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石ノ森章太郎先生の「さんだらぼっち」レビュー「石ノ森先生が紡ぐ人情噺。」

吉原へと続く門の対面に竹細工を生業としている
「とんぼ」という名の男が営む店舗がある。
彼は飄々とした風貌で「つかみどころのない男」に見える。

普段は竹とんぼや竹馬を作って子供がそれらの竹細工を購入してゆくのが
彼の「表向きの仕事」なのだが
彼には「もうひとつの仕事」がある。
それは吉原絡みの揉め事を丸く収めるというものだ。

吉原絡みの揉め事の多くは銭絡み,情絡みである。
例えば吉原で散々遊んでおきながら銭を払う段になって急に銭を出し渋る
呉服屋の若旦那と彼が吉原で遊んでおきながら
銭を払ってもらえない遊女との揉め事。
両者の顔を立て双方納得ずくで円満解決させるのが彼の仕事となる。

情絡みの依頼も多い。
毎日のように吉原に来ておきながら遊女を冷やかすだけで1度も遊ばない為,遊女たちから罵倒されてる大工がいる。
その大工がある日を境にふっつり姿を見かけなくなった。
遊女たちにとっては大いに結構な話に思えたが彼女たちは大工の身の案じて
なけなしの銭を集めて彼に大工の行方を調べて欲しいと依頼する。
彼は件(くだん)の大工を発見するが
大工は仕事中に事故に遭い片足を失っていた。

「「こんななり」で吉原へなんかいけるかよう…。」

これを彼がどう解決するか。
彼の計らいで久しぶりに吉原にやってきた大工。
いつものように遊女たちを冷やかす大工と
いつものように大工に罵声を浴びせる遊女たちの
両者の目には涙が滲んでいる。

本作品は「さんだらぼっち」という作品名で
どのような話なのか俄かに分かりにくいと思う。
字引で「さんだらぼっち」を引いてみたが
「米俵の両端に当てる円い藁(わら)の蓋(ふた)」
となっていて本作品の内容と合致してない。
石ノ森先生は語感で選ばれたのかしらん。

本作品の特徴は風景描写が非常に多いところだ。
夕日を浴びる鬼瓦(おにがわら),ススキの隙間を通り抜ける赤とんぼ,
首を垂れる稲穂…。
美しい風景に見とれながら本作品を堪能するのも一興であろう。

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