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パタン・ランゲージ#96 階数

クリストファー・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』を活用すべく、まとめ直しつつ、学び直ししています。パタンランゲージについては、以前の記事に記しています。

「パタン・ランゲージ#00 活用のすすめ」
「パタン・ランゲージ#253自分を語る小物

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今日のお題は、#96「階数」です。「#95 複合建物」につづき、建物の全体構成に関わるパターンです。

#95複合建物は、


決して「一枚岩」のような建物をつくってはいけない。小さな建物の集まりにしたり、大きなボリュームを分節したりして、人間的なスケールをつくる。

ということを示すパターンでした。では、その複合建物を何階建てでつくればよいか、という定義を示すこのパターン「階数」には、より上位のパターンとして「4階建の制限(#21)」があり、これに拘束されることを前提に、以下の3つのルールが示されています。

規則1 敷地に4階建ての高さ制限をかぶせる
規則2 いかなる敷地でも、建物の投影面積が50%を超えない
    = 少なくとも、敷地の半分は空地として残す
規則3 周囲の建物たちからあまりかけ離れた高さにはしない
    = 隣接建物とほぼ同じ高さにする


規則1.4階建の制限とは

ここで、簡単に規則1の「4階建の制限」についてふれておきましょう。
このパターンは、パタン・ランゲージのはじまりに近い21番目のパターンです。94番までは、町やコミュニティに関する定義であり、「地域環境の質を規制するコミュニティ政策や近隣政策」がおおきく担う部分です。

私がはじめて「4階建の制限」というパターン名を見たときは、街並みや景観上の点から4階建てに抑えるべきだ、という意味合いかと思っていましたが、アレグザンダーの主張は、景観よりもむしろ、人間が心身ともに、また社会的にも健康に暮らすには、4階建て以下の低層の暮らしがふさわしい、という主旨のものでした。

「4階建の制限」のページは、

高層建物が、人間をおかしくするという証拠は山ほどある

という(ディベロッパーへの)宣戦布告のような厳しい言葉で始まり、そして、次から次へと畳みかけるように、医学者や建築家の論文を引用しつつ、高層建物が人にもたらすデメリットが語られます。

いずれも60年代~70年代に発表されたのものですので、およそ半世紀を経た今、それらの指摘が実際のところはどうだったのか、私にはわかりません。が、今なお高層化の人や暮らし方への影響は興味関心を持たれており、例えば「高層マンション 健康」で検索をすると、賛否両論の意見がさまざま、見られます。

私自身は、地面に近い低層階でしか暮らしたことがなく、たまに訪れるタワーマンションでは、高さや規模の大きさに慣れることができず、居心地の悪さを感じています。

人が健康で暮らすための指針として定義されたこの「4階建の制限」が、今回の取り上げた、より具体的に建物を考える際のパターン「階数」へとつながっているということにご留意ください。


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規則2.敷地の半分は空地として残す

規則2は、建築基準法での、建ぺい率という考え方と同様ですね。敷地に対して建物は50%に抑えるべきであるという定義です。

建築基準法においても、住宅街の建ぺい率は50~60%の制限であることがほとんどです。ただし、建ぺい率50%としても、実際のところは、もともと小さな敷地での50%ですから、その住宅街を歩いても、「半分は空地」という感覚を体感するのは難しいかもしれません。小さな敷地では、建物の周りに敷地境界線からの空きをとり、駐車場をつくるとそれで半分。という例も珍しくありません。

あわせて、容積率(敷地面積に対する床面積の割合)につていも「敷地面積の2倍(200%)まで」という数字を提示しています。建ぺい率が50%とすると、4階建てで200%になるというわけです。

都市部では、なかなか実現しにくい面もありますが、空地として残る敷地の一部をどう使うか、ということが大切です。先に述べたように、ガレージのみで終わってしまうのは、街並みとしても、暮らしの在り様としても、もったいない。「#105 南向きの屋外」や「#171 木のある場所」といったパターンを参考に、生き生きとした空地に仕立て上げていく必要があります。


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規則3.隣接建物とほぼ同じ高さにする

建物の高さについても、建築基準法で数値による制限が定められています。よって、エリアごとにだいたい同じ高さの建物が建つわけですが、住む人の良心というか、近隣への配慮はやはり必要だと思います。

太陽光発電が広まった折、とても嫌だなぁと思った家の形があります。太陽光パネルの効率と、搭載できる面積(つまり発電量)を最優先で考えられたことがあからさまな家の形です。屋根が南から北に向かって、ドーンと30度の大きな片流れとなるような家が目につくことがありました。

その家の人にとっては、働き者の屋根として最適なカタチかもしれませんが、その北側に住む人にとっては、2階建てなのにまるで3階建てのような壁面がそこにあるわけです。北側の高さを制限する「北側斜線」というルールがありますので、日照権を脅かすわけではありませんが、見た目の違和感を感じてしまいます。

たまたま目にした街が、新しい大型分譲地で、外構など未完成な部分が多かったから余計に唐突にみえたのかもしれません。加えて、「階数」の下位パターンであり、細部設計に入る前に考えるべきパターン「#205 生活空間にしたがう構造」感じられない形態だったこともあるでしょう。
生活空間というよりも、ソーラーシステムに従う構造が際立っていたことが、違和感の原因だったのだと思います。


こちらがもともとの姿なのだけど


また、規則3を見て思い出したのは、こちらの風景です。中央に、神田小川町に残る戦前からの建物「優美堂」という額装屋さんの建物があります。木造2階建て。

優美堂

スポーツ用品店が並ぶ通りに、そこだけポツンと2階建てのまま残っています。お店の方は、近年締めっぱなしだったところ、2020年~2021年にかけてのアートイベント「東京ビエンナーレ」のプロジェクトのひとつとして、再生される活動がスタートしました。(私もおそうじ隊で参加しています)

上のリンクのサムネイル写真が、もともとの2階建ての街並みです。いまの風景だと、優美堂ひとりが見下ろされてしまっているけれど、もともとの姿は、こちらだったのですよね。
この風景に「周囲の建物とかけ離れた高さが生まれだした」のはいつ頃のことだったのか、どこがはじまりだったのか、その変化の様子に興味がわいてくるのでした。


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村上有紀(ムラカミユキ) 

楽しい住宅設計を仕事にしています。
もちろん、設計依頼をお受けしていますが(大歓迎!)、お施主さん(住む人)にとっても、間取りをつくるプロセスと学びは楽しいぞ!ということで、間取り好きで、自分で間取りをつくるエネルギーのあるお施主さんへのメッセージを配信しています。「パタン・ダンゲージ」については、こちらの記事↓「パタン・ランゲージ#00 活用のすすめ」をご覧ください。








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