見出し画像

なぜイショケンは面白いのか


第65期イショケン卒展(多治見市陶磁器意匠研究所卒業制作展)へ行ってきました
卒展は毎年の楽しみです。


ギャラリーの方々に来て欲しい


卒展ではまだ卵のままの作品や孵化したばかりの作品が並んでいます。
ここから成長していく姿を見届けるのは楽しいです。
松本クラフトフェアが甲子園だとしたら
卒展は中学野球から追いかけるようなもの。
instagramやクラフトフェアで簡単に作家を見つけられる時代ですが
ギャラリーの方々は卒展から追いかけ、応援し、見届けた方がコスパいいのにといつも思います。

社会の荒波に揉まれると確実に直面することがお金を稼いで生きていくこと
instagramですぐに見つけてくださるので食べていきやすい時代です。
でも本当にそれでいいの?
食べていくことが目的なの?
イショケン時代のただ表現したかったはずの陶芸がいつの間にか
instagramの向こう側の誰かに
クラフトフェアで売れるものに
個展で売れるものに
みんなからいいねって言ってもらえるものばかり作っていることに気付くのです。
あの人もこの人もみんな評判ばかり気にして作っています。
(自分含め)
だから卒展が面白い!
まだそんな荒波に揉まれていないから面白い。
今期の方々はすでに活躍されている方が多い印象でしたが。

なぜイショケンは面白いのか

いい意味で何も教えてくれないから面白いのだと思います。
一通り成形、型制作、絵付けなどさらっと学びますがほとんどなにも教えてくれません。
つまり受動的に2年間を送ったら何も得られない
自分で掴もうと思えばなんでも転がっているのが美濃という場所であり、その入り口がイショケンです。


最初の授業はまず土を握る授業からはじまります。
握った土から生まれる塊。
その中から良いと思うものを探す作業
結局は全てこの繰り返しです
自分の手から生まれるカップ、ポット、オブジェ
なんでも同じ
良いと思う気持ちはなんなのか自問自答します
その今の自分だけを信じて制作する
先生はただ「どう思う?」と投げかけてくるだけです。
そして歳の近い同級生たちの感性に触れ刺激を受け、
自分の個性とは何かを探すのです。

今ある環境を生かせない人間は
すぐに言い訳を見つける

私は50期です。15年前に卒業しました
沖縄で5年弟子をしてからの学校という異例のコースだそうですが
私にはそれが良かった。
工房仕事で凝り固まった脳みそを学校でぐにゃぐにゃに揉みほぐされました。
今のぐにゃぐにゃな柔軟性はそこで養われたと思います
沖縄で修行してそのまま独立したら職人的な工房仕事を続けていたかもしれません。

2年間の学校生活の1年目、工房仕事をしていた癖や凝り固まった考えを捨てられず苦しみました。
うまく焼けないのは電気窯のせい、土のせいにして薪窯で焼けば良いものが焼けると逃げていた時期もありました。
先生から民藝批判されたことは辛かった。イショケンに来た事を後悔しました。
(今でもその先生は苦手。。)
学校へ行く回数も減り薪窯を手伝ったり賃びき(ろくろで素地を作るバイト)をしたり。
それまで5年間やってきた民藝を捨てるのが怖かった
捨ててしまったら今まで積み重ねてきた技術が無駄になってしまうと。

そんな苦しんでいた時、とある陶芸家の方から言われました
「薪窯で焼けば良いものが焼けるのかい?それは間違いだ。今ある環境を生かしきれない人間は何をしてもすぐに言い訳を見つける。今の君には薪窯で焼いても良いものは作れない」
刺さりました。
言い訳ばかりしていたなぁ。。
そこから今できることをしてみようと気持ちを切り替え
新しい挑戦として磁器土を触ったりオブジェにも挑戦しました
そしたら楽しかった。
沖縄の土が扱い辛い土だったので、白磁の扱い辛さはさほど気にならなかったし
オブジェも土がそうなりたい方向にただ導けば良いだけで、
そこに用途を持たせようとしなければ自ずと形になってくることを学びました。
そして捨てたと思っていたものは
心の引き出しに入っていたり、染み込んでいて滲み出てしまう。
それまでに培った経験なんてちっぽけなこと。
それまでの外部からの情報を遮断し
毎回孤独なところに自分を追い込む作業が必要
一人ぼっちになるためのスタートラインは何度もやってくる。
孤独に慣れれば新しい挑戦をすることは怖くなくなります。


イショケンが捨てたもの


イショケンは素晴らしい学校です
社会から隔離されユートピアな環境で制作できる良さはありますが
多治見市立ということもあり
ビジネスと結びつける力が弱い
個人個人の感性だけに頼る弱肉強食な作家を養成するスタイルをとっているのに
ビジネスとの結びつきが弱いのは残念。
そして産業との結びつきも弱まっている。

実際産地に根差してみて、この産地のポテンシャルの高さには驚くばかり
現場に学びの全てが詰まっています
5年ひたすら弟子して学校に来て思ったことは
学校は圧倒的に手を動かす作業が少ない
結局手を動かして体験したことしか体には残りません
頭で考えていたら手は動かない
手を動かす仕事をするなら
若いうちに圧倒的な仕事量をこなすことが必要だと思います。
圧倒的な仕事をこなせるスキルが身につくと
とりあえず形にしてみてからブラッシュアップするスピードが増します
イショケン生には圧倒的にそれが足りない

頭でっかちになってもいけないし
手を動かすときは考えてはいけないし
そのバランスが取れると本当は良いのでしょうね
現場体験コースを設立するなりしたらバランス取れるかもしれません
それぞれの生徒に、よりマッチングしたコースが増えてもいいと思います


全員が作家に向いているとは限らない

職人向きの方には辛い学校です
今回の卒展でも職人向きな人も何名かいました
もしかしたら素地屋で活躍するかもしれないし、
型屋で実力を発揮するかもしれない。
作家が全てではない。
作家、メーカーは矢面に立たされてずっとストレスにさらされます
職人向きな人はそこをサポートする一歩下がった立場になった方が実力を発揮します

正直な話今は下請けの会社が一番儲かっています。
今なら下請け会社で働きガンガン稼ぐのもありですよ。
下請けは会社が減っているので競争が減っています
なので物価高騰する中で価格転嫁しやすい。
値上げしても素地、釉薬、型は作らないと先に進まないので。
その点メーカー、窯元は価格転嫁がうまくいっていないところが多い。
販売出口に近くなればなるほど価格転嫁が怖いのです。


もしここまで読んでくれた学生の方がいたら
気軽に連絡ください
そして週一でいいのでバイトに来てください
勧誘かい😅






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?