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長谷川哲也先生の「ナポレオン 覇道進撃」第26巻レビュー「ナポレオン,遂にセント・ヘレナに島流し…本巻で,この物語は「終わる」と思ってたケド…「もうちょっとだけ続くんじゃよ」。」

前巻ではワーテルローの戦いに敗れたナポレオンに対し,
タレイランはラファイエットを担ぎ出し議会で演説させ
ナポレオンに引導を渡し彼にとって2度目の皇帝の退位を迫る。
彼は退位の要求を受け,実権…軍事力が再び奪われる模様が描かれた。

ナポレオンは米国への亡命を希望していたが
イギリス艦11隻に包囲され計画は頓挫。
彼は身柄を拘束されイギリス・ブリマス港に移送される。
次いで彼はイギリスへの亡命を希望するが
イギリス政府は彼の居住地としてセント・ヘレナ島を選定した。
彼は抗議し法廷闘争に訴えようとするが
イギリス政府は有無を言わせず彼の身柄をセント・ヘレナ島に移送した。

この島が彼の終の棲家となるのだ…。

長谷川哲也先生の後書きによると
本作は本巻で「終わる」予定だったのだが,
ネイとミュラの処刑を同じ話でまとめて済ますコンテを見た
筆谷編集長が難色を示し「ふたりの話」を別々に描く様に指示し,
結果として「ネイの裁判」「ネイの処刑」「ミュラの処刑」が
別々の話となって本巻に収録されている。

従って本来本巻(第26巻)で終わる予定が「話が増えた」結果
次巻(27巻)まで続く様方針が変更され
6話分(単行本1冊分)話が「続く」事となったのである。
次巻(第27巻)が正真正銘最終巻となる予定だ。

本巻には「ナポレオンの島流し」「ネイの話」「ミュラの話」の他に
「スタール夫人の話」「フーシェの失脚(前編)」が収録されている。

アンヌ・ルイーズ・ジュルメル・ド・スタール夫人は
作家・批評家でありフランス革命期からナポレオンの時代にかけて
多くの文芸・政治批評を行いナポレオンの不興を買い,
しばしば活動を弾圧された。
彼女の交友範囲は非常に広く,プロシア王妃ルイーゼ,
ロシア皇帝アレクサンドル,ロシア将軍クトゥーゾフ,
スウェーデン王太子ベルナドット等
「ナポレオンと敵対関係にある人物」と積極的に会っている。
「敵の敵は味方」なのだ。

ところでコレ…「カーテンコール」なんだろうなあ。
「女を描きたくない」「むさ苦しい男だけを描いていたい」
「でも(ナポレオンの母)レテッツィアと
(ナポレオンの嫁の)皇后ジョゼフィーヌだけは描かない訳には行かない」
と頭を抱えられていた長谷川先生が
「萌える女性キャラ」を描こうと(無謀な)挑戦をされて,
伏見つかさ氏のライトノベル「俺の妹がこんなに可愛いわけはない」の
高坂桐乃を大いに参考にされて
キャラクターデザインされたプロシア王妃ルイーゼ,
ロシア遠征に於いてナポレオンを大いに苦しめたクトゥーゾフ将軍の
両名は既に他界してるので再登場が殊更に嬉しいですね。

酒の飲み過ぎで脳卒中で倒れ,片足が麻痺し,
毎日阿片を服用していたスタール夫人は1817年に帰らぬ人となった。

本巻の折り込み漫画によると
スタール夫人のモデルは鴨川つばめ先生の「マカロニほうれん荘」
の昭和の乙女きんどーさん(金藤日曜)だと言う。
てっきり僕は「スター・ウォーズ」のジャバ・ザ・ハットだと思ってたよ。

フーシェの失脚の件(くだり)は次巻に跨るので詳細は伏せるが
シュテファン・ツヴァイクの
「ジョゼフ・フーシェ ある政治的人間の肖像」
が底本になっていると言う。

また本作の狂言回しビクトルがフーシェを川に突き落として
顔を覚えられる描写は
フーシェがビクトルの出世を妨害する伏線だったそうだ。
でもビクトルはその後も歴史的人物に対し
「やらかし」を繰り返しフーシェが邪魔しなくとも
「出世しないキャラ」となって行き
「回収されなかった伏線」となったという。

本巻ではそのビクトルの描写もある。
ロベスピエールがかけていたサングラスを
サン・ジュストが継ぎ
ナポレオンが継ぎ
最終的にビクトルが継ぐのだ。

勇者は死に
腰抜けが生きる

本作第1巻でミラボーが独白した通り
ビクトルは長生きして爺さんになって
酒場で昔話に花を咲かせる姿が描かれ
彼の話は閉じる。

ナポレオンがセント・ヘレナに島流しに遭った以上
恐らくもう戦いは描かれない。

実を言うとね
ナポレオン 獅子の時代全15巻
ナポレオン 覇道進撃既刊26巻で
「戦い」が描かれてないのは本巻が初めてなんだ。

ナポレオンの歴史は闘争の歴史であり
脱出不能な絶海の孤島への島流しに遭って初めて
闘争の歴史が「止まった」のだと分かるだろう。

あと1巻でこの話は閉じる。
本作が「ナポレオンの伝記」である以上,
彼が退場したら本作は「閉じる」他無いのだ。

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