見出し画像

【墓地】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー第27集

noteに眠る記事を掘り起こし、過去と現在をつなぐマガジン計画。眠れぬ夜の奇妙なアンソロジーでございます。第27集(2020年8月号)のテーマは「墓地」。草木も眠る丑三つ時、誰もいない墓場から響いてくるのは何の音。釘を打つ、すすり泣く、丑寅の鬼門から。今月も百花繚乱の記事が揃いました。お楽しみください。

このアンソロジーは月ごとに毎度様々なテーマが決まりますが、「墓地」とはねえ・・・変なテーマに決まりましたねえ。

さて今回は墓地にまつわる17編。
今月も開幕でございます。

目次

01小説「墓地」六井 象
02音楽「ノーカルト≠ノーオカルト」宮悪戦車
03紀行「鳥葬の禊-西四川省」choshinoriko
04小説「村の遺酒屋」ファビアン
05小説「Watcher #11 」磯貝剛
06小説「墓地」虎馬鹿子
07コラム「宇宙葬とは?」吉原明日香
08小説「眠り流しのその後」海亀湾館長
09戯曲「宵闇横丁-弐-」平沢たゆ
10漫画「のびちゃんドラちゃん」Yaukan
11小説「扇風機の憂鬱」アセアンそよかぜ
12小説「城壁と墓」くにん
13小説「百年の恋」りりかる
14小説「ピアノに住んでる白いヘビ」千本松由季
15小説「黄泉比良坂墓地太郎事件簿 かごめ」ムラサキ
16漫画「blue」電気こうたろう
17レビュー「ツィゴイネルワイゼン★★★★★」高杉桂

アンソロジーはこちら

解題

01小説「墓地」六井 象

超短編小説の六井さん。今回の提出作品は一行です。MIJIKAI!日本は引き算の美学。究極に短編化された物語に夢は広がります。
「親父の墓参りに行くから、宇宙服出しといて。」
親父殿の墓は宇宙にあるのか、いま居るのが宇宙で墓参りのために地球に還るのか。帰るべき故郷はいずこ。各御家庭に宇宙服が常備されているのか、この家が特殊な宇宙家族なのか。宇宙服の存在は公然としているのか秘密なのか。謎が謎を呼びます。読者としてはもう想像するより他ありません。


02音楽「ノーカルト≠ノーオカルト」宮悪戦車

墓地と云えばヘヴィメタル。え?偏見ですか?おかしいなあ。
ヘヴィメタルな作品を探しておりましたら、なんともアングラな方がいらっしゃいました。宮悪戦車様はストロベリーソングオーケストラというバンドと演劇を融合させたパフォーマンス集団の主宰をしておられる方です。
ここにご紹介した記事はストロベリーソングオーケストラのPV。
このアングラ。墓地感が漂っておりますね。墓場の死者が蘇りそうです。こんなに面白いことをやっている人々が世の中にいるんですねえ。

ストロベリーオーケストラについてもっと知りたい方はこちら。


03紀行「鳥葬の禊-西四川省」choshinoriko

閲覧注意です。それっぽいものを見たくない方は閲覧をご遠慮ください。それっぽいので!かなりそれっぽいので!
人間が野垂れ死にして食物連鎖の中で分解されていけば墓地など必要ないんですよね。食物連鎖で上位に立つために死して分解されることを拒んだものが墓地なのかもしれません。
鳥葬の儀。私のイメージしていた鳥葬なる文化は「死ぬ→山に運ばれる→放置→鳥が気ままについばむ→数か月経つと白骨化する。」的なものだったんですが、本当は全く違っておりました。半端な知識って役に立たないですねえ。
ここに紹介される鳥葬はまさに人間が自然、食物連鎖に還っていく過程です。自然の中に還るのですから墓など必要ありません。文化って面白いですねえ。


04小説「村の遺酒屋」ファビアン

ファビアンさんのショートショート。よくできております。面白いですねえ。「墓」の存在が「政治的課題」になり、それが「宗教儀礼」になり、慣習化して「エンターテイメント」に代わっていく。祭事ってそういうものかもしれません。例えば先日は土用の丑の日でしたが、土用の丑の日もすっかりエンターテイメントに変わっています。文化をアミューズメント化するのはクールジャパン的傾向ですね。ファビアンさんのショートショートを読んで最後に「あっ」と驚く人が続出しております。


05小説「Watcher #11 」磯貝剛

美術作家の磯貝さんの人気シリーズ「ウォッチャー」。主人公の前に正体不明のオブジェクト生物が突然現れます。主人公の幻覚であるのか、それとも彼らは本当に存在しているのか。毎度、趣向を凝らした静物生命が怪獣図鑑を見ているようで楽しい作品です。磯貝さんのウォッチャーが本アンソロジーに登場するのは二度目です。
前回の作品はnoteの検索機能で「#ネムキリスペクト」を検索すると人気順表示で一番上に出てきますよ!不気味でキモカワな「アレ」をお楽しみください。


06小説「墓地」虎馬鹿子

虎馬さんの実話系フィクション。更新の途絶えたSNSが墓標と化すのは宿命ですね。当人が現実世界で生きているのか死んでいるのかも不明です。これはnoteでも同じですので、これを読まれている方はすべて同じ思いをしたことがあるでしょう。そういう共通観念を掘り起こしたという意味で、この小説は価値があります。
ブログが墓標。といえば十年ほど前?に流行した「呪いのブログ」が秀逸であまりの怖さに私は直視できませんでした。トラウマです。
調べなおすのものおぞましい。
旅行が趣味の女性ブロガーが、ブログ中に様々な謎を書き込みます。果たしてその結末は・・・うう怖い。
おすすめしませんが、ご興味ある方は下記リンク

の中のブラウザノベル「謎と旅する女」をご覧ください。

実はこの「呪いのブログ」はゲームクリエイター・サイバーパンク小説家でもある渡辺浩弐さんのブラウザノベルなんです
。ですからブラウザ上で起こる現象は虚構でありHTMLの産物なのですが、そうと分かっても私には恐ろし過ぎます。同系統のブラウザノベルは全部で三作が作られているようですね。私は怖くて確認できませんが。おすすめは、してません。見ない方が良いですよ。


07コラム「宇宙葬とは?」吉原明日香

埋葬と宇宙といえば、本アンソロジーの冒頭六井さんの小説ですが、実際に宇宙葬なるサービスが現実にはあります。で、吉原さんの記事でその値段やコースの説明が詳しくされておりましたので此処にご紹介致します。

これもクールジャパン的なものでしょうか。葬儀関連業界にも新風が吹いておりますね。

第二十四回墓石デザインコンテスト

業界の新風といえば。前出のファビアンさんの小説には故人の想いを形にした墓石群が並んでおりました。この小説にあったように現代は故人や遺族の想いを形にした自由なデザインの墓石を作ることも可能です。上記リンクは業界団体が主催する「墓石デザインコンテスト」のリンクです。様々な墓石のデザインがあります。

※上記のリンクをご覧になる時はご注意ください。コンテストに出展された墓石は故人が埋葬された実際の墓石です。ご遺族の悲しみが痛恨です。墓の意味を改めて考えさせられますね。


08小説「眠り流しのその後」海亀湾館長

海亀湾館長さんの小説。タイトルにある「眠り流し」は災厄を形代に乗せて川に流す祭事のこと。私にとっては初耳です。東北には「ねぶた流し」という同種の祭事があるそうです。西日本には「虫送り」というやはり災厄を川に流す厄除けのお祭りがありますね。九州では「精霊流し」です。私の土地には川に厄を流す風習は残っておりませんでした。県内に灯籠を流す土地はあります。実際にお祭りがあるところは、この小説のような雰囲気なんですね。

祝祭は非日常的空間。子供たちの楽しむ様子が伝わって参ります。
でも気を付けて。非日常空間には非日常の存在が潜んでいるのかもしれません。うっかり異形の存在を呼び込んでしまわないように。


09戯曲「宵闇横丁-弐-」平沢たゆ

平沢たゆさんの小説も海亀湾館長さんと同じく子供たちの祭事に関するもの。「眠り流し」とは呼ばれておりませんが、「ねむのき」の葉を流すのは「眠り流し」にも共通している作法のようなので、奇しくも同じ題材を扱われておりますね。同じお祭りの子供たちの肝試し・・・偶然の一致が怖いですね。海亀湾館長さんの小説で、描かれた妖怪絵に命が宿り、たゆさんの所に遊びに行ったのかもしれないですね。
たゆさんの小説ではこれらの祭事は「ボンドノ様」と呼ばれているようです。小説中に儀式の次第が細かに解説されております。祖霊を招いて一緒に数日を暮らすのがお盆。日本に死者が溢れる季節です。お盆って奇怪ですねえ。


10漫画「のびちゃんドラちゃん」Yaukan

yaukanさんの漫画が素晴らしいので直接墓地は出てきませんが、ご紹介致します。登場人物はのびちゃんとドラちゃんと「僕」。

のびたは光の中に立っており、ドラちゃんは影の中にいます。光と影が交われば幻影が発生致します。もしやこの二人は幻なのでは。でも真実は語られません。儚くも妖しい美しさに満ちています。
墓石もまた光のあたる面があれば、その裏側は影です。現実と幻の表裏を感じます。


11小説「扇風機の憂鬱」アセアンそよかぜ

アセアンさんの「墓地」は家電品の墓地。象の墓場とか猫の墓場とか、なんにでも墓地はあるものです。
不法投棄じゃ困りますけれどね。
家電品たちが話しているのは死と再生の物語。
再生は人類もまた古来より願ってやまない願望です。


12小説「城壁と墓」くにん

くにんさんの小説です。攻城戦で城壁を攻める兵士たち。次々と倒れていきます。戦争って怖いですねえ。中世の戦争って長閑なイメージがありましたが、昔見た中国の某映画で古代の戦争シーンで集団戦法の場面があり、迫りくる盾の集団に押しつぶされ、盾の間から槍が突き出て串刺しにされ、其処に大量の矢が降ってきて・・・とエグイ戦法がとられておりました。元寇の時に日本が苦しんだものは火薬と集団戦法だったわけですが、基本一対一の勝負をしていた鎌倉武士たちがあんな舞踏の如き盾、槍、弓矢の波状攻撃を受けた日には対処のしようも分からず次々血祭りにあげられたことでしょう。中世の戦争は長閑ではない、という話でした。戦争は古代だろうが、現代だろうが恐ろしいですね。


13小説「百年の恋」りりかる

りりかるさんのエロティックな小説。主人公の霊能者は墓地の桜に日参しますがその狙いとは。リインカーネーション、めぐり逢い、運命。いいですねえ。ロマンチックです。
運命的な出会いには前世の導きが必要だとすると、前世に怠けていると現世ではめぐり逢いを欠いた人生になりそうです。なるほど、私の~~は前世の怠惰が原因だったのか。現世においても~~なのできっと来世でも~~ですね。あーあ!


14小説「ピアノに住んでる白いヘビ」千本松由季

千本松さんの小説。こちらに登場する墓地は「死にたい男」の脳内の墓地。そこには幾匹もの蛇がいて狂乱の宴を繰り広げております。千本松さんもエロティックな小説を書かれる御仁ですが、この度の小説では蛇の性交についてかなりの熱情をもって描いております。凄い世界に突入しましたね。壊れている登場人物の織り成すめくるめく破綻的展開が軽妙に描かれます。


15小説「黄泉比良坂墓地太郎事件簿 かごめ」ムラサキ

これは私。


16漫画「blue」電気こうたろう

電気こうたろう先生の作品です。
コメント欄で「ケニーバレルのミッドナイトブルー」を思い出しますと書いたら、電気さんも「他のアーティストのミッドナイトブルーを聴きながら書いた」とお返事を頂きました。
私の聞いていたミッドナイトブルーはこちら。

ブルージーな世界がこの作品にもマッチしています。「他のアーティストのミッドナイトブルー」がどんな曲だったのか気になるところです。
人間は自分の秘密を大切に守りながら暮らしています。秘密は忌まれるもの、しかし尊ばれるもの。そのような矛盾を抱えた存在が人間でありますね。退廃的な話です。二人に名前など不要です。しかし人間は退廃に徹することができない。悲しいお話です。


17レビュー「ツィゴイネルワイゼン★★★★★」高杉桂

最近、私もこの映画を観まして、大変面白かった。この映画には美学があります。私も映画レビューを書いて下書きに保存してあるのですが、ほかの人の書かれたレビューを読むのも面白いですね。
鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」は内田百閒の「サラサーテの盤」を原作にしております。この「サラサーテの盤」はサラサーテが自ら演奏したツィゴイネルワイゼンのSP盤。3分30秒前後のところでサラサーテが何か喋るんですが、それが録音にも入ってしまった。それがそのまま販売されている。通常聞こえてはいけない声が聞こえてしまっていることから、収集家の間で珍重された品なのだそうです。
そんな話をモチーフに映画には不吉を予言する「声」が幻聴気味に聞こえて来ます。或いは病床に臥した乙女の口から事実の定かならぬ幻惑の言葉が語られます。現実と幻想と嘘と妄執が混濁して映画は進行します。
このサラサーテの聞こえてはいけない「声」はこちらです。

なんと言っているのか聞き取れないもののようですが、サラサーテがピアニストに演奏上の指示を出している声のようです。
映画の影響から私にとってツィゴイネルワイゼンはすっかり死と生の世界を繋ぐ曲になってしまいました。

墓石に耳を充てて聞こえてくるものは。

死者は墓地の下に眠って永い夢をみております。生きている我々も墓について故人を偲び、夢を見ているものかもしれません。
墓石は死者の夢を生者の夢をつないでおります。

今月のアンソロジーも無事にまとまりました。
ご協力くださった皆様、ありがとうございました。

アンソロジーはこちらから。

読者アンケート

恒例の読者アンケートです。お気に入りの作品を教えてください。ROMの方の投票歓迎です。

次回のテーマは???

次回のテーマ決定のためのアンケートです。
ご興味あるテーマにご投票ください。眠れぬ夜の奇妙なアンソロジーの個性豊かな常連作家様がご希望のテーマに四苦八苦致します!

今回のテーマ候補は多いですねえ。票が散らばるので一票の差が大きいですよ。またもや奇抜なテーマに決まるのでしょうか。
フォームが表示されない方はお知らせください。

二つのアンケートの締め切りは8月11日18:00です。投票よろしくお願い致します!

#小説 #眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー #ネムキリスペクト #墓地