を一瞬で黙らせる体術,国民クイズ省長官に引導を渡す時の台詞が
「権力者も窮すれば赤ん坊同然ね」「さっおねんねしなさい!」
と最初から最後までただひたすらに格好いいのである。

憂木響子の姉がまたガンダムのマチルダさんと覚悟のススメの散さまの「いいとこ取り」の容姿と性格で格好いいのだ。
潜水艦に乗って海底ケーブルで送信される「国民クイズ」の出題内容を事前に察知しようとする際に技師に向かって
「私は国民クイズ体制の終焉を見届けるまで死ぬ予定は入っておらん!」
「その心算でいろ!」
と言っておきながらクイズ内容の傍受に成功すると
「御苦労だったな技師!礼を言うぞ!」
と一礼する清々しさが素晴らしいのである。

本作の狂言回し・国民クイズの名司会者・K井K一の娘・麻里子もいい。
麻里子が芝生の上を歩くと,草が舞い上がり,ただでさえ凛々しい顔がさらに凛々しくなり,普段はK一の事を「自分を捨てた憎い父親」と悪し様に言っておきながら,いざ父親と久しぶりに再会すると思わず父親に駆け寄って力の限り抱き締める健気さが溜まらないのである。彼女は後に憂木響子の指揮下に入り国民クイズ体制打倒の闘士となるのだが…。
僕は本作を連載時から読んでいたのだが次第に休載が多くなり,絵が荒れ,序盤に張り巡らされた数々の伏線が殆ど回収されないまま,連載が終了してしまい,麻里子が革命の闘士として活躍する伏線も「無かった事」にされてしまったのが本当に残念でなりません。

本作は「やりたかった事」が殆どやれず,それでも最低限これだけはやっておきたい事を描いた打ち切り作品だと僕は思ってます。

初志を貫徹出来なかった打ち切り作品に興味はなく,本作への関心も失ってしまった当時の僕なのだけど,こうして読み直すと,うん,面白いんだよね。
体制を引っ繰り返さんとする活動家の運動が「負けて終わった」訳だけど,
シベリアの強制労働施設に収容されたK井を憂木響子が助けに来て失意のどん底に沈む彼を励ます言葉が素晴らしいんです。

「闘いには熱狂が必要よ!」
「貴方ならマイクひとつで…」
「熱狂を生み出せる!!」

命ある限り闘いは続き,命ある限り革命は続くのである。


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