ラグビー#10|ゲインを取らずに勝利!?イングランドのある『武器』に迫ってみた!
欧州王座を決めるシックスネイションズという大会。
2020年は、イングランドが優勝を果たしました。
今年も見応え十分な試合が多かったシックスネイションズ。
詳しいデータに関しても、シックスネイションズ公式HPでレポートを見ることができます。
2020シックスネイションズレポートはこちら
何気なくデータを見ていると、ある事に気づきました。
イングランドは優勝したにも関わらず、ゲインメーターが異様に少ない・・。
気になったので、計6チームのゲインメーター1試合平均を比較してみると、こんな感じになりました。
ゲインメーターとは、簡単に言うと選手がボールを持って前に走った距離のこと。
ボールを前に運ぶ距離が一番少なかったイングランドが、なぜ優勝できたのでしょうか・・。
イングランドの大きな武器とは?
ラグビーはボールを前に投げることができません。
前にあるゴールラインへ向かう方法は大きく3つ。
・ボールキャリー
・スクラムやモール
・キック
イングランドはこの中で、戦術としてキックをとても多く使うイメージがありました。
検証のため、キックのデータも6チームで比較してみると・・
グレイの棒グラフは、1試合あたりの平均キック回数。
ブルーの折れ線グラフは、1試合あたりのキックメーター数です。
イングランドは、他のチームよりキックの数が多いということがわかりました。
しかしキックが多いだけで、この激戦を繰り広げるシックスネイションズを制覇できるのでしょうか??
イングランドは勝つためにキックを有効に使えている!
この仮説を元に取ったデータを、細かく見ていきたいと思います!
キックは誰から蹴っているのか!?
まず、そもそもキックは誰から蹴っているのか。
キックを蹴るのは10番(スタンドオフ)!
という固定観念がある人がいると思います。
正直、結構僕の中にもありました(笑)
イングランドは誰(どのポジション)から一番蹴っているのかを調べてみると・・
なんと9番(スクラムハーフ)からが一番多いという結果でした。
9番からのボックスキックはヨーロッパラグビーのトレンドとなっていますが、1試合に10本以上蹴っているとは・・。
なかなかインパクトがある結果となりました。
右の円グラフで表すと、70%は9番・10番のハーフ団からとなっていますが、イングランドには12番からや15番からのキックオプションもあります。
誰が蹴るか相手に分かりにくくするためにも、複数のポジションからキックを使えるのは魅力的ですね。
また、ある試合のBKメンバーにフォーカスしてみると・・
SH9ベン・ヤングス→右足
SO10ジョージ・フォード→右足
CTB12オーウェン・ファレル→右足
CTB13ヘンリー・スレイド→左足
FB15エリオット・デイリー→左足
利き足が分散しています。
左右得意なサイドへのキックの蹴り分けもすることができますね。
どの位置を狙っているのか!?
ただ単にキックを蹴るだけで勝利に繋げることは、なかなか難しいでしょう。
次は、どの位置を狙って蹴っているのかを調べてみました。
これは、『キックがどの位置に落ちているか』を表したデータです。
グラウンドを12分割してそれぞれのパーセンテージを取ってみました。
ひとまずこのデータからわかるのは、キックで敵陣に入ることができているということ。
自陣に落ちたキックはわずか21%。
全体で79%はボールを敵陣に蹴り込めています。
敵陣でいうと、Zone1・4の左側サイドとZone3・6の右側サイドへのキックはどちらも約30%ずつと、絶妙に左右へと蹴り分けられています。
面白かったのは、Zone2・5の真ん中エリアへのキック。
Zone5はハイボールなどのコンテストキックが多かったのですが、 注目はZone2の使い方。
左右に蹴り分けられるのをケアして、相手が2フル(後ろに2人下がった状態)で両サイドに張っていると、あえて真ん中に蹴りこむ場面もありました。
そしてプレッシャーをかけて相手にタッチへ蹴らせ、マイボールのラインアウトへと持っていくという戦術です。
またスコットランド戦では、スクラムからのセットピースから、こんなキックの使い方をしていました。
下の映像の2:17からに注目です。
いわゆる『いやらしいキック』ですね(笑)
左右に蹴り分けるだけでなく、あえて『真ん中』を狙うのもひとつの武器としていました。
キックの精度はどうだったのか
約8割を相手の陣地へ分散して蹴り込めていることまで分かりました。
ここからが、勝利へと結びつく『キックの精度』です。
キックの精度を調べるために、こんなデータも取ってみました。
これは、イングランドが蹴ったキックを相手がどれだけクリーンキャッチできているかというデータです。
ここで言うクリーンキャッチ数とは、相手がノーバウンドキャッチした数。
※グラバーキックは正面でキャッチできているかでカウント
グラフの通り、イングランドはキックの6割強を相手にクリーンキャッチさせていません。
クリーンキャッチできないと、相手には以下のような現象が起きます。
・キャッチまでに時間がかかる
・ボールを後ろへ反らせてしまう可能性がある
・アタックの精度が落ちる可能性がある
・ボールを失ってしまう可能性がある etc...
要は、相手の思い通りにアタックをさせないようにすることができます。
相手にクリーンキャッチさせないためには、大きくこの2つの方法。
・相手がいないところにキックを蹴る
・プレッシャーをかけることができる位置へのコンテストキック
どちらも『キックの精度』が非常に重要です。
この精度が高いキックを使い続けることで、イングランドはエリアを獲得していきます。
そしてイングランドの得点レンジへと入っていくわけです。
イングランドのTRYレンジと、もうひとつの『強み』
イングランドは2020シックスネイションズで14つのTRYを取りました。
そのTRYが生まれたスタートとなる位置を図で表すと・・
14本中12本のTRYが、敵陣エリアから始まっています。
精度が高いキックを使い続けることで、エリアを獲得することができます。
そしてイングランドが得意なレンジで自分達にボールが渡ったら、TRYを狙いにいくわけです。
もうひとつの『強み』はゴールキック。
このグラフは、イングランドの総得点121点の割合を表したものです。
コンバージョンキックとペナルティゴールが得点の約4割を占めています。
コンバージョンに加え、敵陣に入りペナルティをもらうと、精度の高いペナルティゴールで得点を稼ぎます。
ちなみに、今のイングランドのキッカーはこの3人。
SOジョージ・フォード
SO/CTBオーウェン・ファレル
WTB/FBエリオット・デイリー
ファズことオーウェン・ファレルが正キッカーで、50m級のキックを蹴る時は、エリオット・デイリーの出番。
ジョージ・フォードも非常に正確なキックを蹴ることができます。
チームの中に精度が高いプレースキッカーが3人もいるのは強みですね!
まとめ
まとめると、こんな感じです。
1.イングランドはキックを使いながら、エリアを取る
2.キックオプション(キッカー)が多彩で、色々な場所にキックできる
3.相手にクリーンキャッチさせない、精度の高いキックを使える
3.敵陣に入り、得点のレンジに入ったら勝負を仕掛ける
4.ペナルティをもらったら、3人のキッカーがゴールを狙う
王道と言われれば王道ですが、ヨーロッパを制したラグビーです。
イングランドは特に、プレー1つひとつのクオリティをじっくり見てもらえれば、とても面白いと思います。
今回はキックのことを中心に書きました。
しかし前提として、キックを蹴ってもイングランドのボールにしなければ得点は取れません。
実はイングランド、ディフェンスが大好きなチーム(僕が見ていて)。
ハードタックラー、そしてボールを取り返すハンター達が何人もいます。
そのあたりの記事もまた書ければいいかなと思っています。
今回は3200字もの記事。。
長い文章を読んでいただきありがとうございました!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?