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ウルトラマンブレーザー「ソンポヒーロー」レビュー「アナタの査定基準で言ったらワタシの人生は「詰まらない」かしら?」

今回の主役は長野県松本市の怪獣損保会社で働く
うだつの上がらない社員・テツオ。
怪獣損保と言うのは怪獣によって壊された
家屋や地盤沈下などを補償するものだがテツオは要領が悪く
後輩からは舐められて上司からは説教される毎日。

そんなテツオが保険勧誘の過程で
亭主に先立たれ今は独り暮らしの老女・ミチコと知り合う。
人のいいのが取り柄のテツオはミチコの家の廊下を拭き掃除したり
蛍光管を交換したり花に水を遣ったり…その様子をじっと見詰めるミチコ。

そのまま夕飯に呼ばれたテツオは
ミチコ手作りの煮物に舌鼓を打ちながら愚痴を零す。

「同級生は皆起業したり芸能人になったり大きな目標を達成してるのに…」
「僕は昔から大きな目標もなくて流される様に生きて来ました」
「詰まんない人生ですよ」

しばし沈思黙考したミチコは次の様に語りかける。

「人生には「大きな目標」がなきゃいけないのかしら?」
「私は早くに主人に先立たれてからただ何となく生きて来たから」
「アナタの気持ちが良く分かる」
「でもね」
「綺麗な花が咲くのを楽しみに毎日水を遣る生活も素敵なものよ?」

ミチコは暗にテツオに対して

「アナタの査定基準で言ったらワタシの人生は「詰まらない」かしら?」

と問いかけているのだ。
言葉に詰まるテツオ。
ミチコは保険の申し込み用紙に記名・捺印すると

「ホラね?「小さな目標」でも達成すると嬉しいもんでしょ?ん?」

と微笑みかけるのであった。

今回長野県松本市で暴れる怪獣は
冷凍怪獣・ギガスとどくろ怪獣・レッドキング(二代目)。
「最初のウルトラマン」からの出演であり,意図的に「怪獣プロレス」を演じ,
ブレイザー・アースガロンを加えて「昭和のプロレス」を再現してるのだ。

「昭和のプロレス」はやれシナリオがあるだの善玉が必ず勝つだの
自称「本当のプロレスファン」から好き勝手に揶揄されて
肩身が狭くなっていったのだけれど
今回の「ブレイザー」では
「真面目に強さを競うプロレス」は偉くて
「昭和のプロレス」は偉くないのかしら?
と問いかけてるように感じました。

まあね。

ゴジラがシェーした時は僕もハラワタが煮えくり返って

「ふざけるな!真面目に戦えよゴジラ!」

と激昂したから
「昭和のプロレス」を揶揄する人達の気持ちは良く分かるのです。

でもね。

今回の「ブレイザー」で「昭和の怪獣プロレス」が再現されて
「懐かしい気持ち」になったのは事実で
「うだつの上がらない会社員・テツオ」と
「ブレイザーでドサ回りの怪獣プロレスを演じるギガスとレッドキング」が重なる様に描かれて両者とも「応援したくなった」次第です。

怪獣に家屋が倒壊される報道を見て
真っ先に損保会社の損失を考える頭脳明晰・成績優秀な後輩と
真っ先にミチコのもとに駆け付け彼女を背負って走り出すテツオ。
「分かり易い絵解き」
と擦れた特撮ファンは思うだろうけど,
子供はそうは思わない。
「ボクが手本とすべきオトナ」はどちらなのか。
子供は冷静に見切っている。
ソレが「コドモの査定」なのだ。

特撮には「目標」があるべきで
特撮に登場する人物は全員が全員その「目標」に向かって
進め一億火の玉となって一路邁進すべき
って考える向きにとっては
今回の「ブレイザー」は「詰まらない話」なのだと思います。

僕はオイボレの爺さんなので「そういう暑苦しい特撮」より
「季節外れのポカポカ陽気に誘われて散歩に出て
道端に花が咲いてるのを見つけてフフっと微笑む様な特撮」
が身に染みるのです。

「ソンポヒーロー」いい話でした。

スカード隊員がお役所仕事の「紙の山」に埋もれ
本来業務が阻害されている描写。
ハルノ参謀長はこういう「余計なデスクワーク」からも
スカード隊員を,本来業務を守っていたんだと
「不在のハルノ」の存在感がいや増す作劇に唸る。


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