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原田浩監督の卒業制作アニメ「二度と目覚めぬ子守唄」(1985)極秘販売版レビュー「俺を笑う奴は許せないッ!」

小学校で3人のいじめっ子から
殴る蹴るの暴行を受ける出っ歯少年の鬱屈を描く。
少年の憤りと大気&水質汚染,ジェット機の騒音,土地開発,
政治家への怒りが並行して描かれ,少年がいじめっ子達を刺殺すると共に,
大地が裂け,家屋が吹き飛び,高架橋が崩壊して行く。
モノクロの線画になった少年が叫んで全てが無に還って話は閉じる。

原田浩氏が19~20歳の頃に
専門学校の卒業制作として作成したアニメーション。
少年は自身も小学校6年間いじめに遭い続けた原田氏がモデル。

非常に精密なアニメ,猫目小僧並みの紙芝居,
実写が入り混じる実験映画の様相を呈する。
いじめっ子達や教師,父兄,警官等がバケモノとして描かれ,
空が常に禍々しい雲で覆われ,
少年の心象風景をアニメ化してるのだと分かる。

いじめや社会問題への憤りとは別次元で
「ジェットや戦闘機,超高速特急列車ってカッコいいよね」
「金田伊功さんみたいなアニメを描いてみたい」
って素朴な憧れが作画に覿面に反映され,
女子高生を裸に剥いて
少年と性交渉に励ませてみたいって要求も取り入れられ,
最後は少年にとっての世界を崩壊させ「この世の終わり」を描くと言う
専門学校に通う20歳前後の若者の
「どいつもこいつもブッ殺したい,女子高生とセックスしたい,
この世を終わらせたい」
って3大欲求が27分間の尺の中に炸裂。

最初は尺が12分だったのが増築に増築を重ねて現在の尺になった様だ。
とまれ弱冠20歳の勢いで最後までグイグイ引っ張られる。
本作の主題曲がファミコンのPSG音源の影響を強く感じさせ
ファミコンブームたけなわの「1985年」って製作年を印象付ける。
作画に相当癖があるが荒々しい作画は70年代を思わせ,どこか懐かしい。

声優を雇う金などある訳がなくアフレコは滑舌の悪い素人感が爆発。
その「たどたどしい感じ」が最高なのだ。

特典は
・監督インタビュー
・原画集
・短篇映像集
・オリジナルサウンドトラック
等々。
短篇映像「少女椿」「ホライゾンブルー」「座敷牢」等々の
題名だけでも涎が出る監督の独特の美意識が素晴らしい。

本作は「極秘販売版」故に
Amazonとか楽天等の市場に一切流通せず
「タコシェオンラインショップ」で
極秘に販売が開始され
極秘に売り上げを伸ばし
極秘に廃盤となった。

闇に生まれ闇に消える
それが忍者の定めなのだ。

少年の「俺を笑う奴は許せない」とは
20歳の専門学校生の
何者でもない
何者にもなり得ない
何でもない若者の魂の叫びなのだ。
その「魂の叫び」は誰もが通過するポイントであるが故に
皆の共感を呼ぶのである。

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