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【夜汽車】眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー第33集

眠れぬ夜の奇妙なアンソロジーはnote記事をひとつのテーマで繋ぎます。
文芸、イラスト、写真、音楽のノンジャンル。新作過去作問いません。
自薦他薦問わずのバーリトゥードなバトルロイヤル。本日も混戦しております。

当月のテーマは「夜汽車」
暗夜を走る真黒き匣は不穏の音立てて魂を運びます。
黒に黒を重ねたような夜、或いは情念、の向かう先は。今宵発車の夜行列車は片道切符でございます。皆様お別れは済ませて参りましたか。お忘れ物、心残りはございませんか。それでは出発進行、発車オーライでございます。


夜汽車のアンソロジーはこちらです。


目次


01 写真「7月の色28」詩野
02 紀行「私が旅した国の鉄道」青木弘之
03 小説「夜汽車」数理落語家 自然対数之亭吟遊
04 イラスト「夢の塔と百匹のバク15話」Es
05 朗読「夜汽車の食堂(中原中也)」ひゅうが
06 小説「この血が熱い鉄道ならば」磯貝剛
07 小説「夜行列車」海亀湾館長
08 小説「夜汽車」くにん
09 漫画「寝台列車の怪」MaybeCucumbers
10 エッセイ「LA-LA-LA」平沢たゆ
11 短歌「人はみんな幸せになりたい」水浦詞葉
12小説「雪は降る、夜汽車は進む、月兎夜話」
13 小説「そんなことしたら寂しくて死んでしまう」千本松由季
14 小説「夜伽」虎馬鹿子
15 小説「幻想浪漫逃避行」りりかる
16 漫画「ある夜行という漫画の一部」世良田波波
17 音楽「長いお別れ」あべ


解題


01 写真「7月の色28」詩野

当月も始まりました。眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー解題でございます。
夜汽車の旅は詩野さんの写真から。暗雲の鉄道博物館に並んだ機関車。写真に重厚感があります。良い写真というのは雄弁です。見るものに物語を授けます。
そうですね…例えば…。
その日一日の仕事を終えて、疲れた体を休める機関車たち。まるで今にも喋り出しそうですね。機関車たちが笑いあったり喧嘩したり。坊やで頑張り屋さんの機関車が、頑張ったり失敗するお話とか。坊やの機関車の名前は私の好きな叔父さんの遠山桝次郎から頂いて…。えっ!?そんな話はもう有る?えっ!?版権?

鉄道にそろそろ火が入りますよ。轟音轟音と音立てて鉄輪が動き出しました。


02 紀行「私が旅した国の鉄道」青木弘之

豆本作家の青木さんが世界を旅して回った際の「夜行列車」特集。
何処もかしこも寝台!寝台!
夜汽車の寝台ってワクワクしませんか?しますよね?
私、子供の頃にダンボール箱の中に入ったり、押し入れの中に入るのが好きな子供だったんですけれど、狭い所が好きな性分なんですかね、
もしかして、誰も彼も寝台好きという訳ではないんでしょうか?
「あなたの好きな睡眠場所は?」
1 布団・ベッド
2 ロッキンチェア
3 公園のベンチ
4 テントと寝袋或いはハンモック
5 寝台列車
6 映画館と白昼夢

断然寝台列車です。今はあまり見かけませんがカプセルホテルとか好きです。

青木さんは旅の記録をまとめて豆本を作っておりますが、どの豆本も可愛らしくて素敵です。豆本の表装は現地で入手した布を使う、というのも徹底していて良いですね。つい揃えたくなってしまいます。


03 小説「夜汽車」数理落語家 自然対数之亭吟遊

前回「壁ガム」で寸劇をご披露下さった吟遊さん。次はダーク系に挑戦したいと仰っておりましたが、今回はダーク系な小説でご参加されました。
突如、眼前が夜になってしまった私。目がどうかしてしまったのでしょうか。真実は何処にあるのか、誰もが真実を知っていて、尚且つ私に隠し事をしているようです。
不気味に物語は始まって、不気味に進行し、不気味に終わります。夢の中に微睡むような、この不明瞭さの心地よき事。面白いですねえ。


04 イラスト「夢の塔と百匹のバク15話」Es

ESさんの1枚ずつのイラストで連載された漫画はある日に突然断絶されましたが、このような未完成さが、SNSアートの魅力ですよね。一話目から夢世界。それを侵食するバクたち。バクを追いかけて夢世界を冒険します。
ちなみにこの漫画の主人公の名前は「ネムキ」と云うんですよ。親近感湧きますね。どのイラストも詩的でエネルギーに満ちております。願わくば完結が見たかったものですが、未完の美。これで良いのかもしれません。



05 朗読「夜汽車の食堂(中原中也)」ひゅうが

これはコメント欄に書いた事なのですが、私はこの度の夜汽車のアンソロジー提出作品を書くに当たって夜汽車のはしる「ガタンゴトン」というオノマトペを如何に表現したものか、と悩んでおりました。で、よろしいものも見つからず無難な言葉に終わった気も致します。
はじめ、中原中也のこの詩を読んだときに、「ゴォーッ」と表現された鉄道のオノマトペが何処となく使い古されたような、物足りない印象を受けたのですが、ひゅうがさんの朗読をお聴きすると
「ゴォーッ」という音はなんとも凄まじく、夜のレールに火花を散らして走る夜汽車そのものの音であるかに聞こえました。
ひゅうがさんの朗読は静かに中也の描いた夜汽車の食堂風景を語ります。この食堂もまた夢の中の浮遊感に包まれていて、ひゅうがさんの魔術的な美声によく合います。題材の選び方と言い、朗読される声音の妙と言い、魅力的な作品でした。


06 小説「この血が熱い鉄道ならば」磯貝剛

怪奇恋愛小説「箱」や怪奇電脳絵詞「watcher」で人気を博した磯貝さんの作品です。この度は「夜汽車」をテーマにした書き下ろしです。
「詩」とは言葉と言葉の化学反応。
言葉の組み合わせによって無限の広がりを求める事です。主人公の昔紡いだ言葉たち。その言葉の連環は綺羅星が星座を描く如く、詩藻の火花を散らし闇夜に光ります。
磯貝さんと云えば、作品の完成度の高さからこのアンソロジーの互選でも「出れば入選」の猛者ですが、この度も詩と小説とクリーチャーGIFの複合作品に、或いは其処に秘められた熱情に圧倒的なパワーを感じます。


07 小説「夜行列車」海亀湾館長

夜行に乗った同じ車両にAV女優が同乗している、というシチュエーションから広がる妄想と狂気。
正体不明の熱量を保持しながら、コミカルに物語は進みます。
其処にエッチなお姉さんがいる、というだけで男心はこんなにも掻き乱されるものか、そうですね、乱されますよね。分かりますとも、とても、よく。
前出の磯貝さんの作品は侠気ある熱量を帯びておりましたが、それに負けず劣らず本小説も熱い侠気に満ちております。


08 小説「夜汽車」くにん

くにんさんは二種類いて、ブラックくにんさんとホワイトくにんさんがおりますが、今回はダーク系なブラックくにんさんが登場です。(コミカル系のイエローくにんさんもいるという噂です。他にも探せばいらっしゃるかも知れません。八人のくにんさんと伝説のくにんさん、合わせてくにんのくにんさんが。)
牧歌の村に隠された秘密。人々が平和に暮らすということは難しいものです。疑心暗鬼に囚われて自らの平和を信じられなくなる。其処に犠牲を求める。排除を求める。人間社会の習性を描いた哀しい物語です。


09 漫画「寝台列車の怪」MaybeCucumbers

MaybeCucumbersさんの漫画。前出の「青木さんの世界の寝台列車の写真」にあるように、夜行列車の寝台には、様々の形があります。ここに描かれた寝台も良い寝台ですね。適度に狭くて包容力があります。この漫画の最後のシーンは暗闇の中でETSUさんが跳ね起きるシーンですが、それまでの寝姿とは打って変わり黒に型抜きされた描写に漫画表現の妙を感じます。さすがETSUさんは黒の漫画家。墨色の使い方が玄人です。


10 エッセイ「LA-LA-LA」平沢たゆ

本記事はコメント欄が音楽の話しで盛り上がりました。たゆさんのエッセイはつい「私はねー」と会話を被せたくなります。話題のツボを付いているのでしょうね。
これは中々凄い事で、自分の事ばかり話すエッセイが世の中には多くありますが、「読者が自分の事を話したくなるエッセイ」というのは中々無いものです。聞き上手のエッセイとも呼べますね。最近私が敬愛する恋愛コラムニストの藤崎すみれ先生が「聞き上手にならないと女の子にモテないよ!」って言っていたので私も見習いたい次第でございます。


11 短歌「人はみんな幸せになりたい」水浦詞葉

今回のアンソロジーは新ジャンルに取り組まれた方が多くいらして、例えば磯貝さんの現代詩、そして水浦さんの連作短歌。
この水浦さんの短歌が実に瑞々しい感性に溢れていて良いのです。
ご本人曰く十代の軋轢からの逃避行、を描いたとの事。
私の解釈は「恋を諦める少女の詩」というものでしたが、違いました。諦めることと逃避行だから、感覚的にちょっと似てるかな?
どの短歌も甘酸っぱく胸を打ちます。(甘酸っぱいどころでは無い心痛から発されていた短歌だったらすみません。)口ずさみ何度も鑑賞したくなる名歌です。



12小説「雪は降る、夜汽車は進む、月兎夜話」

わたし。
私の事をおっばいの話ばかり書いている人、と思っている方もいらっしゃるかもしれませんがおっぱいと同じくらい猫とうさぎの話も書いているんですよ!あまりおっぱいの話ばかり書くと女性読者様に見限られると思って最近はおっぱいの話は自粛中です。


13 小説「そんなことしたら寂しくて死んでしまう」千本松由季

このアンソロジーに自ら関わろうとする人は大なり小なり人間性の狂った所がありまして、それぞれの狂気の特質は異なりますが、これらの人達には「あなたは狂ってる」が最大の賛辞だったり致します。え?違うって?私だけ?そうですかそうですか。

このアンソロジーは心の中に闇が無いと見つけられないみたいですよ。

千本松さんもまた硬派に狂気を宿しています。その千本松さんが描く人物もまた狂気を宿している。時に感情模様、時に文法が破綻しつつ狂気は輻輳していきます。このような破綻は表現者に表現者たる気概が無ければ出来ません。

死のうと思って泣いていた女の子がショウウインドウに飾られていたコートの金釦の上に、豆粒サイズの夜汽車が走るのを見てゲラゲラと笑い出す、ハッピーエンディングな恋愛物語。

と、私なりにあらすじをまとめてみましたが、さすが、ですねえ。挑んでおりますね。


14 小説「夜伽」虎馬鹿子

虎馬さんも本企画の互選では入賞率が高い方です。今回の作品は短いですが温度が高い。小説というには激情過ぎて、詩と呼ぶには浪漫過ぎる。温度の塊が突然路上に転がっているような。形式に囚われない熱量の放出です。
古代ギリシアの彫刻家がアポロンの石像を彫ろうとして、旅した果てに美しい石と出会い、会話するように石にノミを打ち始める。その完成の中途にはこの石が、石としての美しさとアポロン神としての美しさの両方を備えた状態、がある訳ですが、ある意味その状態を人は石に非ず、神に非ず怪物の如きものと呼ぶかもしれません。
虎馬さんの作品からはそのような、異才を感じます。


15 小説「幻想浪漫逃避行」りりかる

りりかるさんの小説。りりかるさんも情熱的な技巧で一定ファン層を獲得している方です。聖俗が同居した吐息混じりの小説が魅力です。
仕事として請け負った仮初の恋愛旅行。始まりは夜汽車から。男の心理を獲得しようと追う女。束縛を厭う男。
美、の前に主従が逆転する展開は谷崎潤一郎の刺青を思わせました。官能と純愛、聖人と堕天、エロスとアガペー。人間の手によって分離されてしまった情動が、一体的に渾然となりプリミティブな情熱の坩堝となっています。
前出の虎馬さんの作品も闇夜に蠢く情動が黒蛇となって首締められるような作品でしたが、りりかるさんの作品もまた情動の剃刀に首切られて噴血するような作品です。
夜の黒、罪業の赤の色彩が鮮やかに対比する作品でした。


16 漫画「ある夜行というマンガの一部」世良田波波

魚の夢を見る。夜に降る雨。
雨に穿たれる人はどのような表情を浮かべたものか。雨から逃げ惑う人は死から逃れようとする人にも似ております。降りしきる雨から逃げ惑う人の中に、その雨に穿たれながら恍惚の表情を浮かべる人がいる。死への情動タナトスに魅入られる。
漫画という表現は直截的に情動が表現できますが、それ故に人間存在の機微を捉えられねば成功しえない難しさがあります。
世良田さんの漫画には切り取られた情動の機微があります。なんと美しい漫画でしょう。
夜空を走る銀河鉄道は、タナトスの匣。其れはこのような恍惚の視線の彼方を走っているものに思います。


17 音楽「長いお別れ」あべ

本アンソロジーの最後は既に読者様にはお馴染み、あべさんの素敵な唄声で。
「長いお別れ」
オールディーズなドゥーワップ。あべさんは音楽のみならず、自主映画、漫画、小説、最近は一言コラム(面白いです)と幅広い才能を発揮しております。
音楽ジャンルもフォーク、ロック、歌謡曲と幅広い。博物館、のような方です。今回の曲も見事にオールディーズ感が出ていて、本当に何でもできるな、この人。と、人間の可能性に改めて畏怖する次第です。

夜汽車は何処に向かうのか。
銀河の果ての片道切符。
行った夜汽車は帰らない。
長いお別れ。
でも、またいつか。

当月のアンソロジー、皆様ご参加、ご閲覧ありがとうございました。
今回は参加して下さった方が多くて嬉しかったのと、新しい方向性を模索しようとした意欲作が多かった事に「夜汽車」という詩的言語の存在感、それに感応する皆様の芸術的感性を感じました。
発奮する、楽しいことですね。
競作する、という事もまた楽しい。

虎馬さんの解題の箇所で「美しい石からアポロン神像が削り出される過程の、石でも彫像でもない怪物のようなもの」という訳の分からぬ喩えを出しましたが、私はそのような完成途中の荒削りの、可能性に満ちた作品が好きなんですね。

私自身もこのアンソロジーに提出する作品は完成させることよりも、自分の可能性を見出すこと、魅力的な原石になろうとする事、に重きを置いて作品を作りたいと思いつつ、まあね、結果はね、調子の良い時もあり悪い時もあり、大切なのは気持ちですから。

今月もお疲れ様でした。
長い人生ですから、ゆっくりと。夜空に浮かぶ月魄も満ち欠けがあるから美しいのです。
また来月。
皆様に愛を込めて。

アンソロジーはこちら

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読者投票

恒例の読者投票。
お好きな作品にご投票下さい。
投票締切は2月9日火曜日18時です。




次回テーマのアンケート

次回、眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー第34集のテーマを募集します。こちらの締切も2/9火曜日18時です。


相変わらずテーマ候補が穿っておりますね。「ネコ、死んだネコ、埋めたネコ」とか、誰の発案ですか?一応それぞれに分けましたが、「違う!そうじゃない。三題噺なんだ!」と言いたい方はお申し出下さい。

あとは「黴」とか。此処に集まる方の発案は、もう流石としか言いようがない!

読者アンケート、次回テーマのアンケート、皆様のご参加お待ちしております!