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かさぶた

かさぶたになり掛けの
半乾きの傷口。

濃紫色の荒廃したハート型
双曲線の先端が
ボロボロと剥がれ落ちても
痛みすら感じやしなかった。


目の前を日常が平然と
過ぎ去って、
何時もの暮らしに
呆然と乗って、

巻き起こした事件から
遠ざかっていたんだ。

何かが足らない心を
踏み潰しながら暮らしている。

絶対的な忘れ物。

目を背け、
耳を塞ぎ、
心をガン無視するから
俺は生きていられるんだ。

痛いなんて感じ始めたら
切りがない。

底なんて見えやしない。

少しでもそっちに
気持ちを向けたら、
立ち直れなくなるのを
感じてた。

じゅくじゅくして
生乾きの血の匂いがする
汚い傷口から
目を反らし、
生き抜いて行こうとしてる。

自分だけが。




その女の屍には、
身体がなかった。

俺はそう記憶する。

笑顔がひときわ輝き、
拗ねる顔、
無心に話す顔や寝顔。
食べている時の唇の動き。
睨む時の眼差し。

終わった後の
穏やかな涅槃の表情。

その全ての記憶には、
首から下の身体は
甦りはしない。



そんなもんなんだ。



女に残された思い出の中には、
きっと、今頃は、
俺の傷跡すら残されては
いないのだろう。



そんなもんなんだ。




生乾きのかさぶたは、
その女の無邪気な悪戯で
何度も剥がされては、
治る事なく
いつまでも痛みを伴い
化膿し続ける。



男なんて生き物は、
そんなもんなんだ。



剥がれ落ちた
ハートの欠片を
草花を摘み取るかのように
ニコニコと拾い集めては、
笑顔で差し出し、
忘れる事を許さない。


治癒することを許さない。



男の傷なんて、

そんなもんなんだ。

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