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映画「スプラッシュ」レビュー「アリエルへと続く道」

20年前,誤って船から海面に落ちた少年を救った少女…人魚の少女。
見つめ合う瞳と瞳。
ぬくもりを信じあう,ふたりは,この時点で恋に落ちていたのだ。

20年後,美しく成長した少女(ダリル・ハンナ)は生まれたままの姿で
ニューヨーク・マディソンスクエアに上陸した。
如何なる魔法を用いたのか下半身が乾燥すると
魚の鱗やヒレが人間の足となるのだ。

彼女がニューヨークにやってきた目的はただひとつ。
20年前からの「恋人」(トム・ハンクス)と再会するためだ。

トム・ハンクス「君の名は?」
人魚の女「え~と(道路標識を見て)マディソン」

大映のTVドラマ「赤い嵐」で柴田恭兵に名前を聴かれた
記憶喪失の女(能瀬慶子)が困ってると
「キミは不忍池(しのばずのいけ)にいたしのぶちゃんさァ」
と命名した命名法ですね。

ただしマディソン人間でいられる時間は7日と限られている。
7日経つと魔法は解け2度と人間の姿に変われないのだ…!

この頃のディズニーは低迷期であり色々なジャンルを暗中模索していた。
本作品もそのひとつで御伽話の「人魚姫」を下敷きにして
「大人の鑑賞に堪えうる御伽話」を指向している。

昔土曜の昼の「独占!女の60分」って番組で宣伝されてたから
「女性向け」だったのだと思う。

ディズニーの言う「大人の鑑賞に堪える」ってのは
トム・ハンクスとダリル・ハンナに
年がら年中イチャイチャさせる事かしらんと思ったけどね。
アニメの「美女と野獣」では
「女は男のトロフィーじゃない」
って視点がキチッと盛り込まれてて感動しました。

僕が一番印象深いのは人魚の実在を信じマディソンの正体を見破る為に
あの手この手で彼女の足に水をかけようとする
黒縁の眼鏡が印象的な海洋学者コンブルース(ユージン・レヴィ)に
関する以下のエピソードだ。

遂にコンブルースはマディソンの足に水をかけ正体がバレてしまう。
「黒服の男たち」に研究施設へと連行されるマディソン。
研究施設で彼女と再会するコンブルース。
余程しんどい実験を受けたのだろう
美しかった鱗はボロボロにささくれ瞳は光を失っている。

コンブルースは初めて黒縁の眼鏡を外し裸眼で彼女を見つめる。
その瞳は人魚を御伽話を初めて知ったときの少年の瞳であり
幼い頃のマディソンを目撃して海洋学者になると決意したときの
青雲の志に燃え上がる瞳でもある。
その瞳がいまだかつてない程,憂いに満ち

「取り返しのつかない済まないことをした…!」

と物語っている。
この場面に台詞は唯のひとつもない。
しかしマディソンを見詰めるコンブルースの瞳が全てを雄弁に物語っているのだ。
この「瞳」を見るためだけでも本作品を視聴する価値は十二分にある。

コンブルースの吹替の広川太一郎さんの演技が絶品でね。
広川さんの硬軟自由自在の演技が堪能出来るので
ブルーレイ出して吹替搭載して欲しいね。

本作品がディズニーの低迷期に撮影されたとは
到底信じられない大傑作映画である。

僕の目は節穴なのでダリル・ハンナが映画「ブレードランナー」で
手裏剣みたいに回転してハリソン・フォードに面倒臭そうに撃たれる
レプリカント役を演じてたとは,ついぞ気付かなかった。

ハリソン・フォードは面倒臭くなると銃で撃って黙らす芸風は
「ブレードランナー」でも遺憾なく発揮されていた次第。

余談でした。

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