《 文章 》冷たいシャンプー
小心者のわたしには幼い頃から癖がありました。
それは、地震が来るたびに「今度こそ大きいぞ」と思い込むこと。被害のなかったときに安心したいがための習慣でした。
中学校の卒業式。
多感な日々を過ごした校舎や友人との別れに涙し、また「高校生」という新しい肩書きにワクワクしてもいました。
クラス会をしよう、午後にはここに集まろう。自然な流れでそう決まり、わたしたちはまた集まりました。
焼肉屋さん。
「それじゃあ、乾杯!」
火をつけて、肉を焼
グラ…グラグラグラッ
楽しい笑い声は一瞬にして悲鳴と叫き声に変わりました。
「今度こそ大きい」が、本当になったと思いました。
屋外へ避難して、それから雪も、降り始めました。
さっきまでの街並みも、家族の笑顔もなくなりました。
道は波打っていて、
マンホールは小さい子どもくらいに背が伸びて、
玄関は簡単には開きませんでした。
和室に集合し、一本のろうそくを囲んで夜を過ごしました。本当のことが嘘みたいでした。
紙コップや紙皿にラップを巻いて何度か使いました。
湧水を貰いに並びました。
「危ないから子どもは家にいろ」と言われました。
必死、とはまさにこのことかと今思います。
死ぬことが遠くなくなりました。
洗面台に頭をもたげて、母が髪を洗おうと言いました。
美容室みたい、とはしゃぎました。
冷たかったです。
なぜか、忘れられない温度です。
もう11年、と思いますか。まだ11年、と思いますか。
変わったことがたくさんあります。
わたしも大人になりました。
それでもかなしいものは、いつまで経ってもかなしいものです。
追記:昨年ラジオで話していた記録がありました。リンクを添えておきます。
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