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《 エッセイno.4 》冷たいシャンプー

小心者のわたしには幼い頃から癖がありました。

それは、地震が来るたびに「今度こそ大きいぞ」と思い込むこと。被害のなかったときに安心したいがための習慣でした。


中学校の卒業式。

多感な日々を過ごした校舎や友人との別れに涙し、また「高校生」という新しい肩書きにワクワクしてもいました。

クラス会をしよう、午後にはここに集まろう。自然な流れでそう決まり、わたしたちはまた集まりました。

焼肉屋さん。

「それじゃあ、乾杯!」

火をつけて、肉を焼




グラ…グラグラグラッ

楽しい笑い声は一瞬にして悲鳴と叫き声に変わりました。

「今度こそ大きい」が、本当になったと思いました。

屋外へ避難して、それから雪も、降り始めました。



さっきまでの街並みも、家族の笑顔もなくなりました。

道は波打っていて、

マンホールは小さい子どもくらいに背が伸びて、

玄関は簡単には開きませんでした。


和室に集合し、一本のろうそくを囲んで夜を過ごしました。本当のことが嘘みたいでした。


紙コップや紙皿にラップを巻いて何度か使いました。

湧水を貰いに並びました。

「危ないから子どもは家にいろ」と言われました。


必死、とはまさにこのことかと今思います。

死ぬことが遠くなくなりました。


洗面台に頭をもたげて、母が髪を洗おうと言いました。

美容室みたい、とはしゃぎました。

冷たかったです。


なぜか、忘れられない温度です。





もう11年、と思いますか。まだ11年、と思いますか。

変わったことがたくさんあります。

わたしも大人になりました。


それでもかなしいものは、いつまで経ってもかなしいものです。


追記:昨年ラジオで話していた記録がありました。リンクを添えておきます。



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