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わざわざありがとう。がなくなる世界

最近(ようやく)、ヴァイオレット・エヴァーガーデンをみました。
手間をかけて手紙を書く。そこに想いが乗り、受け手だけでなく、それを届ける人をも変えていく。とても感動するストーリーでした。

「人の想いは手間によって伝わる」
ふと、8年前にパリでお会いしたSさんの言葉を思い出し、
改めて記事にしたいと思いました。

Sさんは、国内でアートやデザインに関する仕事に携わった後、パリにて"折形"を用いたラグジュアリーブランド「MIWA 」を設立された方。
世界一周中にご縁がありお話をお伺いすることができました。

折形とは?

折形。あまり聞きなれない言葉です。
簡単に言ってしまうと、プレゼントの"包装"のことです。

MIWAは会員制のサービスで、神道式のティーセレモニーに参加したり、贈りものを持参することで、和紙による伝統的な折形で包装してもらうことができるものです。
(下記はティーセレモニーの写真)

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最初に聞いたときは度肝を抜かれました。
わざわざパリに来て、"包装"のビジネスを手がけているのです。
え?お客さん来るの?とも思いましたが(来るそうですw)、
それよりも、なぜ折形を提供しようと思ったのか?がとても気になりました。

"手間をかける文化 "を残したい

なぜ折形なのか。私からの問いに、Sさんは語りはじめます。

日本人には、ある人から贈りものをもらったとき、
送り手が、それを選び、購入したときの考えや気持ちまで遡って、
裏にある"ストーリー"に思いを巡らせる文化があります。
私はこの文化を残したい。

確かに日本には、人からプレゼントをもらったときに、
わざわざすみません。」「大変だったでしょう。」とか、
逆に、「すぐそこで買ったものだわ~。」「出来あいのものね。。」
なんてやりとりがあるのは、そうした文化の現れでしょう。

Sさんは続けます。

しかし、最近はAmazonに代表されるように、なんでも1clickで買え、
包装もしてもらえ、それが翌日には手元にくる時代。
それはそれで便利ですが、
"敢えて、究極に無駄なことをやる。儀式の復活によって想いを伝える"
それによって伝わる想いがあると信じているのです。

その"究極に無駄な儀式"として、Sさんが選んだのが折形なのです。

海外に日本文化を"避難させる"

確かに、上記のような日本文化は残したいなと思う一方、
海外に日本文化を広める前に、日本で消えつつある文化を守るべきでは?と聞くと、

こんなことは言いたくないが、日本はこのまま行くとダメになると思う。
その前に、職人と海外をつなぐことで、日本の文化を避難させたい。

フランスは、他国に比べて多様性を受け入れる懐の深さがある。
米国に住んでいたこともあるが、米国は、"アメリカ人"になることを強要される。フランスは、そのまま日本人でも大丈夫。
着物を着て歩いていても、アメリカでは視線が痛いが、ここでは平気。

日本ではダメだというのは少し残念な気がしました。
逆に自国だけでなく、他国の文化の逃げ先として考えられるフランスはすごい。

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(余談) 写真は、わざわざ檜を全て日本から運び、数寄屋大工さんに建ててもらったお店。ちなみに、当時のMIWAのお客さんは、異文化を知りたいと思って来る貴族階級の人。或いは、思考のヒントを探しにくるクリエイティブ職の人がほとんどなのだとか。

既に"わざわざ"のよさを知る我々が砦

会員制をとっていることからもわかる通り、Sさんは数の普及を目的にしていません。

例えば、書のよさは言葉では言い表せないし、伝えるのに時間がかかる。
みんながわかるのは無理だし、本来はわかるものではなくて、感じるもの。
時間をかけて伝え、何かを感じた人から、徐々に外側に広がっていけばいい。

よさを伝えるのは大変ですが、失うのはあっと言う間です。
なくなった後に気づいても後の祭りです。

Sさんは文化の海外避難に動いていますが、
"わざわざ"のよさを知る我々が、国内最後の砦なのではないでしょうか。

年賀状やお中元など、古くからの習慣や儀礼は
SNSやECが普及するにつれて簡略化され、なくなってきています。
私は、無意味な慣習はなくなればいいと思っていますが、
反面失うものが何かを考えなければいけません。

時間をかけることは、命をかけること。
それ以上に想いを表現する方法はないのかもしれません。

「わざわざありがとう。」

対面で会う機会が減る今だからこそ、大切な人に手間をかけて想いを伝えてみてはいかがでしょうか。


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