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藤子・F・不二雄先生の「流血鬼」レビュー「換骨奪胎の妙技」

ルーマニアに端を発する謎の奇病が瞬く間に世界中に蔓延した。
この奇病は人間を吸血鬼に変え吸血鬼に噛まれた人間も吸血鬼となる。

吸血鬼たちは高い知能を有しかつて恐竜が絶滅し
新しい環境に適応した猿が進化して人間になった様に
自分たちが人間から進化した新人類であると宣言した。

生き残った僅かな人間にとって吸血鬼たちの主張は到底受け入れられず
十字架と杭を武器に徹底抗戦するも多勢に無勢で
今や生き残ったのは,ひとりの少年のみとなった。

少年のかつてのガールフレンドも吸血鬼となり彼の前に現れ
彼にも吸血鬼の一員となる様説得を試みるのだが…。

本作品の着想はリチャード・マシスンの
「地球最後の男」(1958年)を下敷きとしている。

しかし結末は全く異なり,
異なる種族の価値観の相違の物語を実に巧みに描き
更に理由なき反抗を続ける若者の通過儀礼の物語として
「着地」する辺りが悔しいが実に巧いと感じる。

さてと…なぜ僕は「悔しい」と感じるのか?
それは僕が「多数決」という民主主義の産物に抵抗感を覚えるからだ。
何故100人の人間のうち99人が賛成し1人が反対した場合
99人の主張が「正しく」1人の主張が「誤り」であると言えるのか?

本作がマジョリティにマイノリティが負ける作品に思えて
どうにも腑に落ちないのである。

故に僕は「地球最後の男」…。
ネヴィルの最後まで突っ張る生き様に感銘を覚える。

ロメロ監督の
出世作「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」(1968年)に強い影響を与え

作家のスティーヴン・キングに

「リチャード・マシスンがいたからこそ,わたしも活躍できるのだ」

と言わしめたリチャード・マシスンの
「地球最後の男」に最大の賛辞を捧げたい。

さて話が大きく脱線してしまったが「流血鬼」の評価は
初見の衝撃がトラウマ級であること
また「地球最後の男」の換骨奪胎ぶりの素晴らしさは特筆に値する。

以上の理由から何ら躊躇なく5つ星を進呈する次第である。

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