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アニメ「COSMIC BATON GIRL コメットさん☆」ブルーレイ2枚組レビュー「メテオが『類型的なライバルキャラ』って枠組みをブチ壊し『血の通った人間』として描かれ始めたのはひとえに本多知恵子さんの熱演の賜物である。」

小宇宙が沢山集まって構成された「トライアングル星雲」には
3つの星国がありハモニカ星国,カスタネット星国,タンバリン星国という。
3つの星国は緩やかな立憲君主制を敷いているが3者の力関係は対等ではなく
トライアングル星雲全体の主権を握るタンバリン星国の王子に,
ハモニカ星国とカスタネット星国はそれぞれ姫を立て,
競って嫁がせようというのである。
ハモニカ星国の姫の名はコメット(COMET=彗星)(前田亜季),
カスタネット星国の姫の名はメテオ(METRORITE=隕石)(本多知恵子)といい
ふたりは幼稚園時代からの知り合いで
メテオが一方的にコメットにライバル心を燃やしている。

今宵は顔も名前も分からない
タンバリン星国の王子が舞踏会でお披露目をするとあって
メテオはコメットに負けまいと
気合いの入ったドレスを着用して王子を待つが,
コメットは顔も知らない相手をスキにはなれないし,ましてや結婚など論外。まだまだ遊びたい盛りの子供なのだ。

王子が姿を消し地球へ向かったとの報せを聞いたハモニカ星国の重臣達は
コメットに迎えに行かせて心証を良くしようとする作戦を立案するが,
当のコメットはふたつ返事で王子を捜しに地球へ向かう事を快諾する。

地球とハモニカ星国とは浅からぬ縁があり
コメットの母(王妃(九重佑三子!))は青春時代に地球にホームステイして
ステキな思い出を沢山作った話をコメットは聞かされていて,
コメットの叔母スピカ(大場久美子!)もまた地球にホームステイして,
皇籍を捨て,地球人の男性と結婚し地球に帰化している。
コメットには「王子探し」なんぞどうでも良く,
母と叔母の様に地球にホームステイして
ステキな思い出を沢山作りたいのだ。

王子は顔も名前も分からないが瞳に輝きを宿していると言う。
「輝き」と言うのはトライアングル星雲の「星の子達」の力の結晶であり
コメットもメテオも「星力」と呼ばれる魔法を駆使するが
その力の根源が「輝き」であり,王子の「輝き」を取り込んで
自国の繫栄を図ろうとする大人たちの思惑があるのだ。

コメットは王子の「輝き」を追って鎌倉に到着する。
しかし彼女は「貨幣」という概念を知らず
空きっ腹を抱えて途方に暮れている所を
藤吉沙也加(富永みーな)と双子の子供ツヨシ(間宮くるみ)とネネ(松岡由貴)に
助けられ藤吉家にホームステイする事となる。

他方コメットを追って(鎌倉の)由比ヶ浜にメテオも上陸するのだった…。

「コメットさん」は
九重佑三子が演ずる初代コメット(1967年)
大場久美子が演ずる二代目コメット(1978年)
の2度に渡って実写ドラマとして作品化されており
前田亜季が演ずるアニメ版コメット(2001年)が三代目となる。

幾ら僕がオイボレでも流石に九重版コメットは知らず
大場版コメットが僕の「コメットさん」初体験となる。

本作は九重(初代コメット)が三代目コメットの母親として登場し
かつて地球にホームステイした設定で
また大場(二代目コメット)が
三代目コメットの叔母(=初代コメットの妹)として登場し
地球で「本当の愛」を探し当てて
地球人と結婚し地球に帰化している設定となっており
両者ともアニメに登場し九重はナレーターも務めていると言う
実に由緒正しい「コメット三世」と言えるのだ。

コズミック・バトン・ガールという副題の通り
本作に於ける「魔法の杖」がバトンで
バトントワリング協会の支援を受けて
バトントワリングの実演をアニメ化している。
この為,コメットの「星力」はバトントワリングによって発動するのだ。

神戸守監督の音声解説によると本作が制作された頃は
アニメの舞台となる街にモデルがなく
従って「聖地巡礼」という概念もまた無かったと言う。
そんな中,神戸は「日本再発見」をスローガンに掲げ,
日本の良さや日常の中にある新鮮な驚き…。
「輝き」の再発見を目指したと言う。
神戸ははじめ「京都」を舞台にしようと意図したが
1.言葉遣い(方言)の問題。
2.物理的に京都は「遠い」問題。
があり頓挫。
次点の「鎌倉」を舞台として
ロケハン(ロケーション・ハンティング=撮影場所の探索・下見)を
行ったと言う。
本作に頻出する江ノ電・由比ヶ浜・鎌倉駅前の描写・
入り組んだ高低差のある地形等々にロケハンの成果を見出すことが出来る。

ハモニカ星国のモチーフはフランスで
トリコロールカラーが随所に登場し
コメットが「星力」を使う際の掛け声は
エトワール(フランス語で「星」の意味)。
他方カスタネット星国のモチーフは
フランスのライバルと言ったら当然ドイツで
メテオが「星力」を使う際の掛け声は
シュテルン(ドイツ語で「星」の意味)。

当初のキャラクター造形の思想はメテオは意地悪なライバル,
「負け」確定のヒロイン,
コメットの自由・平等・博愛の前に
メテオの傲岸不遜が負ける事が決まっていたと思う。

でもなあ。

コメットを演ずる前田亜季は当時15歳で
メテオを演ずるベテランの本多知恵子が
前田を陰に陽に支える構図が作品に覿面に反映され
メテオは「王女としての心構え」「人の上に立つ者としての心構え」を
コメットに身をもって教えて行くキャラクターへと変貌して行く。

それはそのまま未熟な前田を叱咤し導いて行く本多の姿勢そのものなのだ。
後半メテオ(本多)はコメットに恋する
シンガーソングライター・イマシュンに恋をして
恋愛地獄で煩悶する難しい役柄を演じ切る。
イマシュンがコメットを招待したクリスマスパーティに
ドレスアップしたメテオが(歓迎されてないのを承知の上で)やって来て
「…でも今アナタの前に居るのは…コメットではなくワタクシなのですわ…」
と独白する場面はもうね…到底言葉になりませんよ…。

メテオが「意地悪なライバルキャラ」って枠組みをブチ壊して
「机上の設定」「ペラッペラなキャラ造形」に過ぎなかった彼女が!
「血の通った人間」として描かれるようになったのは
ただひっとっえっにっ本多知恵子の熱演によるものだと僕は思ってるよ。

本作は「大人の事情」で本来予定していた話を全う出来ず,
2001年4月に始まって2002年1月に終わっている。
本来ならば2002年3月まで放送予定があったのだと思う。
クリスマスの話(先に紹介したメテオが死ぬ程気合いの入った
ドレスアップをしてイマシュンの元に向う回)が完成した時点で
プロデューサーの釜秀樹氏は
「あと4回で終わらせてくれ」
とスタッフに引導を渡したと言う。
つまり…本作は「打ち切り作品」なのである。

それから先は本当にもう…バタバタと駆け足で…。
年末年始を祝う事もなく
タンバリン星国の王子が出現し…話を大急ぎで畳んで行く。

だから…本作を第1話から熱心に推していた方ほど,
本作全体の評価は低い。
「期待を裏切られた」「初志を全う出来なかった」
等々が評価が低い理由となる。

本作は僕が初めて購入したDVDであり,DVD-BOXとなる。
当時からネットは存在し,毎話が終わる度に掲示板に感想を書き込んでいた。

僕がうつ病で休職中で社員寮で抗うつ剤飲みながら毎週本作を観ていて
録画媒体はVHSビデオで
DVD-BOXはアニメイトで購入し(Amazonは…あったんだっけ…?)
PS2で再生した。
本ブルーレイ2枚組にはDVD-BOXに収録されていた特典が全て引き継がれ
加えて2021年収録の神戸守,前田亜季,釜秀樹の3者による
1話,2話,42話,43話(最終話)の音声解説が搭載されている。

間もなく僕は解雇され実家に「都落ち」した。
そんな…個人的に体調が最悪で
体重が37㎏まで落ちた頃の「イヤな思い出」も甦って来る。

DVD-BOXはBOXが2箱ある大変かさばる内容だったが
ブルーレイだとSD画質のスタンダードサイズながら
2枚組に全43話が収録されると言うのだから驚きである。
VHSからDVD,ブルーレイと媒体が進化するに従って
「省スペース化が著しい」が感想となる。

そのブルーレイ2枚組が2021年にリリースされ
2024年にAmazonで43%OFFで投げ売りされてたのを保護した次第である。
43話入って1万1千円。
「お買い得」とは思うが「当時の思い出」が
投げ売りされているのを見るのは正直いい気分ではない。


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