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ラーメンを食らう旅へ行く(1)

こんなに危ない時に、わざわざ空港を経由して遠くへ行くなんて、自分でも馬鹿げていると思う。けれど、ここで行かないと自分がダメになってしまう感触があった。

そう感じざるを得ないほど、僕の中で、見知らぬ土地に行くということは、アイデンティティの一部を構成する要素なのだ。

時間の都合も、金銭の都合も、仕事の都合も。いろいろなことを日々考える中で、自分自身の快楽を後回しにするのは、そろそろ限界だった。

コロナウィルスにかかるのが先か
メンタルがやられて病んでしまうのが先か

そう追い詰められているフリをして、いや、ほんとうに追い詰められているのかもしれないが、ともかく、僕は決めた旅を実行に移すことにしたのだった。

始発に乗って羽田へ

朝だ。

寝ぼけているので、念の為乗換案内で時刻表を確認する。

始発の時間なんて暗記していたはずだが、実家にいる時の時間で覚えていたので、思ったより10分早い。
危うく初っぱなから躓くところだった。寝起きは本当にマズい。

もちろん、朝の自分の使えなさは分かっているので、着替えも鞄もほぼ用意して床に着いていた。いそいそと支度をして家を出る。

嫁は分かってはくれているが、心配をかけているのは間違いない。多くのところでいい旦那だと勝手に自覚しているが、こう心配をかけがちなところはダメな夫である。

第一ターミナルの降り口は後ろだが、スイッチバックをするので前に乗れば、と、どうでもいいことを考えながら歩く。

普段とは違い、時間にかなり余裕があるので、コンビニに寄り、朝ごはんと飲み物を調達し、電車に乗る。いつもの4列シートの電車に、ちゃんと座れた。

当たり前だけど、コンビニが24時間営業をしてるからには、早朝、いや前夜から通しで働いている人がいる。
世の中にあるコンビニや、公共交通機関、電気ガス水道、介護施設や病院など、多くのところで夜通し働いている人が居るのだと思うと、感謝の気持ちしかない。

そんなことを考えているうちに、日の出町のカーブを曲がる音がした。京急は、主要な駅に着く前に必ず急カーブがある。

今日は通らないが、北品川〜品川間は、もともと北品川がターミナルだったところを、東京市電への乗り入れなど紆余曲折を経て今の形に落ち着いたものだ。線路も、歴史も、紆余曲折である。

黄金町〜日の出町間と、戸部〜横浜間は、黄金町が湘南電気鉄道のターミナルだったところ、横浜駅まで来ていた京浜電気鉄道との相互乗り入れのために、トンネルを掘って無理やりつなげた格好だ。

さらに言えば、もともと桜木町から黄金町付近を経て井土ヶ谷までは、また別の計画があって、比較的真っ直ぐに線路が引かれていて、その証拠に弘明寺〜井土ヶ谷には大カーブがあるし、日の出町付近から桜木町付近には、線路用地と思しき細長い区割りが残っている。

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そんなわけで、カーブを曲がる音がすると、「そろそろ降りる駅だ」と思わせてくれる。大学に通っている頃は、居眠りしていても、その音で気づいて起きたものだ。

そうこうしているうちに、いつの間にかスイッチバックして逆向きに走っている。まもなく、羽田空港だ。

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