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山口貴由先生の「劇光仮面」第1巻~第4巻レビュー「驚異の大大大大大問題作!」

本作品の感想は幾つかの段階に分けて書きたいと思う。
勿論「理由があるからやっている」のだ。

先ずは第1話から16話まで(第1巻から第2巻途中まで)の感想。
主人公の実相寺二矢は現在29歳・アルバイト。
序盤は実相寺の現在と過去が交互に描かれる。
彼は昭和特撮の非常に熱心なファンで大学生時代には
「特撮美術研究会」に所属していて,
例えば特撮専門誌・夢宙船のバックナンバーに掲載された
「覆面ヴァイパー(本作に於ける「仮面ライダー」的作品)」の
特撮美術作家・狭山章氏の「70年代特撮回顧録」という記事を
「同志」(研究部員を彼はこう呼ぶ)達と検討した結果,
当該の夢宙船のバックナンバーは80年代に発行されたものであり
コレが既に「ヴァイパー」が人気を得た後の
「エッジの丸くなったコメント・スポンサーや裾野の広がった視聴者に
配慮した誰からも突っ込まれない様なコメント」
と結論し,部長の切通と共に狭山氏の元に取材に行き
特撮雑誌では得られない「生の証言」を得ようとする様が描かれる。

あのさ。
誰が書いたのか分からん・従って信憑性の極めて低い
ウィキペディアの記述内容をコピペする事は「取材」と言わんのよ。
それと関係者が存命中なら雑誌の掲載記事より
本人に直接聞くのが「取材」でしょ。
「覚悟のススメ」の連載が終了した直後に
熱心なファンが山口先生の所に直接行って
インタビューした内容を収録して出した同人誌を僕は持ってるよ。
山口先生も「その時の事」を覚えておられるのだと思う。

話の途中になるけど
本作の登場人物は「実相寺」「切通」「成田」「中野」「芹沢」…。
…と特撮の事をホンの僅かでも知る人ならばピンと来る名前揃いなのだ。

特美研は実際に装着可能なヒーロースーツの製作も行っていて
スーツアクターが着たスーツではなく
可能な限り設定に忠実にスーツを作ってる。

ここまでは昭和の特撮とその関係者に
大いなる敬意を払った内容だと僕は思った。

でもね。

それは違ったんだ。

特美研メンバーはヒーロースーツを着て盗撮犯の捕獲・
ヘイトスピーチの妨害・危険生物の駆除・ストーカー被害者の警護・
現在進行中の犯罪の取り締まり…即ちコスプレ自警団を結成して,
活動内容の動画撮影を行い,
自らを「特撮の神様・一ノ谷萬二の後継者」を自称する。
(一ノ谷萬二のモデルは勿論あの人だが書きたくない。)
そして猪留史郎と一ノ谷萬二が撮った
「空気軍神ミカドヴェヒター」のヒーロースーツを装着した実相寺が
リンチに遭っている少年を守る為に
少年5人に暴行を加え,その内のひとりの左眼球を抉り取ってしまう。

実相寺は逮捕され懲役1年執行猶予3年の刑を宣告されるが,
左目を失った少年の母親は判決を不服として
実相寺に2千万円の慰謝料を請求し彼はその要求を飲む。

「僕は今まで山程見て見ぬ振りをして来ました」
「でも仮面を付けた僕はそうはならない」
「見て見ぬ振りなんか出来ないんだ」
「仮面は僕の良心を人並みに補ってくれるものです」

が実相寺の裁判所での証言となる。
実相寺も特美研のメンバーの全く反省していない。
その証拠に29歳になった今,
実相寺は再びミカドヴェヒターのヒーロースーツを装着して
ヒーロー活動を再開し,
かつての特美研の一部のメンバーも彼に協力するからである。

仮に大学の非常に熱心な特撮サークルで
「仮面ライダー」のヒーロースーツを作り,
リンチに遭っている少年を救う過程で少年5人に暴行し,
内ひとりの左眼球を抉り,その模様を動画撮影して反省の色が皆無で
自分達を「石ノ森章太郎の意思を継ぐ者」と僭称したとするのなら
「仮面ライダー」は…「特撮」は一体どうなるんだ…!?

本作の第1話から第16話が
特撮ファンに恐慌を起こした事は想像に難くない。
そもそも!
「仮面ライダー」とか「特撮」の心配を真っ先にする
時点で僕が「人でなし」なのであって
一生残る障害を抱える少年の身を先ず案ずるべきなのだ。

第17話は一見平和な家庭を襲う「怪異」の話。

一見これ迄の話と全く関係無い様に思われるが…。

第18話~第25話までは「覆面ヴァイパー」の変身者を演じる
岩倉芯(要するに本郷猛・藤岡弘,氏)に心酔して
ヴァイパーのコスプレして連続世直し通り魔事件を起こす
少年・藍羽ユヒトと実相寺がコスプレして遊園地跡で決闘する話。

この漫画には1980年代の漫画にあった
「なんちゃって」が一切なく登場人物が笑う事はない。

2巻(少年の左眼球を抉る巻)の帯で漫画家の島本和彦先生は

「ヒーローの概念が素晴らしく俺を置いてけぼりにする!」
「ついていけない孤高の基準で思考し続ける,
山口ヒーローの美学に憧れます!」

と驚きのコメントを寄せている。

正直ね,第3巻が出た時点では
「この漫画が何処に向かってるか分からない」
って意見が大勢を占めていたのですよ。

第3巻の最後の話(第26話)で「びっくりする事」が起こって,
「一体アレは何だったんだ」とファンが更なる困惑に包まれる中で,
最新第4巻が上梓された次第。

第1話~第25話はノンフィクションとして話が進みますが
第26話以降はフィクションとして話が進む様になります。

一言で言えば
「関係各位に多大なる迷惑をかけて来た,ごっこ遊びが突然ガチになった!」
次第です。

でもさ。

ノンフィクション路線からフィクション路線に「路線変更」してくれて
やっと体の震えが止まって楽しめる様になったよ。

第4巻のAmazonレビューを読むと特撮ファンは喜んでる様だけど,
実相寺や藍羽のこれ迄の所業を考えると僕は到底素直に喜べないよ。

僕の居住地域の本屋で第4巻が出るまでは,
第1巻から第3巻までが延々売れ残っていたけど,
第4巻が出た途端,在庫がスッカラカンとなりました。
第4巻になって
やっと特撮ファンが安心して読める様になった,いい例ですね。

僕の第3巻までの評価は「驚異の大問題作!」,
第4巻の評価は「ごっこ遊びが突然ガチになった!」となります。

第5巻のレビューはコチラです。

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