NEMURENU「知らなかったんだ」コメント集、次回テーマ発表

コンバンワ。最近なんだかとても眠くて。
アア、ネムイ。と、欠伸をしたら何時の間にやら夢の中。
珍妙の徒に囲まれて、画期的な「かまぼこ」の企画開発や、世界平和についてアレコレ胡乱の談義を交わしております。
「新しい蒲鉾は弾力が違う」
「本当だ、珍しい食感だね」
「いつまでも口に残る」
「これはまるでガムだね」
「そうだね、味のないガムだね」
「売れますかね」
「うん、売れる、かな」
「巨額の開発費が投じられて、我社の命運がかかっております。」

へえそうかい、こんなガムにね・・・。
おっと夢か・・・。
・・・良かったなあ夢で。蒲鉾工場の命運を見ずに済んで良かったなあ・・・。

眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー第37集「知らなかったんだ」

今宵も何処からともなく珍妙の「眠れぬ夜の奇妙なコメント師」たちが集まって参りました。この度も熱量多めです。カロリーが燃えております。


眠れぬ夜の奇妙なコメント師たち

 おにいさまへ・・・ さん

コメント師プロフィール 
面白いテーマがますます増えて、毎月参加せざるを得ない感じです。

まず作品全体についてです。「知らなかったんだ」というテーマは大変すぐれていたと思うんです。でもほんとにそれを活かしきれていたかな? という作品が多かった。イメージだけ心に秘めて書いても間違いではないのですが、ここまで特徴のあるテーマの場合、「知らなかったんだ」という言葉をそのままどこかに出して欲しかった。

特選 朝見水葉 一つの世界を確実に創り上げた、と思います。文章は重厚で隙が無いです。どこに持って行かれても成功する作品だと思います。このくらいの長さがあると、普通は途中で世界観がぶれたりするのですが、そういうこともなかった。あんまり褒め過ぎても気持ちが悪いので、一言。あなたの作品をお金を出して買うのはどんな人なんだろうと、ターゲットを絞り込んで、その人達に向かって書くと、必ず成功すると思います。

秀逸 ムラサキ 今月のはいつものと違ってた。私のもいつものと違ってたけど。変われるって、凄いことですよね、ってついでに自分も褒めてますが。物語性がありました。絵本を読んでいるような感じ。風景がどんどん変わって、ストーリーが流れているような。SFっぽいもの、私は書いたことないんですが。とんでもない展開になる小説って、SFとかファンタジーとかミステリーとかかな。ファンタジーは書いたことあるけど、あとの二つは書けないかな。あ、でもミステリーは一度書いたことがある。誰も死ななかったけど。よし、あれをもう一回やってみよう!

佳作 海亀湾館長 なんだか毎月同じ人に入れてしまうんですけど、すみません。やっぱりこの作品には私の、知らなかったことが色々書いてあった。それと、この方の軽いタッチがいつも好きです。最初の方の「秘所へ潜り込もうとする」だの「精子の群」だのという言葉が好みでした。下着のカタログには燃えない、というのも新鮮でしたね。知らなかったです。あ、今、思い出したけど、私の男友達が言ってたんですけど、下着のカタログでも、ほんのちょっとパンティー(死語?)の裾からとか、ブラジャーの下の所から肉がはみ出ていると、燃えるそうです。男性の身体ってまだ未知の部分ってあるんですね。無駄に年を取ってきた感じです。反省しよう! 知らなかったんだ!

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 真城 さん

コメント師プロフィール 

小説「豚人間」
自分の神様が、多少なりとも居るのが人間なのだと気づかされた。「神もいない」そんな状況は、あまりに絶望的でした。
一つ一つ小さな階段で作者に導かれ、我々は絶望の淵まで行かされました。まるで、死刑台のような感覚でした。
豚人間という主人公の設定。豚人間そのもの理由。人間に蔑ろにされる主人公と、そうとはしない人に見せかけたアーサー。アーサーの存在は私たちを深く傷つけられた装置です。しかし、それはクロールのそれとは程遠い。彼を私たちは、彼を間近で見ながら、彼の哀しみのどれをも分かってあげれないだと。そうだとすると、二重の絶望に落とされているのだと気づくのでした。
この作品で私たち人間は、ほんの少し向こう側に、つまり人間に利用される側に行けば、私たちはほぼ悪魔であると、突き付けられます。クロールの絶望のほんの少し手前に彼の夢の世界が垣間見えます。
それを、愛おしく思えるのも、私たちが人間だからでもあります。
とても、胸に響いた作品でした。

小説「一昨日のサーモン」

入り口はどうでもいい感じの形で、ほうほうと戸に手をかけてみる。その瞬間、我々は民話の中に閉じ込められているように、出ることが出来なくなるのが民話さんのお話の特徴です。普通の世界から、奇妙なボタンの掛け違いが始まり、我々の脳みそは作者の呪術に嵌められて、酩酊するのが常であります。
一昨日に一見さんが再び来るを繰り返して、元から戻ってくるというこの入子のタイムトリップは初めて読んだ気がします。こんなことを思いつく事が凄いのに、この設定で大きな装置も作らず、噺にしてしまう感覚とバランス。エンターテイメントと言えば軽々しいですが、手を離して乗り込んでしまえる。たた、民話さんの才能を楽しむ。やはり、これは贅沢なひとときだなぁと思いました。

コラム「幽霊文字」

探究する。それは好奇心が原動力でしょう。しかし、一旦そう書くとまるで自分でもできてしまいそうに思いますが、探究する人の其れは私の持ち合わせてる好奇心とは質が違います。
幽霊文字にたどり着ける。その航海の過程を私には分かるはずも無い。好奇心がとても重くて純粋であるから、その航海を続けられるのです。
恐らく言語学者や、情報学の方からたどり着く、幽霊文字では私のところには来なかったんでは無いかと思います。

日々の好奇心。探究。
それによって私に新しい領域を照らしてくれたこと、それに感謝します。

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 新入り獄卒 さん

コメント師プロフィール 
令和三年採用の獄卒同期一同でーす。地獄勤務忙しいですー。皆さん、こっちに落ちてこないようにお願いしますねっ。今回は同期の内で私が担当しまーす。

今回のテーマは「知らなかったんだ」。なんだか、聞いただけで胸が苦しくなったり、心が切なくなったり、誰かを愛しく思ったりしてしまう、とってもエモーショナルなテーマでしたね。
 一読しただけで青春の日々に帰ることができるような爽やかな作品から、わたしたちが意識から遠ざけていた、重いけれども大切なものを描いた作品まで、様々な作品が集まりました。流石、ネムキ派の皆さん!

コラム「幽霊文字」 ブラフさん
 前半では実際にある「幽霊文字」についての話で読者の注意を引き、後半でさりげなくある一点にその視線を誘導する。そこは薄暗い想像の世界。向こう側を楽し気に歩き回っているのは、まさか・・・・・・。
 「怖い話」は、考えれば考えるほど実感を伴ってきますよね。
 ショートショートのホラーとはこう書くんだというような、素晴らしい構成だと思いました。

小説「豚人間」 ムラサキさん
 本作は、「豚人間」という、消費する「人間」と消費される「豚」との間の存在を主人公として、わたしたちが「知らなかった」、いや、「知ろうとしなかった」ものにスポットライトを当てています。
 そうなんですよね、わたしは「消費する」なんて書きましたけど、実際は屠殺、つまり、殺しているわけなんですよね。豚を。鳥を。牛を。わたしたちは。でも、美味しいし、お肉。
 稀代のストーリーテラーの手により、口当たりよく仕上がったけれども完全に消化するには時間が掛かる本作(誉め言葉です( ;∀;))、高校の教科書か副読本にお勧めしたいですね。


小説「ズボンの膨らみ」 海亀湾館長さん
 本作の様に過去の出来事を後で知らされて驚くことってありますよね。でも、それはそれ。過去にあった出来事は過去にあったことで、自分が知っている現在のことはそれを踏まえて起こっている現在のことなんだから、今を信じればいいのかななんて思っちゃったりします、わたしは。
 でもねぇ、人の心は思った通りに割り切れるようにはできてなかったりしますよねぇ。
 そんな時は、しこを踏みましょう。心とあそこに余裕が持てますよ、きっと。

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 ななしろ さん

コメント師プロフィール 
はるか昔のラジオネーム。
せっかく参加しているので投票したく思いました。
元来コメントや感想文が苦手ですので、短くても書き手さんの原動力になればと。

03「短詩と随想のモノ騙り」としべえ2.0βさん
作者がみている世界を覗きみているようでうれしい気持ち。頭のなかでなく、目でみているものを。となりで話してくれているような心地よさがありました。

09 「一昨日のサーモン」民話ブログさん
すごくおもしろかった。いつ終わるんだこの茶番は、と思いながらいつまでもみていたいような気がしました。

10 「豚人間」ムラサキさん
ぞわぞわとする、薄目でみるような奇妙さなのだけど、読み進めるうちにこれはいい話なのでは? と感情がよく変わって刺激的。ラストが気になって仕方がない作品でした。

300字以上書けなかったらどうしようと思っていましたが。
やったぜ。書けたぜ。
苦手と思ってたことってやらなかっただけなのだなぁと気づく。
自分を褒めつつ、みなさまの作品に感謝。
ひどく偏った人間なので読めないジャンルもありますが、創作する全てのひとはすげぇんだ。そう思ってます。
次回も楽しみです。
ムラサキさんいつもありがとうございます&おつかれさまです。

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 ワンポール式テント さん

コメント師プロフィール 
ぎりぎり、間際、寸前、滑り込みの投稿が多く、ときどきしくじる
最近買った本:『ブリーディング・エッジ』
最近好きなアイス:『牧場しぼり アフォガード』

 今月も、素晴らしい作品が揃ったアンソロジーでした。コメント師は偏っていい、という気持ちが楽になる言葉を頂いておりますので、身悶えしつつも気になる三作を選びました。


最初にあげたい作品は、

12 小説「Lotus Flower Lovers」りりかるさん

 後半にある愛の交歓シーンが目を惹くこの作品ですが、二人の出会いからじっくりと物語を立ち上げているところは、正統的な恋愛小説の幕開けという風情が感じられて好ましく思います。中心人物の二人を、それぞれ現在の状況から背景まで滑らかな筆致でそつなく紹介しているので、物語に没入しやすかったです。蓮の花のメタファーが随所に配置され、蓮花と蓮太郎の道ならぬ恋に、夢のような馥郁たる香りを差し込んでいます。二人の許されない恋というよりは、恋そのものがタブーだった二人、という真実は衝撃的であるが故に、すべて夢に帰す余地も残してあるように思われ、官能とメルヘンのハイブリッドなストーリーとして、心に刻んでおきたくなる作品でした。

11 小説「きれぎれに、とぐろまいて」朝見水葉さん

 この作品の作者が書く文章を毎回注目しています。書くところと、書かないところ……一つの文章を組み立てるときに、この二つを意識的に実践してみたい気持ちに駆られる文章です。

(学校から帰ると、母は縁側に正座をして泣いていた。半年程禁煙していた母が、缶ピースをふかしていた。私は、無邪気に妹弟の誕生を願っていた自分を恥じた。)

 私はこの文章を何度も読んで、作者が書かなかった箇所を前後の文脈から想像して、震えたり唸ったりしました。このような純文学作品に出会えることは喜びです。

 狂信的なひとつの家族の歴史を、主人公は手記にしたためます。この家族に何が起こっていたのか。主人公が書いていないところ、すなわち、タイトルの〈きれぎれ……〉という言葉をここで思い出すとき、私はまたもや興奮とともに震え、この小説の作りに唸りました。

09 小説「一昨日のサーモン」民話ブログさん

 一度読み始めたらするすると引き込まれてしまう魔術的な語りの巧さを感じます。飛び抜けた発想が仕込まれていて、最終的にどこへ連れて行かれるかわからないところが、この作品の強烈な魅力です。結末を予測することはもちろん、好奇心が刺激されているために途中で読むのをやめることも不可能。しかも読み終えても永劫に続いていく果てしない眩暈。まるでピタゴラスイッチの仕掛けが施された終わらないドミノ倒しを見せられているようで、高度な文章表現に舌を巻きました。

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 文塚 さん

コメント師プロフィール *
ROM.

熟慮煩悶の末、以下三作。
最大限の敬意と共に。

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ブラフ/幽霊文字

幽霊文字、である。
非常にロマンティックだ。わくわくする。
「ワケの分かるもの。」の総体が生活であるとしたら、「ワケの分からないもの。」の総体とは何であろうか?
極言する。それは、ロマンである。

墸壥妛彁挧暃椦槞蟐袮閠駲。
墸壥妛彁挧暃椦槞蟐袮閠駲?
墸壥妛彁挧暃椦槞蟐袮閠駲!

読めず書けずコピー&ペーストするしかないこの文字列に、読めず書けずコピー&ペーストするしかないが故に宿る、読めず書けずコピー&ペーストするしかなさ。
無力さが産む滑稽な興奮。「外道照身霊破光線! 汝の正体みたり! でも読めません誰ですか?」


アンソロジーの嚆矢に相応しい、不思議に満ちた好稿。
ブラフ氏の着眼と安定感のある筆はこび、そして蒐集したムラサキ氏の炯眼に拍手と御礼を捧げたい。ありがとうございました。

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民話ブログ/一昨日のサーモン

江戸前寿司とタイムリープ。
頑固親父がビッキビキに青筋を浮かべそうな奇抜なネタが、読者の口腔に胃袋に脳味噌に襲い掛かる。おなかいっぱい。
民話ブログ氏にしては小品ではあるが、写真と強調文字群の配置も目に愉しく、氏の優れた視覚センスを存分に堪能することができた。
展開と結末は一見むしろ王道寄りのパラドクス。捻りの回転数は控えめながら、回転速度が韋駄天走、ひと息に物語へ引き込まれる。この話術と呼吸とがお見事のひと言。
読点無き流れるような一文で開幕した本作は、その流暢さが疑似餌であったかのような人の悪い笑みを浮かべて、立て板を水が遡る様に、滑り台を駆け上がる様に、読者の脳をペテンに掛ける。
「一昨日来る。」と云う異能のマジックが、SFお馴染みの if-else 的パラレル世界を産み出すのでは無く、シリアル世界のままに(あっけなくパタパタと!)改変してゆく結末は強烈にファッショで暴力的ですらあり、倒れ続けたドミノの列は消えて、唯一枚だけの、まっさらな青年店主が立っている、見慣れない過去、見飽きた未来、シリアルな世界のシリアルな店主は、本当に地続きの彼、足り得るのか?では、シリアルな時間とは?と考えると。
笑い声もいつしか震える。(一番恐ろしいのは、誰も知り得ぬこの話を「語った」老酔漢であることは間違いないが。)

罪深く愉快な作品だった。毎度のことながら、正直、才能の桁が違う。

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ムラサキ/豚人間

ハッピーエンドだ。と私は思う。
豚人間の眠りによって、異種族間の対立は去る。
奪う者と奪われる者、役割は明確になり、世界に調和が訪れる。
美しく、平和で、幸福な世界。

現実世界において、その役割は相克している。
奪う者は又奪われる者でもある。
人間は豚人間から奪い、豚人間はスズキから奪う。勿論スズキも、何かを。
スズキの墓に涙する者は無く、従って豚人間の墓に花を添える者もいない。
それで良いのだ。そっとしておくが、良いのだ。
血濡れた手で撫でてみても、墓石が汚れるだけだから。

豚人間は奪い続け奪われ続け、奪われ終わることで、ついに奪い終わる。
いつかは、奪い終わるのだ。その矜持だけが、罪深き生の救いでもある。
抵抗しないこと。奪い返さないこと。世界の調和を乱さないこと。
ガリラヤ魚がイエスを、チーナカ豆がサッカを断罪する世界の片隅で、陽下の夢に逐電して安穏を得た豚人間、その最期を私はハッピーだと思うし、強く羨望する。
おやすみ、クロール、そしてスズキ。どうか好い夢を。

悪趣味とも取れるテーマを軽やかな重さで描き切る中で、豚人間に「想像力」と云う楽園の切り札を与えた作者のロマンとおセンチに敬意を。ムラサキ氏に名作傑作数あれど、今作もまた出色の一篇、代表作と称して不足無き作品であり、今回のアンソロジーの中で最も愛おしい、大切な作品となった。素晴らしかった。
心より感謝したい。

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以上。

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 小牧 秋 さん

コメント師プロフィール 
AB型

warning! warning!

頭の中で警告音が鳴る。
読書中にも拘わらず、「セカンド自分」(※後述)が脳内で勝手に検索を始める。

「私は『この落語』を知らないか?本当に?」
「いっそ『似た落語』でもいい、何か該当しないのか?」
「本当に?一切?知らないのか?」

「ということは……、今。」

「私は、新作落語の、誕生の、瞬間に、立ち会っている。」

・・・・・

小説を読んでいてセカンド自分が出てくる事ってあまり好ましくないように思います。小説の面白さに”圧倒”されて”没入”していればセカンド自分は出てこないだろうと。

※セカンド自分‥榎本俊二の漫画「ムーたち」に出てきた概念で、
「何か作業している自分〈ファースト〉を見下ろし、全く別の事を思考する自分〈セカンド〉」のこと。難しい本を読みながら今日夜何食べようかなとか思っちゃうアレです。
お下劣な漫画を描く事に定評のある榎本俊二ですが、「ムーたち」はお下劣をほぼ封じた非常に稀有な思考実験漫画です。マストバイ。全二巻。


しかしながら、民話ブログ『一昨日のサーモン』を読んでいる時、その面白さに圧倒されながらもセカンド自分の出現を抑える事ができませんでした。今目の前で起こっている事があまりにも奇妙で、とても信じられない。私の目の前で新作落語が形作られていっている。
民話ブログは、彼自身や彼に似た主人公が語り部となり、ただの日常をエンタメに魔改造して美しい日本語で滅茶苦茶に面白い小説にしてしまう、元々才能にあふれた作者であることは知って……知っていたつもりでした。

ははは、これこそ「知らなかったんだ」ですね。

あまりに伏線っぽくて自分で笑ってしまいました。
とにかく、民話ブログがここまでの才能を持っているとは知りませんでした。非常に面白い小説を書くなとは思っていましたが、落語まで作れてしまうとは。
『一昨日のサーモン』は落語としてあまりに完成されて過ぎています。
寿司屋の親父のちゃきちゃきの口調と開店当時の優しい口調の演じ分け、これは噺家の力量が出るやつだ……!誰々の演ったやつはクドくていけねえ、みたいな事を言われるやつだ…!
「サーモン」「一昨日」「サーモン」「一昨日」の掛け合いのところもお客さんがわーー!!!って拍手していくやつですね……完全にその光景が見えます。
このあとの「ああああああああああああああ……?」も噺家によって味わいが絶対違いますね、絶叫タイプや白目タイプ、静かに卒倒タイプなど色々ありそうです。この演目は江戸落語に属する(属する?)ので、上方の噺家が演れないのが非常に残念です。


興奮のあまり、持ち時間がなくなってしまいました。
以下、簡素になって申し訳ございませんが選評の続きです。


『豚人間』村崎懐炉/
村崎懐炉の小説は読んでいて気持ちがいい。登場人物の名付け、擬音、括弧で括られた「と」、どれもこれも細部まで丁寧に作者の目が届いていている印象で隙がない。センスの塊にも見えるし作者の途方もない努力の賜物にも見える。これが詩人か、と毎回思う。音が気持ちいい、形が気持ちいい。
また、彼の作品は悲しい結末になる事が多く、『豚人間』でも主人公は最終的に「と」されてしまう。が、読んでいて苦にならない。
「ほらほらどうです悲しいでしょう?」と問いかけてくるような悪趣味な表現が全くないからだろうか。ただ淡々と悲しさを書く。血や臓物をぶちまける凄惨でやるせないシーンが作中にどれだけあっても、村崎懐炉の文章が持つ上品さが、上手くバランスを制御している。


『深淵さん』磯貝剛/
掴まれてしまいました…。可愛いものの前に人は無力だな。
待機時間に御本を読んでいるのも可愛い、こっちに来るとき御本を手放さないのも可愛い(さっと終わらせて続きを読むんでしょうか。可愛い)、舞台裏からはやっつけ仕事っぽさが推し量られるのに、オモテだけでも「カッ」とやる気のあるところを見せていて可愛い。
可愛いものの前に人は無力ですかわいい!

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 亡骸三太夫 さん

コメント師プロフィール
漢中天坑群に月兎と一緒に暮らしている。主食は煎餅。好きな芸能人は羅生門綱五郎。
関節が弱い。最近血液が緑色になる。
好きな言葉は「鯨骨生物群集」

うむ。
この度も面白い作品が多くて、三つを選ぶという事が心苦しい。胸が詰まる。動悸がして目眩がする。眼前に星が降る。困った、高血圧だ。少し横臥の必要がある。こころなしか熱がある。体が熱い。病だ。悪い病気じゃないと良いのだけれど。念の為、今日は一日寝ていようかしら。お昼まで寝て、気分良くなったらぶらり散歩でもして、お茶屋で珈琲と団子などいただこうかしら。あんみつでも良い。最近は愈々暑くなってきたからわらび餅が良いかしら。散策しながら街角の猫でも追いかけようかしら。

今月は「熱」という観点で作品を選びたい。観点が変われば選ぶ作品も変ります。絶対の尺度で選定する訳では無い事にご留意されたし。

作者がまず発熱しておらねば「熱」のある作品は生まれない。書きながら愉悦の笑みを浮かべて、或いは悲憤に慟哭して。作者の熱が直情的に表面に出る作品もあれば、熾火のように静かに点る熱もある。「 作者の熱病 」が作品を媒介に感染するような、そんな作品を選んでみたい。

「民話ブログさん 一昨日のサーモン」
「クマキヒロシさん 知らなかったんだ」
「りりかるさん ロータスフラワーラバーズ」

民話ブログさんの「一昨日のサーモン」は「一昨日きやがれ」という遊び言葉が実現するSF設定がとても面白かった。時空を歪曲するには相当の熱量が必要で、それは小説においても同様。時空の超越が説得力をもって成立するためには、作者が相応の熱量を発揮しなければならない。「あああああああああああああああ」時空が捻れる熱量が嗚咽の文字数に表現される。作者の空想を楽しむ遊び心が窺える作品だった。今回並んだ作品の中で、作者が創作を、世界の構築を、物語の組み立てを最も楽しんだ作品と言えるように思う。

クマキヒロシさんの「知らなかったんだ」。オムニバス、短編、ショートショート。いくつもの設定で展開される「しらなかった」の物語。とても読み応えがあった。作品として形が整形される以前の原始的な創作欲求が、病理的に書き連ねられる。あれも書きたい、これも書きたいと筆が止まない。意欲は一作品になどまとまらない。熱に魘されてみる悪夢のように物語は断片に果てなく続く。作者の創作に対する純然たる情熱が感じられて好ましい。こんなに発想が湧いて羨ましい。

りりかるさんの「ロータス フラワー ラバーズ」は物語の構成がよく練られていて、驚かされた。それに加えてこの官能感。
官能を描こうとした時に、表現は私的に偏る。少なからず自らの性癖を暴露される。其処に躊躇が見られ、モザイクだらけの非成人作品に終わることも少なくないが、本作は赤裸々に裸形を晒す事を躊躇わない。文章で裸形を晒す事は緻密の産物であって、書き手の集中力が問われる。雑には書けない。その集中力が緊張を孕んでいて本作品の価値を二重に高めたように思う。

作者の個性が前面に出ることは読者の好悪が別れる所なので、今回選ばなかった作品が見劣りしているとも思わないし、むしろ選んだ作品よりも優れた作品はあったと思う。それら作品も本当は列記したい所ではございますが、趣旨に鑑みお察し下さい。皆様、当月もお疲れ様です。骨が太くて良い作品が沢山集まるようになりました。嬉しい事です。
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 エベシト人の手紙 さん

コメント師プロフィール
昨晩は蚊の猛攻に苛まれ、眠れぬ夜を過ごした。目覚めて気がつくと、コメント集が出ている。しまった、出遅れた。けれども憚りなく後出しジャンケンをして澄ました顔でいる、それがわたくしなのでございます。

10 小説「豚人間」村崎懐炉
前回の鋼鉄人間の話も素晴らしかったが、今作はさらに上出来で文句のつけどころがない。
豚人間という謎の提示、生きることの困難、生命の持つ不条理性などなど、考えるに値する課題が考えられるべき道筋を辿って描き解かれてゆく。
一旦はハッピーエンドを予感させ、それを覆し、さらにもう一度つかの間の幸せを現出させた上で、結末に人生というものが道連れにせざるをえないデッドエンドを持ってくる物語の余韻は深い。
読み終えてしばらく立っても薄れることのないこの読後感は、一生忘れることがないと確信する。

11 小説「きれぎれに、とぐろまいて」朝見水葉
冒頭、狩猟の話かと思いきや、人が死んでいる。いきなりトップスピードだ。昭和という時代を刻印した物語が突っ走る手記として、怒涛の奔流をなす。
この手記を中心に置き、様々な視点から、時に矛盾した語りを交えるなどして、三次元的あるいは四次元的な中長編小説を構想したらどうなるか。そんな想像を楽しませてもらった。

06 小説「フーシャピンクの中庭」常世田美穂
女性が男性同士の愛を描くことは、それが写実的に、そして緻密に心理描写されればされるほど、現実世界にはない「理想」を描くファンタジーになる。……というのは、まったく個人的な印象にすぎず、これに一般的な妥当性があるかどうかは分からない。分からないながらも自分としては、そのようなファンタジーとしてこのフーシャピンクの物語を読むとき、その空想世界の写実性が、現に自分が高校のときに同級の男子に対して感じた恋心を思い出させるというごく当たり前の事実に、文芸というものの持つ力強さを感じた。
実際にあった出来事を描いたとしても、作者の語りが入る時点ですべてはフィクションになる。そのフィクションを読むことで、読み手の記憶が揺さぶられ、読み手は自分の人生を生き直す機会を与えられる。ネムレヌというアンソロジーが機会を与えてくれなかったならば、出会うことのなかったろう作者とその作品を通じて、過去の再生の糸口をつかむことができるとは、なんとも楽しいことではないか。

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コメント師の皆様、ありがとうございました。どの言葉も読み応えがあってとても面白かったです。人の感受性は実に興味深いですね!

眠れぬ夜のアンソロジーでは「コメント師」様を募集しております!

次回テーマ(NEMURENU38th)の発表

​眠れぬ夜の奇妙なアンソロジーは次回テーマを皆様からの投票で決めております。

画像1

あっ!「招待状」と「自画像」が同数になっています!一位が同数のときには私の恣意で決めることになっておりますが・・・。

恒例の天啓ツールを使いましょう。

今回の天啓は以前にも使用した名前メーカーです。

こんな感じ。「フルネーム生成」ボタンを押すと名前が作られます。今回は「作られた名前」の雰囲気で「招待状」か「自画像」のどちらかにテーマを決定したいと思います。

画像2

それでは「フルネーム生成」!押下!

デタヨ!

画像3


「郷緒太一」
うむ!
ワカラン!
でも郷緒って名字の「郷」は故郷の郷。なんか同窓会とか慶弔っぽい!
ということは・・・

「招待状」・・・かな!

ということで次回テーマは「招待状」に決定です!

眠れぬ夜の奇妙なアンソロジーは皆様からの作品を募集しております。
テーマ「招待状」にちなむ作品をお寄せください。
・新作、過去作問いません。
・自薦、他薦問いません。
・文芸、イラスト、写真、音楽、オールジャンルで参加OKです。
締切は2021年6月末日(頃)です!
ご参加はハッシュタグ「ネムキリスペクト」をご利用ください。
(念の為、本記事コメント欄でも教えて下さい。)
お気軽にご参加ください!

次々回テーマの募集

次次回テーマ(第39集:2021年8月)の候補を募集しております。
下記フォームからご応募ください。
気になるテーマは何度でも。いつかは採用されるかもしれませんよ?

当月もお疲れさまでした。
そして今月もよろしくお願い致します!

#眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー #ネムキリスペクト #小説