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藤本タツキ先生の「チェンソーマン」第1部レビュー「コベニが与えてくれた気付き。」

父親がヤクザに多額の借金をして自殺し,借金返済の為に腎臓を売り,
右目を売り,睾丸の半分を売っても全然足りず,
悪魔犬ポチタを拾ったのを契機にデビルハンターを始めた
デンジ(16歳)の手取りは月1,800円。
1日食パン1枚をポチタと分け合って食べている。
デンジの夢は
1.食パンにジャムを塗って食べたい。
2.女とイチャイチャしたい。
3.誰かと一緒にTVゲームしたい。
4.誰かに抱かれながら寝たい。
そんなデンジがヤクザに騙されて殺され
ヤクザは「ゾンビの悪魔」の力を得て皆ゾンビとなり
デンジはゴミ箱に捨てられた。
デンジがポチタと契約してポチタはデンジの心臓となりデンジは
「チェンソーマン」として蘇り「ゾンビの悪魔」とヤクザを皆殺しにする。
「チェンソーマン」は公安のマキマと言う女の目に留まり,
彼女は彼に「ジャム付きのパン」を朝食に約束し,
彼はマキマの犬となり
公安のデビルハンターとして働く事になるのであった…。

近所の書店で「チェンソーマン」既刊15巻を購入して読んだのですが,
第1巻から第11巻までが第1部で,第12巻以降が第2部と言う構成。
本レビューでは第1部の事を書きます。

本作にはコベニと言うデンジの同僚が登場するのですが,
彼女は兄を大学に進学させる金を稼ぐ為に親から
「デビルハンターか風俗か」の二択で職業選択させられ
デビルハンターを選びました。
デビルハンターは報酬は高いが危険度・死亡率が非常に高く,
同じく報酬は高いが高校卒業後の進路として選ぶ事が稀な風俗と
双璧を成している世界観です。
「信念のない奴から死んでゆく」
のが常のデビルハンターにあって,彼女は親の言う事に逆らえず,
直ぐテンパって真っ先に悪魔に殺されて死ぬと思ってたのですが,
コレはネタバレとなるのですが第1部の貴重な生存者となります。

それは一体何故なのか。

デンジが第1部終盤でこれまでの人生を振り返ります。

デビルハンターの同僚の魔人の女パワーとの会話
「ウマいモンたくさん食えたし
女とイチャイチャもしたし
一緒に皆でゲームも出来て…
お前(パワー)と一緒に寝て…
借金地獄の時の俺からしたらさ
ホント夢みたいな生活が出来たんだ。
だからもういい…もう生きててもいい事ないしな」

コベニとの会話
「今までの良い思いも悪い思いも全部…
全部が他人に作られたモンだったんだ
今思えば俺は何も自分で決めて来なかったな…
誰かに言われるがままに何も考えねえで使われてさ…
これから生き延びれても俺はきっと…
犬みてえに誰かの言いなりになって暮らしてくんだろうな」

と告白するデンジにコベニはこう返すのだ。

「それが普通でしょ?」
「ヤな事がない人生なんて…夢の中だけでしょ…」

良い思いも悪い思いも全部誰かに作られたモンで
一生犬みたいに誰かの言いなりなって生きるのが「普通」だと
コベニは言うのである。

デンジは人並みになりたくて「普通」になりたくて
デビルハンターを続けて来たが
彼の言う「普通」は「夢を叶える事」だったのに
コベニの言う「普通」は「誰かの言いなりになって生きる事」だったのだ。

「夢を叶える事」って「誰かの言いなりになって生きる事」なのか?
とデンジに問いかける為にコベニは存在し生かされて来たのだ。

デンジは「マキマの言いなりになって生きる事」が
「自分で何も考えずに済むからいい」と思ってたけど
マキマはチェンソーマンしか見ておらず,
デンジの事は最初から一度も見てくれてなかった。

マキマの本当の望みは誰かを支配する事ではなく
誰かと対等な関係を築きたいだけだった。

「夢を叶える事」は「誰かの言いなりになって生きる事」じゃないって
コベニが与えてくれた気付きが
「マキマの言いなりになって生きる事」が
決してマキマの夢を叶えないという気付きへと繋がり,
マキマが最初からデンジの事を見てくれてなかった真実に目を向けさせ,
デンジが真実に目を向けた事がマキマの救済へと繋がって行く。

ポチタの夢は誰かに抱き締められる事で,それはそのままマキマの夢だった。

デンジの夢のひとつが女の胸を揉む事だったけど,
実際に夢が叶ってパワーの胸を揉んでもそれほど感激しない。
マキマは「エッチな事は相手の事を理解すればするほど気持ち良くなる」と言ってたけどパワーの事を深く知るほどエッチな感じがしなくなって行く。
デンジは16歳だからスキとアレする事が「同じ」だと最初思ってたけど
彼はもう「それだけではない」と気付いてるんだよね。

ポチタはマキマの言葉を
「彼女は家族の様なものにずっと憧れていた」
と解説しデンジにマキマが生まれ変わったナユタを
たくさん抱き締める様夢枕で願って話は閉じる。



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