都市の未来は、測ることから。
1995年の阪神淡路大震災までの神戸は、バブル経済崩壊の実感もまだ乏しく、都市の未来像は比較的シンプルに明るく描かれていました。全国どこでも、都市によって多少の時間差はあるにしても、未来のイメージを共有しやすい時代が確かにあったことを懐かしく思い出します。
例えば、工業用地の確保、人口増、市税収入などが言わずもがなの目標として共有されていて、地方自治体は都市空間を開発していった時代。経済企画庁がつくった全国総合開発計画がこれからも妥当かどうかなんてことが、そのころはまだ議論されていました。
「失われた20年」と呼ばれる時期が過ぎ、遅すぎた金融緩和によって世界の成長軌道をまたフォローしはじめた昨今、気がついてみると、都市がめざす未来像が見えにくい時代が来ていました。
もちろん、教育や福祉の充実、人口水準の維持、市街地再開発、クリエイティブ産業の誘致などの主要施策メニューは、どこの都市も似たようなものかもしれません。しかしながら、その主要施策に予算をバランスよく配分した先にめざす都市像が共有されているケースはまれです。ビジョンを強く訴える候補者が首長選挙で勝ったからといって、市民がそのビジョンを共有したことにはならないのです。
そんな今、まっさきに必要なのは都市の実際の姿を共有することです。実態が広く理解されてはじめて、共通の未来像を描くこと可能になります。測りごとは図りごと、なのです。
ニューヨーク市公園局がまとめた街路樹マップはその好例です。
市域の全ての街路樹を、市民の力で1本ずつ調べ、樹種やCO2の吸収量やヒートアイランド現象の抑止力などを調査した市民の名前と一緒にプロットしている膨大なデータを、ウェブ上に公開された街路樹マップから見て取ることができます。
調査前のニューヨーク市公園局にかかってくる電話は、日本の地方自治体の公園担当部署と同じく、街路樹の剪定や落ち葉掃除についてのクレームがほとんどだったそうですが、調査後は前向きな電話が多くを占めるように変わっていったそうです。いわば、市民と一緒に調査することが、実態の共有を経て、将来像の共有へと進むための足場になっているのです。
これは決して街路樹だけの話ではありません。幅広く市民に依頼して、路上に滞在している人の数、開放的なファサードなど、多様な空間的データを取得することは、ICT技術を使うことによって手軽で楽しい体験へと変化させることができます。
未来像を共有するためには、「①情報の交換」、「②意見の交換」、「③感覚の共有」、「④意図の共有」といった4段階を順番に経る必要があります。U理論など、ソーシャルイノベーションに関連する論考に頻出する考えかたですが、一緒に調査するという行為が自然に①~④のプロセスをなぞっているのかもしれません。
(このことを使うと、政策コンセンサスをつくりたい主体は、必要なデータ測定と統合発信のプラットフォームをウェブ上につくり、市民が測るように促すことによって、強力な意見表明ができる可能性があり得ます。測りごとは謀りごと、ともなるのです。)
民間企業も行政も、経営は測るところからはじまります。実態を測るところから市民が協働することによって、自ずと未来像の共有へつながっていくことを期待しています。
参考文献:「U理論」C・オットー・シャーマー著
写真 :2018年東遊園地ガイドツアー測る編より