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リドリー・スコット監督の映画「エイリアン」レビュー「本作品の見所」

映画「エイリアン」で正体不明の通信を傍受した貨物船ノストロモ号は
未知の惑星に降り,
船長のダラス,一等航海士のケイン,二等航海士ランバートの3人は
通信の発信源に向かう。
留守居は二等航海士のリプリー,科学主任のアッシュ,
機関士のブレットとパーカー。
船長及び一等航海士不在の際の指揮権は二等航海士のリプリーにある。

未知の惑星に並んでいた卵上の物体のひとつが開口し「中」を覗き込んだ
ケインは顔に異星生物の幼生が張り付き,3人は急いで船に戻る。
異星生物が顔に張り付いた状態では
検疫上の問題があると考えたリプリーは3人の乗船を拒絶。
検疫の終了を待つ様3人に指示する。

だがアッシュはリプリーの職権を無視し3人を乗船させる。

感情的になり易いランバートは
「この人でなし!」とリプリーを平手打ちする。
リプリーは屁とも思わない。
何故なら彼女は「アッシュに自分の職権を侵害されたコト」で
激昂してる真っ最中でありランバートのコトなぞ「どうでもいい」のだ。

アッシュのラボに赴くリプリー。

ねえ…何故私の職権を侵害したの…?
ケインの生命途絶の危険が迫ってたんだぞ!

リプリー「科学主任のアナタが…検疫の規定を知らない訳ないわよねえ…?」
アッシュ「咄嗟のコトで気が動転してたんだ…」
リプリー「『軽率だった』って言いなさいよ」

この場面で重要なのは両者が1画面で
真面に向かい合う場面が全く無いコトだ。

「アッシュと同じ画面に入りたくない」

のだ。
リプリーの怒りは収まらない。

船長のダラスに直訴して何故アッシュを
ノストロモに乗せたのかを詰問するリプリー。

ダラス「地球を出航する2日前に急にダラスが派遣されたんだ」
「会社の命令だよ」
「仕方ないじゃないか」

映画全体を見ればリプリーがアッシュに対し言い様のない不信感を抱くのは
「伏線」だと思うがリプリーとアッシュの言い争う描写は
「伏線」の一言では到底片付けられない「何か」を含んでいると思う。

人間と「人間でない何か」の違い,男と女の怒り方の違い…。
リドリー・スコットが描こうとしたのは「そんな事」ではないと思う。

職権を侵害するコトが如何に重大な問題なのかを表していると僕は思う。
アッシュの職権侵害の結果,ノストロモの乗組員全員が生命の危険に瀕するし
仮にノストロモが地球に帰還したなら
「何故検疫の義務を果たさなかったのか」
の責任をリプリーは必ず問われる訳で
本作はずっと「職責の重さ」「責任の重さ」を描いてると思うのだ。
「職責が重い」から「職権侵害は絶対に許せない」のだ。

正直な話,アッシュが「白い汗」を流して
「人間じゃない」コトを明かす場面は蛇足・余計だと思ってる。
だって僕達が働いていて
職権を無造作に侵害して来る奴等って「同じ人間」じゃん。
「合成人間」じゃないじゃん。
「同じ人間」なのに決して分かり合えず
「同じ」でも何でもない不条理の連続が僕たちの住む世界の実態じゃん。

アッシュは「人間じゃない」から分かり合えなくて当然ってのは
話を終わらせる為の方便だと思ってる。
僕はリプリーとアッシュが延々いがみ合い
他の5人が呆然としている描写を眺めていたかった。
だってそれこそが「本作品の見所」なんだから。

だから…「エイリアン2」の
人間と意思疎通の出来る・分かり合える存在としてのビショップを見て
『キャメロンは「エイリアン」のコトを何も分かってない』と思ったよ。

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