一呼吸ごとに終わりに近づいている
夏目漱石の、『こころ』という小説がある。
読んだのはだいぶ前のことだけれど、印象的なシーンは数多くある。
その中に、主人公の「先生」による、自分は死ぬなら明治の精神に殉ずるといった発言があった。
「先生」は、史実でもある乃木大将の明治天皇への殉死にいたく感動したようだが、これは紛れもなく、夏目漱石自身の感情なのだろうと思う。
江戸、明治、大正と、激動の時代を生きた文豪は、きっと自分が明治を築いた一員だという気持ちを持っていたのだろう。一つの時代が終わり、自分の中で何かが死んだような、そんな感覚を覚えたのかもしれない。
今日は、涼しい。
もちろん夏はまだ遠くに去ってしまったわけではなくて、すぐにまた踵を返して私たちのもとに戻ってくるだろう。うんざりするようなあの暑さが恋しいなど、全く思わないけれど。
毎日指の隙間から、「平成」の時間が零れ落ちていくように感じる。私は平成に生かされた人間であり、平成を築いたなどとは思っていない。夏目漱石とは違う。
それでも、平成最後の夏と共に、私のこころの中の何が去っていくことになるのだろうと、爽やかな空気を吸い込みながら考えている。
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